シトロエンC3エアクロスSUVシャイン(FF/6AT)
楽しいフラ車ここにあり! 2019.11.18 試乗記 個性派シトロエンの中でも変わった見た目の「C3エアクロスSUV」は、どんな味わいのクルマなのか? 高速道路からワインディングロードまで走らせた筆者は、かつて胸をときめかせてくれた、むかしのフランス車を思い出していた。峠で思わずコーフンする
小さなRが連続する箱根のワインディングロードをシトロエンC3エアクロスSUVで走るのは、ちょっとした非日常体験だった。フロントスクリーン越しの景色が斜めに傾くのだ。コーナリング中、深々とロールするから。まるで往年の「2CV」みたいに。
それでいてロードホールディングは良好で、しかもロールスピードはゆったりしているから全然怖くない。コーナーに合わせて、前景が30度ぐらい傾いたかと思うと、そのまま安定して曲がっていく。アンダーステアが出ることはない。たぶん、非力だからである。筆者が登りでしか全開にしていない、ということもある。
フロントに横置きされるPSAの“ピュアテック”直列3気筒DOHCターボは、高回転まで回してもゴーッという無機質なサウンドを発するのみで、官能的な艶っぽさはない。でも、最高出力こそ110PS/5500rpmにすぎないけれど、205N・mという自然吸気2リッター並みの最大トルクを1750rpmの低速から発生する。アイシン・エィ・ダブリュの6段ATをSモードに切り替えると、レッドゾーンが始まる5500rpmを軽々超えて6000rpmまで引っ張る。さっきまで2000rpmでシフトアップしていたのに……。車重は1310kgと、サイズの割に軽量だから、まことに活発、という印象を受ける。悪くいえば、うるさいわけだけれど、うるささが、がんばっている感にストレートにつながっている。回転計のレッドゾーンの始まる位置にせよ、ネタバレの演出。と、わかっちゃいるけど、運転しているほうはコーフンする。
自動車は速ければいいというものではない。少なくとも、いまのところは人間がドライブする“感覚の機械”だからである。
乗り心地まで個性的
ほんの2時間ほど前、C3エアクロスSUVのキーを渡された筆者は、ちょっと逡巡(しゅんじゅん)していた。撮影は都内で終了したから、あとは自由に試乗に行ってください、ということだった。といわれても撮影もないのでは箱根まで行くことはないか。首都高速をチョコっと走って、適当なところで『webCG』編集部に返しちゃおうかな……と思ったのである。
それが、首都高速を上がってチョコっと走っているうちに、だんだん楽しくなってきた。なんせやかましい、もとい活発なエンジンだし、 風切り音もロードノイズも大きい。でも、それがうるさいというよりは、にぎやかに感じる。なぜか肯定的に思える。まことに人柄ならぬ、クルマ柄というほかない。
なぜそう思えるのか? ひとつには独特の乗り心地のなせるワザだろうと思う。軽やかで、カタ柔らかい。試乗車はハンコックの「キナジー4S」というオールシーズンタイヤを履いていたのだけれど、215/50R17サイズのこのタイヤが、オールシーズンだからトレッドのサイプが細かくて、どっちかというとソフトなはずなのに、筆者の印象としては硬い。まるで硬い底のシューズで爪先立って歩いているような感じ。といってスタビリティーが低いわけではない。バレエのダンサーのように足腰が鍛えられている。路面の凸凹を軽やかに爪先立っていなしながら、C3エアクロスSUVは走るのだ。
2017年10月にフランス本国で発表されたこのコンパクトSUV。C3の名称が示すごとく、プラットフォームはシトロエンのベストセラー、「C3」のそれをベースにしている。日本市場での発売は2019年7月16日で、シトロエンのSUVとしては「C5エアクロスSUV」に続く第2弾だった。
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SUV“もどき”でいいじゃないか
SUVといっても、エンジン横置きのFWD(前輪駆動)で、前:ストラット、後ろ:トーションビームという、ごくオーソドックスなFWDの足まわりはC3と同じ形式だ。
ただし、ホイールベースはC3の2535mmから2605mmへと70mm延ばされている。全長×全幅×全高=4160×1765×1630mmの3サイズは、C3より165mmも長くて、135mmも背が高い。最低地上高はC3の160mmに対して、いくつだと読者諸兄は思われるだろう? なんとC3と同一の160mmなのだ。SUVなのに(疑問文、末尾アガル)? SUVなのに(肯定文、末尾サガル)。
そんなことをいったら、って筆者が自問自答しているだけですけれど、C3エアクロスはただのFWDで、4WDも設定がなければ、副変速機があるでもない。アイシン・エィ・ダブリュ製の6段ATのギア比もC3と同じだし、タイヤも、オールシーズンではあるけれど、特にSUV用というわけでもない。
もちろん、それでなんの問題もない。そのおかげで、ワインディングロードで楽しいハンドリングを持つに至っている、と解釈できる。ちなみにステアリングのロック・トゥ・ロックは2.9回転ぐらいで、その意味ではごくフツーだ。ごくフツーが楽しいのだから、フランス車は楽しい。フランス人は合理的だ。と筆者は先輩諸氏から教わってきたのですけれど、まことにそう思う。
だって、99%舗装路しか走らないに決まっているのに、後輪を動かすためのプロペラシャフトを付けて、ディファレンシャルを付けて、副変速機を付けて、場合によってはエアサスにして、サスペンションはやっぱり頑丈なリジッドがいい、ラダーフレームも必要だ、とか本格4×4にしていったら、軽快なハンドリングはもちろん失われ、重くなるほどに燃費は悪化してゆく……。
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ブームを超えた魅力がある
賢いシトロエンは、ヨーロッパでのSUVブームを見越して、「C3ピカソ」を廃止し、SUV仕立てのC3エアクロスSUV、すなわち、このモデルをつくった。それはシトロエン独自の解釈によるSUVだった。外見こそSUVっぽくはあるものの、SUVっぽい全高の高さを生かして、居住空間と荷室を確保し、限りなく乗用車に近いライフスタイル商品をつくったのだ。
悪路走破性能を向上させるべく、グリップコントロール&ヒルディセントコントロールなる、「トラクションコントロールの進化版ともいえる機能」とシトロエン自身が表現するシステムを開発し、これを装備するモデルが設定されてはいる。ノーマル、スノー、マッド、サンドと各種モードに合わせて制御が変わる。たぶん雪の日には大いに重宝するに違いない。だけど、例えば都会の住民が何回使うかといえば、多くのユーザーはおそらく一度も使わないのではあるまいか。でもって、雪国のユーザーが使うかといえば、おそらく降雪地帯のユーザーはどうしたって4WDを選ぶだろう。
合理的なフランス人はそこのところをはかりにかけて、4WDはスパッと諦めた。ハードなギアはよそのメーカーに任せた。その判断が正しかったことは、フランス本国での商業的成功が物語っている。2017年10月に発売され、その20カ月後には累計販売台数20万台に到達しているのだ。C3エアクロスSUVは、フランス国内の「B-SUV」と呼ばれるセグメントで販売台数第3位、ヨーロッパでは同6位と健闘している。
日本でもなじみのある同セグメントのライバルというと、「ルノー・キャプチャー」「プジョー2008」「フォルクスワーゲンTロック」「フィアット500X」あたり。いずれも個性的な面々である。してみると、2019年、創立100周年を迎えたシトロエンのみがこのジャンルで奮闘しているのではなくて、ヨーロッパのメーカーみんなで盛り上げていることになる。ま、それがブームというものだ。
C3エアクロスSUVは、そんなヨーロッパのSUVブームを極東に伝える一台でもある。わけだけれど、筆者的には2019年、ドライビングが楽しいスモールSUVの一台ということで推しておきたい。シトロエン2CVのファンにもピッタリです。
(文=今尾直樹/写真=荒川正幸/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
シトロエンC3エアクロスSUVシャイン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4160×1765×1630mm
ホイールベース:2605mm
車重:1310kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
トランスミッション:6段AT
最高出力:110PS(81kW)/5500rpm
最大トルク:205N・m(20.9kgf・m)/1750rpm
タイヤ:(前)215/50R17 91H/(後)215/50R17 91H(ハンコック・キナジー4S)
燃費:14.7km/リッター(WLTCモード)
価格:279万1000円/テスト車=335万0710円
オプション装備:シャインパッケージオプション<パノラミックサンルーフ+ヒルディセントコントロール付きグリップコントロール+カラーマルチファンクションディスプレイ+17インチアロイホイール+マッド&スノータイヤ+LEDシーリングランプ>(23万4000円)/ボディーカラー<サーブル>(4万9500円)/ナビゲーションシステム+ETCユニット(25万2450円)/フロアマット(2万3760円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:3519km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(2)/山岳路(1)
テスト距離:287.2km
使用燃料:23.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:12.5km/リッター(満タン法)/11.3km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
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