展示車両に宿る“建前”と“本音” ロサンゼルスショーの会場からアメリカの今を読み解く
2019.12.09 デイリーコラム注目のあのクルマはどこに?
ロサンゼルスのダウンタウンにほど近い場所に位置する「ロサンゼルスコンベンションセンター」。グラミー賞が開催されることで知られる屋内競技場「ステイプルズセンター」に隣接して建つこの会場で、毎年11月に開催されるのがロサンゼルスモーターショー(以下、LAショー)だ。
デトロイト、ニューヨーク、シカゴと並ぶアメリカのメジャーモーターショーのひとつなだけに、他国開催のショーに比べると毎度アメリカンメーカーの存在感が際立っていることは当然。一方、ロサンゼルスが位置するカリフォルニア州は、全米一の自動車消費地であると同時に、排ガスによる大気汚染が強く問題視されているエリアでもある。かくして(テスラがこの州に本拠地を構えることからも明らかなように)、西海岸エリアはアメリカきっての電動モデルの需要地となっている。アメリカの中では例外的に“eモビリティー”への興味度が高いのも、この地域の特徴なのだ。
ということで、今年のLAショーにも多くの電動化モデルが出展された。フォルクスワーゲンのピュアEV(電気自動車)である「ID.」シリーズのワゴンバージョンや、「アウディe-tronスポーツバック」、「トヨタRAV4」のプラグインハイブリッド版、「ポルシェ・タイカン」の新グレード「4S」などがその一例だ。
さらに、そんな日欧発の各モデルに加えて、“アメリカの今”を象徴していたのが「マスタング マッハE」なる名称が与えられたフォードの製品。事前に「マスタングのEVが出る」との情報を得ていた筆者も、開幕早々にフォードのブースへと向かったのだが……。
ん? どこどこ!? 一体どこにあるの?
“電動版マスタング”はまさかのSUV
フォードのブースを訪れても、その姿を一向に発見できなかった “マスタングのEV”。もしや、注目度を増すためにその展示は別の場所で行われ、ブースにはあえて置かない戦略なのか!?
いや、さすがにそんなことはないはず……と目を凝らして探していると、ついに発見。実を言えば間抜けなことに、筆者はその前を何度も“素通り”していたのだ。というのも、かのEVは既存のマスタングとは似ても似つかない、典型的なSUVルックの持ち主だったのである!
何とも残念なことに、2016年をもって日本市場から撤退してしまったフォード。しかし、それでもスタイリッシュなクーペデザインや走りに見るコストパフォーマンスの高さなどから、マスタングの名が深く脳裏に刻まれている人は今でも少なくないだろう。中でも、高出力を発生する大排気量エンジンの設定と、わかりやすくスポーティーなビジュアルによってその知名度向上に一役買ったのが、1969年に追加されたハイパフォーマンスバージョン「マッハ1」だった。マスタング マッハEなる名称の今回のEVが、そんな歴代モデルの中にあって特にアイコニックな存在にあやかったものであることは、もちろん明らかだ。ところが、そんな価値ある名称を与えられたEVは、こともあろうにSUVだった。
大ヒットを飛ばした初代モデルの誕生が1964年と、今年で実に55年もの歴史を重ねてきたマスタング。その存在は、世界の2ドアスポーツモデルに多大な影響を与えてきた。それゆえに、かつての“栄光のネーミング”を受け継ぎながら、オリジナルのモデルとは何の脈絡も持たないSUVとして登場したマッハEが、往年のマスタングフリークから強い困惑のまなざしで見られることは、間違いなさそうだ。
高性能EVの車名に見るフォードの苦悩
高性能版バッテリーを搭載した仕様では「『ポルシェ・マカンターボ』の加速も凌駕(りょうが)する」とうたわれるマスタング マッハE。しかしEVの場合、取りあえず強力なバッテリーと強力なモーターを組み合わせれば、そうした“刹那的な速さ”を実現させるのはさほど難しくないというのは、もはや周知の事実である。
第一級の性能を備えながらも、今やそれだけでは新奇性を打ち出せず、思わず「かつての栄光」に助けを求めるという戦略に、ちょっとばかりフォードの苦悩が透けて見えるマスタングのEV。ようやく発見した展示車を前に、寂しい思いがよぎってしまった。
そんな悲喜こもごも(?)なeモビリティーの出展もありはしたものの、やはり「これぞアメリカのショーならでは」と感じさせられたのは、一際強烈な存在感を放っていたピックアップトラックの数々であった。日本では車名を言われても全くその姿が思い浮かばないような巨大なトラックを、“乗用車”として普通に使ってしまうのだから、この国は「巨大なガラパゴス」なのだとあらためて実感させられる。
実際、会場脇を走るドカンと広いフリーウェイを埋め尽くす車列の、少なからぬ割合を占めているのがこの種の巨大トラックというのが、今でもこの国の実情なのだ。数分で給油が終わるガソリンスタンドですら、時に行列ができる状況を目の当たりにすれば、「これらのクルマがすべてEVに置き換えられたら、充電ポストは一体どれほどの数が必要になるのだろう?」という問題に思い至り、そしてこの一点を考えただけでも“電動化”に対する疑念が拭い去れなくなる。
ピュアEVと巨大ピックアップトラックが並ぶモーターショーは、アメリカならではの光景。かくして今回も「建前と本音の葛藤」を強く実感させられることとなったLAショーなのだった。
(文=河村康彦/写真=フォード、Newspress、LOS ANGELES AUTO SHOW/編集=堀田剛資)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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