第7戦カナダGP「何かが起こるモントリオール」【F1 2011 続報】
2011.06.13 自動車ニュース【F1 2011 続報】第7戦カナダGP「何かが起こるモントリオール」
2011年6月12日、モントリオールのジル・ビルヌーブ・サーキットで行われたF1世界選手権第7戦カナダGP。5度のセーフティカー出動、約2時間におよぶ赤旗中断、雨がもたらした波乱のレースは、接触やペナルティで6回もピットに駆け込んだジェンソン・バトンが、ほぼ勝利を手中に収めていたセバスチャン・ベッテルを最終周に下して優勝した。
■初優勝に大クラッシュ、そして波乱
F1カレンダー中唯一の北米ラウンド、カナダGPの舞台であるジル・ビルヌーブ・サーキットは、モントリオール中心地に位置する世界的にも珍しい大都市型サーキットであり、毎年熱狂的な観客が多くつめかけることで有名だ。
セントローレンス川の中州の公園を利用した1周4.361kmの短いコースは、大ざっぱに言えば2本の直線をヘアピンとシケインでつなげたストップ&ゴーを繰り返すサーキット。ガードレールや壁も近く、ちょっとした事故でセーフティカーが呼ばれることでも知られている。
そのモントリオールは、多くのドライバーにとって思い出の地でもある。古くはこのコース初開催で自身初勝利を飾った地元の英雄、ジル・ビルヌーブ(1978年)にはじまり、ティエリー・ブーツェン(1989年)、ジャン・アレジ(1995年)、ルイス・ハミルトン(2007年)、ロバート・クビサ(2008年)らが初めて勝利の美酒に酔った場所でもあり、現在けがで療養中のクビサにとっては、2007年の大クラッシュをはねのけ、翌年にはBMWザウバーへ初めてにして唯一の勝利を献上した記憶と記録に残るGPでもある。
昨年は、デリケートなブリヂストンのソフトタイヤに各チーム、ドライバーが翻弄(ほんろう)され、マクラーレンが最速マシンを擁するレッドブルを下し1-2フィニッシュを達成した。
今年は、それに輪をかけてデリケートかつ扱いづらいピレリタイヤ、そして可変リアウイング「DRS」、電気ブースト「KERS」が、さらに事態を読めないものにするであろう、とレース前には予想されていた。
たしかにタイヤもDRSも、レースの行方を大きく左右したことは事実だが、今回一番のスパイスは天から降ってきた雨だった。
スタート前からの雨がもたらしたのは5度のセーフティカーと約2時間のレース中断。大荒れのレースでトップを守り続けたセバスチャン・ベッテルは、ファイナルラップ半ばにこの日唯一の、しかし決定的なミスで、猛追するジェンソン・バトンに勝利をさらわれた。
バトンにとっては、2回の大きな接触とドライブスルーペナルティ、パンクを乗り越えての劇的勝利となった。
カナダは、何か特別なことが起きる場所なのである。
■マクラーレンの同士討ち
金曜日、土曜日と持ちこたえた天気は、決勝の日曜日に崩れ、今年初めてのウエットレースが決定した。
今季7戦6度目のポールポジションを獲得したベッテルを筆頭に、復調を遂げ予選で2、3位につけたフェラーリのフェルナンド・アロンソ、フェリッペ・マッサ、レッドブルの弱点、KERSのトラブルに悩まされたマーク・ウェバー、過去3年のポールシッター、ハミルトンら全車がウエットタイヤを履き、セーフティカー先導でスタートが切られた。
5周目にセーフティカーがさがると、ベッテルにアロンソがアタックを仕掛けるが抜けず、トップ3台はグリッド順のままタイトな1コーナーへ飛び込んだ。その背後では、5位ハミルトンが4位ウェバーのインを刺すが接触、マクラーレンはメルセデスの2台に先を越され、コース復帰に手間取ったレッドブルは14位まで大きく順位を落とした。
7周目の終わりの最終コーナーで、ハミルトンの前に出ていた6位バトンの真後ろに、ハミルトンがピタリとつけた。バトンとピットウォールの狭間を抜けようとしたハミルトンだったが、水しぶきでバトンはその存在に気が付かない。両車は接触し、ハミルトンはピットウォールにタイヤを打ちつけコース半ばにマシンを止めた。ここでセーフティカーが出動した。
バトンは緊急ピットインを行い、路面と天候をにらみ浅い溝のインターミディエイトタイヤに履き替えた。この動きには、その後アロンソ、ニコ・ロズベルグらが続くことになる。
13周目にレース再開。順位は、1位ベッテル、2位アロンソ、3位マッサ、4位ロズベルグ、5位ミハエル・シューマッハーと続き、小林可夢偉のザウバーが6位、ウェバーは9位までポジションを上げていた。
12位を走行していたバトンには、またも御難。セーフティカーラン中のスピード違反をとられドライブスルーペナルティを受けなければならなくなった。さらに履き替えたインターミディエイトは最初こそコースにマッチしていたが、20周を前に雨脚が強まったことで流れはウエットタイヤに。あまりに激しい雨のため、危険を回避することを理由にまたもセーフティカーの出番となる。
しばらく徐行走行を続けたが、ひどいアクアプレーニングと視界不良、このままではレース続行不可能と判断され、70周のレースの25周で赤旗が出され中断。レース再開までは、約2時間待たなければならなかった。
■小林、フェラーリを抑え2位好走
2時間後にようやく雨脚が弱まり、26周からセーフティカー先導で再開。1位ベッテルの後ろにはタイヤ無交換で2位小林がつき、3位マッサ、4位ニック・ハイドフェルド、5位ビタリー・ペトロフ、6位ポール・ディ・レスタ、7位ウェバー、8位アロンソ、9位ペドロ・デ・ラ・ロサ、10位バトンらを従えて徐行走行を重ねた。
35周でセーフティカーがピットへ戻ると、小林がマッサの追撃をかわしなんとか2位をキープする。そして37周目、今度はアロンソがバトンと当たりウォールにヒット、セーフティカーがまたも登場した。
41周目に再スタート。トップのベッテルはファステストラップで逃げの態勢に入り、2位小林ら後続とのギャップを拡大しはじめた。
小林はその後10周にわたり、このコースを不得意とするザウバーで2位を好走。やがてシューマッハーやウェバー、バトンらに抜かれ、ファイナルラップのゴール直前ではマッサに鼻差で6位を奪われたが、予選13位から7位でゴールし6戦連続となる入賞を果たしたのは見事な功績と言っていいだろう。
■バトン、疾風迅雷の進撃
この日5回目にして最後のセーフティカーは、前方を走る小林のザウバーにルノーのハイドフェルドがヒット、破片が散らばったことにより57周目に出動。61周に再開すると、1位ベッテル、2位シューマッハー、3位ウェバー、4位バトンという上位の顔ぶれとなった。
既にレーシングラインは乾いており、ドライタイヤでの最後の攻防が繰り広げられたのだが、まさに疾風迅雷の進撃をみせたのがバトンだった。
ウエットでは使用不可となっていたDRSが解禁されると、バトンはウェバー、そして残り5周となった時点でDRSを駆使しシューマッハーをオーバーテイク。ファステストラップを更新し、猛然と追撃する2位のマクラーレンは、3.1秒あった首位ベッテルとの差を僅か1周で1.6秒まで短縮してしまう。
対するベッテルも、セクターで最速タイムをマークするなど必死に応戦。ベッテルとバトンはその他ライバルより3秒も速い1分17秒台を叩き出し、互いに意地をみせた。
優勝を目指す激しい2台の攻防は、残り2周でDRSを使える1秒内に入る。今回初めてコースの2カ所(バックストレートとメインストレート)にDRS使用ゾーンが設けられたが、その2カ所をフルに使い切りバトンが迫り、ベッテルが守る。
この勝負は、最終周のコース半ばで、ベッテルが一瞬ラインを乱しややコースオフ。その隙をバトンが突いたことで劇的な幕切れとなった。
2位に終わったベッテル、3位のウェバーらが3ストップだったのに対し、ウィナーのバトンは実に6回ものピットインを記録していた。この勝者の戦いぶりに、レースの混乱度合いを感じずにはいられなかった。
■60点もの大きなギャップ
最後に大きなミスをおかしたとはいえ、今年2度目の2位に終わったベッテルに下を向く理由はない。何しろ2位2回のほかはすべて優勝、チャンピオンシップポイントでは、もっとも近くにいるランキング2位のバトンにすら60点もの大差をつけているのだ。
仮にバトンがこの先連勝を続け、ベッテルがずっと2位に終わっても、9戦先(つまり10月の韓国GP)まで逆転は起こらない。それほど大量のリードを保っているのである。
次戦は6月26日のヨーロッパGP。昨年ベッテルが2勝目をあげ、タイトル争いで存在感を増しはじめたバレンシアの市街地が舞台となる。
(文=bg)
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