“来てもらう”ことにこだわって来場者数100万人達成! 東京モーターショー2019を総括する
2019.11.07 デイリーコラムとにかく歩いたモーターショー
第46回東京モーターショー、見に行かれましたか? 僕は仕事の関係で10月23日と24日の2日間(プレスデー)、そして27日と、都合3日間お邪魔しました。
ともあれ印象的なのは「歩かされる」こと。仕事ゆえ当然ですが、プレスデーは動きっぱなし。東京ビッグサイトの南・西展示棟と青海展示棟との間をつなぐ「OPEN ROAD(オープンロード)」も徒歩で一往復すると、2日間の歩数は合計で4万半ばほどに達していました。
スマホの歩数計機能のおかげでモーターショーでの歩数というのは意識せずとも把握できるようになりましたが、直近のフランクフルトモーターショーで僕が歩いていた歩数は3万超ですから、東京のそれはおよそ1万歩は多いことになります。恥を忍んで告白すれば、その後、遅れて関節痛が発生、病院送りになったほどでして、図らずも今回は自らの齢(よわい)と不摂生を思い知らされた格好です。老婆心ながら、年末のコミケに足を運ばれる方はぜひ履き慣れた靴と動きやすい装いでとお伝えしておきます。
モーターショーの会場が分割されてしまった理由は、来年のオリンピックに合わせて東棟が国際放送センターやプレスセンターとして利用される、その改修工事の影響です。そのためMEGA WEBの北側に青海棟が仮設で置かれたわけですが、その間を結ぶ無料手段としてビッグサイト側が用意するのはシャトルバスのみ。来場者数が増えればオーバーフローは必至……というのはショーを主催する日本自動車工業会(自工会)も認識しており、トヨタを中心に会社所有のバスまで駆り出して棟間移動をサポートしていましたが、僕が知る限りプレスデーでも20分、一般日では60分の待ち時間が発生していました。ちなみに会期後半にはさらにバスを供出してもらい便数を増強したといいます。すかさず“カイゼン”が働く辺りはさすがです。
意外(?)なところに人だかり
僕自身もバス待ちを嫌って徒歩移動を選んだわけですが、その間は片道1.5km程度。これ、業界的な話をすれば、くしくも運輸部門におけるラストワンマイルの課題を実感してもらうにピッタリの距離感だったわけです。
例えば自治体がコミュニティーバスも走らせられないような移動困難地域において、街場から最寄りの道の駅までの自動運転バスのシャトル運用が始まったとすれば、そこから家までの移動さえ自立的手段が確保できれば問題が解決するかもしれない。そういう地域は日本にたくさんあります。その課題を共有するために、この1.5kmがもっとうまく活用できなかったか。オープンロードで行われていたマイクロモビリティーの体験デモは、その地理的状況を十分に生かせてはいませんでした。まぁ、ふたを開けてみれば週末のオープンロードは徒歩移動者であふれていましたから、結果オーライという感じなのでしょう。
同様に、そこにあるべき意味合いがうまく表現できていなかったのがMEGA WEBを使って展開した「FUTURE EXPO(フューチャーエキスポ)」です。CEATEC(シーテック)の協賛も得てパナソニックやNEC、富士通などの弱電メーカーも参加していたわけですが、ショーといえば普通はプロ相手という彼らもコンシューマーは扱いあぐねるところもあったのでしょう。現実感の方が強いブースや催しににわちゃわちゃと囲まれて、手持ち無沙汰気味だったのが印象的でした。
また、いちクルマ好きの立場からすれば、やっぱり車両そのもので未来を感じる場面が減ったのは物足りないところです。インポーター壊滅といわれた中、メルセデスなどはよくぞ「ヴィジョンEQS」を持ってきてくれたと思います。でもこういうコンセプトカーを見る機会が減った一方で、西棟上のサプライヤーブースは一般公開日でもお客さんでごった返していました。一般の人には興味がなさそうに思われがちなクルマの要素技術も、モーターショーでは立派に主役級のコンテンツとなることを思い知らされた次第です。出展者はリクルーティングという面でもいい手応えが得られたのではないでしょうか。
「来てもらう」ことにこだわった
スーパーカーや改造車、ドローンやeスポーツやキッチンカーなど、移動にまつわるものは白場になんでも詰め込みまくってちゃんこ状態になった今回の東京モーターショーを、丁寧にほぐしてきれいな言葉で省みるのは相当難しいと思います。でも、とにかくコンシューマーイベントの開催意義としての“来てもらう”ことに対してはめっちゃ貪欲だったことは間違いありません。物量面ではテレビCMの投下量だけでもハンパではなく、期間中はタレント絡みのイベントも打ちまくり。収支関係がどうなることやらの感もありますが、あの硬直組織の自工会がここまでなりふり構わずぶっ込んでくるかと、しみじみさせられたほどです。
聞けば自工会は今回のモーターショー、代理店にぶん投げではなく、実行組織の若いメンバーがコンテンツのアイデアをきっちり出し合ってイベントとしての柱を作っていったとのこと。前述の通り、メッセージ性の薄さは編集力や表現力の課題かと思いますが、変革の端緒は客付きのよさに見てとれたとも思います。
今回自工会が必達の勢いでこだわった、コンシューマーイベントとしての成果ともいえる「100万人」の来場者数は、この原稿を書いている時点では達成できそうな見通しとのことです(編集部注:11月5日に最終的な来場者数が130万0900人だったと公式に発表されました)。ざっくりとならして1日あたり約10万人。例えば同地域で行われているフジテレビのイベントはならすと5万人くらい。そしてビッグサイトのイベントでは最強の集客力を持つコミケがちょうど倍の18万人くらいのイメージです。この数字をどう判断するかは人それぞれですが、クルマ離れというお約束のレッテルを覆すには十分ではないでしょうか。返す返すも来てもらうというシングルイシューで戦ってこその勝利といえるかもしれません。
次回、2021年の東京モーターショーは、今回と同じく豊田章男自工会会長体制のもと、従来のビッグサイトの棟を使って行う予定だと聞きます。動線の問題は相変わらず縦方向に抱えますが、今回ほど難儀ではありません。すっきりとした会場の中で、果たしてクルマの未来をどれほど楽しくわかりやすく体験させてくれるのか。その構成力やメッセージ性いかんでは、世界で沈没しつつあるモーターショーというイベントの運営に、なにかの刺激を与えることができるかもしれません。気が早い話ですが、本当の勝負は次回だと思います。
(文=渡辺敏史/写真=webCG/編集=藤沢 勝)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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