メルセデス・ベンツE300アバンギャルド スポーツ(FR/9AT)
シンプルに 若々しく 2019.09.12 試乗記 メルセデス・ベンツの基幹モデル「Eクラス」に、新グレード「E300アバンギャルド スポーツ」が登場。高出力の2リッターターボエンジンと軽快なフットワークが実現する、スポーティーでありながらも洗練された走りをリポートする。40km/hを超えると乗り心地が変わる
2019年3月に国内への追加モデルとして発表されたE300アバンギャルド スポーツの納車が6月から始まっている。従来の「E250アバンギャルド スポーツ」の最高出力を211PSから258PSに、最大トルクを350N・mから370N・mにアップして動力性能に磨きをかけた、スポーティーで若々しいEクラスである。
アバンギャルド スポーツというのはようするにAMGルックのことで、E300もまた19インチの超イケてるAMG 5本スポークアルミホイールを標準装備する。ただし、カッコイイというのは往々にしてマイナス面を伴う。ネクタイはカッコイイけれど、首が苦しいし、女性の場合、ハイヒールはステキだけれど、#KuTooのタネとなるのはご存じの通り。走りだした途端、こいつは硬い! と思わせる。タイヤサイズは前245/40R19、後ろ275/35R19という、スポーツカーもかくやの前後異サイズの極太低偏平で、しかもランフラットなのだ。
ところが、速度が40km/hにも達すると、「アジリティーコントロールサスペンション」と呼ばれるEクラスのスタンダードというべき可変ダンピング付きのサスペンションが、驚くべきスムーズさでもって、路面からのショックをショックと感じさせない神対応でいなしてしまう。たとえ、田舎の荒れた路面であろうと、である。
可変ダンパーは「セレクティブダンピングシステム」を名乗る。「ダイナミックセレクト」という名称のドライビングモードはもっぱら「コンフォート」を選んで筆者は試乗していたけれど、まるでタイヤが路面に吸い付いているかのごとくに、このダンパーがものすごく滑らかに動いている。
もちろん、単にダンパーの出来がいいというだけではなくて、前4リンク、後ろマルチリンクのジオメトリー、それにボディーのしっかり感があってのことである。全体の印象として、分厚いゴムをつけている感がない。極薄スキンレスで、路面とじかにコンタクトしつつ、快適な乗り心地を実現している。おそらく4気筒エンジンで鼻先が軽いことも、よい方向に働いている。そもそもピッチングが発生しにくい。足まわりとボディーの一体感が半端なくイイのだ。
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洗練されたドッカンターボ
というように第一印象は乗り心地に感銘を受けたわけだったけれど、E300の最大の注目ポイントは、前述したごとくにパワーアップしたM264型ユニットにある。正直に申し上げて、ごめんなさい、筆者は前モデルのE250に乗っていないので、ここでは単体としての印象に限定させていただきますけれど、この4気筒直噴ターボは、最高出力258PSを5800-6100rpmで、最大トルク370N・mを1800-4000rpmで生み出す。E250時代に比べると、300rpmほど高回転型になっている。
排気量1991ccで258PSだから、リッター当たり129PSというハイチューンユニットである。一例をあげれば、バイエルンのエンジン製造会社の「530i」の4気筒ターボは、1998ccで252PSだから、リッター当たり126PSということになる。
かように高回転チューンの2リッター直噴ターボに「9Gトロニック」なる9段オートマチックを組み合わせている。100km/h巡航は1500rpmにすぎない。ということは、そこからでは最大トルクは引き出せない。なので、アクセルを踏み込むと9Gトロニックが瞬時にギアを落としてエンジン回転を上げ、同時にツインスクロールターボチャージャーが働き始める。2000rpmを超えたあたりからトルクがブワッと一気呵成(かせい)に盛り上がる気配がある。
つまり、いわゆるドッカンターボ型なわけだ。実際のパワーカーブはどうか知らないけど、ボクの体感的にはドッカンなのである。けれど、そのドッカンに洗練がある。てことは「ドッカンターボではない」と筆者は主張したいのであるな、と読者諸兄姉は思われるかもしれないけれど、そうではない。洗練されたドッカンなのだ。洗練されているから、気持ちがイイ。スムーズにしてキレのある、軽快かつ爽快な加速を味わわせてくれる。
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シンプルでコンベンショナルなところがいい
「コンフォート」モードでも乗り心地がやや硬めであることは高速巡航でも変わらない。逆に、やや硬めだからこそのキビキビ感、別のことばでいうとスポーティヴネスを感じさせる。
高速時にはステアリングがやや重くなるのは、電動パワーステアリングの設定によるものだけれど、これが同時に絶大なる安心感につながっている。今回、山道は試していないけれど、フツーに走っていてステアリングにもキレがある。これこそアジリティーコントロールサスペンションの真骨頂だろう。
それと、E300のアバンギャルド スポーツではフロントのブレーキが「ドリルドベンチレーテッドディスク」に格上げされる。見栄えがよいだけでなくて、強力な制動力でもって、これまた絶大なる安心感と自信を与えてくれる。
価格は814万円から855万円へと、40万円もお高くなっているのだけれど、最高出力は47PSも上がっている。パワーとは、マネーである。「BMW 530i Mスポーツ」が252PS、350N・mで841万円だからして、ガチンコなわけだ。でもって、もしもホンモノのAMGのEが欲しいとなると、「E53 4MATIC」から始まるそれは1226万円もする。3リッター直6+ISG(マイルドハイブリッド)で、435PS、520N・mの4WDというモンスターな性能はいらない、というかた向きの一台で、4気筒だからこその軽快感と爽快感が得られるのはこれまで述べてきた通りである。ブラックアッシュウッドとサドルブラン/ブラックのナッパレザーの内装もステキだ。
以下は個人的感懐である。なにがいいって、電動化と無縁のところがイイ。48Vのマイルドハイブリッドでもなければ、プラグインハイブリッドでもない。その分、シンプルで軽い。ピュア内燃機関で、本当はAMGルックの19インチではなくて、もっと控えめなサイズの、昔ながらのメルセデス・ベンツ伝統のグリルの、日本市場では3リッターV6ターボの「E450 4MATICエクスクルーシブ」にしかないあの顔がいいんだけどなぁ……。もっとも、こういうのは筆者の懐古趣味にすぎぬ。かつてないほどヤング・アト・ハートに転じている現行W213型は、21世紀の、老け込んでいない、おっさんずEクラスなのである。
(文=今尾直樹/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
メルセデス・ベンツE300アバンギャルド スポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4923×1852×1460mm
ホイールベース:2939mm
車重:1780kg(車検証記載値)
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:258PS(190kW)/5800-6100rpm
最大トルク:370N・m(37.8kgf・m)/1800-4000rpm
タイヤ:(前)245/40R19 98Y/(後)275/35R19 100Y(ミシュラン・プライマシー3 ZP)
燃費:12.0km/リッター(WLTCモード)
価格:855万円/テスト車=912万8800円
オプション装備:メタリックペイント(9万3000円)/エクスクルーシブパッケージ(17万4000円)/パノラミックスライディングルーフ<挟み込み防止機能付き>(22万円) ※以下、販売店オプション フロアマットプレミアム(9万1800円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:867km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:191.0km
使用燃料:21.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:9.1km/リッター(満タン法)/8.4km/リッター(車載燃費計計測値)
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今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。