「カワサキ・ニンジャZX-25R」の発表に業界騒然 一世を風靡した250cc 4気筒の魅力とは?
2019.11.04 デイリーコラムレブリミットが2万rpmに迫る超高回転エンジン
「クオーターマルチ」「ニーゴー4気筒」「4発クオーター」「ニーゴーマルチ」……と呼び方はさまざまだが、ともかく今バイク界をにぎわしているのが250ccクラスの4気筒復活である。東京モーターショー2019において、カワサキはまったくのブランニューモデル「Ninja(ニンジャ)ZX-25R」を発表。そのカウルに内包されていたのが、249ccの水冷4ストローク並列4気筒DOHC 4バルブのパワーユニットだった。
このジャンルは、1980年代半ばから90年代初頭にかけて大いに盛り上がった。販売台数の増加と比例するように高回転化が進み、レブリミッターは最高で1万9000rpmに到達。タコメーターの数値だけなら2万1000rpmまで刻まれたモデルもあり、針が振れるというよりちょっと気が触れたような時代でもあった。
しばしば悲鳴や絶叫にも例えられたその排気音は、今にして思えば断末魔の叫びだったのかもしれない。事実1万9000rpm時代を境にして販売は低下の一途をたどり、250cc 4気筒を搭載したレーサーレプリカはほそぼそと生きながらえながらも1999年に絶滅。エンジン形式自体は「ホンダ・ホーネット」「カワサキ・バリオス」「スズキ・バンディット」といったネイキッドに引き継がれたものの、それらも2000年代に入って程なく、ラインナップから姿を消した。
そんなエンジンが再びストリートに送り出されようとしている。詳細なスペックは不明ながら、ZX-25Rのメーターをのぞくとレッドゾーンは1万7000rpmから始まり、数値は2万rpmまで刻まれている。仮にレブリミッターが1万8000rpmで作動するとして、一体どんなエキゾーストノートを奏でるのか。実際に登場するのは2020年の夏以降になりそうだが、ぜひ期待したい。
過熱する4メーカーの競争
250cc 4気筒の魅力は、“超”の字が付くほどの精密機械感だ。ピストン径はその好例で、1990年前後の最盛期モデルは、φ48.0mm~48.5mmで推移していた。缶コーヒーの直径よりもひと回り小さいピストンが4つ並べられ、そのおのおのにバルブが4本ずつ備わり、等間隔で爆発しながら小さなF1マシンのような雄たけびを上げる。そこには箱庭的な世界観があり、手の内に収められるような感覚が日本人の琴線に触れたのだろう。
初の250cc 4気筒モデルは1984年に登場した「スズキGS250FW」だったが、高回転化は「ヤマハFZ250フェーザー」(1985年)からだ。「4サイクルの『RZ』」と呼ばれたそれはレブリミッターが1万6000rpmに設定され、最高出力は規制値いっぱいの45PSに到達。GS250FWの36PSとは比較にならず、圧倒的な存在感でクラストップに君臨した。
こうなると、後はいかにライバルを出し抜くか。すべてのメーカーがそこに心血を注いだ。1986年にはホンダから「CBR250フォア」がデビューし、バルブ駆動にはカムギアトレインを採用。レブリミッターは1万7000rpmに達してライバルを突き放した。するとスズキは「GSX-R250」を送り出し、これに追随……するはずだったが、ホンダもまた改良の手を休めることはなかった。1987年に登場した「CBR250R」のレブリミッターは1万8000rpmに設定され、その争いは露骨なものになっていったのである。
もちろんヤマハもFZ250フェーザーを「FZR250」へ、さらには「FZR250R」へと進化させ、デルタボックスフレームや排気デバイスのEXUPといった装備を惜しげもなく投入して商品力を高めた。こうした開発競争が250cc 2ストロークの世界でも、400cc 4気筒の世界でも平行して行われていたのだから、時代のパワーには圧倒される。
ライバルを翻弄するカワサキの“勢い”
ところで、それをしばらく静観していたのがカワサキだ。4気筒には手を出さず、並列2気筒の「GPX250R」で独自の路線を進むのかと思いきや、突如「ZXR250」(1989年)を発表。これが実に鮮烈だった。なぜなら、レブリミッターはクラストップの1万9000rpmを公称し、一足飛びにライバルを超えていったからである。
これに反応する力を残していたのがホンダだ。1990年にLCGフレームとガルアームを採用した「CBR250RR」の販売を開始。前後17インチホイールにラジアルタイヤを組み合わせて運動性を高め、レブリミッターも1万9000rpmにまで引き上げてカワサキに対抗した。
結果的に、これが250cc 4気筒のピークになった。程なくして最高出力の規制値が45psから40psに落とされることが決まり、なによりその前年にカワサキ自身が“アンチレプリカ”の先鋒(せんぽう)となる「ゼファー」を400ccクラスに投入。際限のないスペック争いに終止符を打つ格好となり、その流れは250ccクラスにもすぐさま波及したのである。
実際、1992年に新馬力規制が適用されると、250ccクラスのマーケットは劇的に変化した。それまではレーサーレプリカが当たり前のように販売実績の上位に並んでいたが、翌1993年のトップ5は上位から「カワサキ・バリオス」「ヤマハTT250R」「ヤマハXV250ビラーゴ」「ホンダ・フリーウェイ」「スズキ・バンディット250」というもの。6位にようやく2ストロークの「ホンダNSR250R」がランクインしたにすぎず、CBR250RRを筆頭とする250cc 4気筒勢はトップ10にも入らなかった。
果たしてあの熱狂の時代はなんだったのか。あまりに早いトレンドの移ろいにはかなさを思うばかりだが、時代は繰り返すものでもある。レプリカブームを終わらせたのがカワサキなら、250cc並列2気筒の「ニンジャ250」(2008年)によって、フルカウル&セパレートハンドルに再び日の目を見させたのもカワサキだ。
マーケットが十分温まったところで、今度は4気筒でムーブメントをつくり出す。どこまで計算しているのかは不明ながら、今のカワサキにはその力がある。マーケットを自由に闊歩(かっぽ)し、ライバルを翻弄(ほんろう)するカワサキに、他のメーカーがどんなリアクションを見せるのか。なにはともあれ、ZX-25Rの動向を心待ちにしたい。
(文=伊丹孝裕/写真=川崎重工業、スズキ、本田技研工業、webCG/編集=堀田剛資)

伊丹 孝裕
モーターサイクルジャーナリスト。二輪専門誌の編集長を務めた後、フリーランスとして独立。マン島TTレースや鈴鹿8時間耐久レース、パイクスピークヒルクライムなど、世界各地の名だたるレースやモータスポーツに参戦。その経験を生かしたバイクの批評を得意とする。