最新のハイブリッドで成功できるか? 新型「トヨタ・ヤリス」の環境性能について考える
2019.12.27 デイリーコラム小粒でも上等な新システム
2020年2月の発売に先駆けてスペックが明らかにされた、新型トヨタ・ヤリス。その燃費性能のキモとなるハイブリッドシステムに、あらためて注目したい。
新型ヤリスの、3気筒になった1.5リッターガソリンエンジンのアウトプットは、最高出力91PS/5500rpm、最大トルク120N・m/3800-4800rpm。電気モーターのそれらは、フロントモーターが80PSと141N・m。「E-Four」こと4WD車に用いられるリアモーターは5.3PSと52N・mだ。
先代(現行)の「ヴィッツ ハイブリッド」では、1.5リッター直4エンジンが74PS/4800rpmと111N・m/3600-4400rpm、モーターが61PSと169N・mだから、新しいヤリスは“相対的に”高いエンジン回転数でハイパワーを発生する仕様となった。3気筒化によって低回転域でのトルクを増大できたので、ピークパワーをむしろより高い回転域に持ってこられたのだろう。
計測モードが異なるので直接的な比較に意味はないが、ヴィッツ ハイブリッドのJC08モードでの燃費が34.4km/リッター。ヤリス ハイブリッドのそれは、一般に数字が厳しくなりがちなWLTCモードで、35.4~36.0(FFの数値。4WDは30.2)km/リッター。実燃費も向上しているはずだ。
ヤリス ハイブリッドの「リダクション機構付きTHS II」で使用する駆動用と発電用モーターはともに新開発で、高出力、高効率を果たしつつコンパクト化。メカを収納するケースの駄肉を削るといった努力もあって、THS II全体のコンポーネンツも小型化された。もちろん、システムを制御するPCU(パワーコントロールユニット)やインバーターの性能も引き上げられている。
わかりやすく新しいのが、バッテリーが、ヴィッツ ハイブリッドのニッケル水素からリチウムイオンに変更されたこと。「プリウス」で先行して使われていたリチウムイオンが、ついにコンパクトカーにも下りてきたわけだ。しかもヤリスのものは、バッテリーを構成するセル単位でさらなる高効率・小型化を果たしている。ピュアEVの商品化には冷たいトヨタだが、クルマ電動化の基幹技術は着実に蓄積、実用化している。
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ヤリスは“現実的な解”
ヤリスの燃費向上は、ハイブリッドシステムの刷新もさることながら、軽量・高剛性のTNGA「GA-Bプラットフォーム」を採用しつつ、ボディー拡大を嫌って車重を抑えたことが大きい。ヤリス ハイブリッドの車両重量は、従来のヴィッツ ハイブリッドより10~50kgも軽い1050~1090kg(4WD車は1160~1180kg)である。その結果、WLTC「高速モード」でも33.4~33.6(FFの数値。4WDは28.0)km/リッターと良好な燃費を維持している。
国内でもグローバル名のヤリスを名乗ることになったニューモデルだが、そもそもが欧州をメインとした先進国向けに開発されたコンパクトカーである。保守的で愛国的な(!?)クルマ選びをするとされるヨーロッパでもここのところトヨタブランドは好調で、2019年は100万台超えが期待される(1~9月で77万7538台)。しかも販売されるトヨタ車の半数以上がハイブリッドモデルだ。かつては「高速走行が苦手」と欧州ユーザーから敬遠されたトヨタのハイブリッド車だが、システムの改善と環境意識の高まりによって、次第に受け入れられるようになっている。
2019年の春、トヨタは2万件を超えるハイブリッドシステムの特許を開放(無償提供)した。厳しくなる一方の排ガス(燃費)規制に対応するため、メーカー間で協力してシステムの底上げをしたい、と同時に、いわばTHSグループというべき勢力を形成する狙いもあろう。
EUの排ガス規制は、2020年にCO2排出量を現状の120.5g/kmから95g/kmに削減することを求めている。2021年以降のニューモデルは、この基準を満たさなければならない。利幅の大きなSUVや高級スポーツカーを売ろうとするなら、基準を超過したCO2を相殺するためにゼロエミッションとみなされるEVを相応数販売する必要がある。昨今、いささか急ごしらえが疑われるEVモデルが欧州ブランドから相次いでリリースされるのは、そのためである。
ただ、不便なうえ、明らかに開発途上のEVを買いたがるユーザーはいない。大衆は、充電のたびに優雅にお茶をしているヒマはないし、家屋に次ぐ高額の買い物となれば、おのずと財布のひもはかたくなる。規制は厳しくなれど技術が進歩する速度にはおのずと限りがあるから、EVのハンディを補う現実的な解決策としては、いまのところコストと重量の増加を度外視して大量に高性能バッテリーを積むしかない。そうしたクルマは、環境に悪いからと飛行機を忌避してヨットで大西洋を横断するような有閑富裕層には受けるかもしれないが、普及は望めない。一方、“一般向けの”電気自動車をラインナップするメーカーもあるけれど、国からの補助なしで商業的に成り立っているEVはないという。
となると、CO2排出量を抑えたい自動車メーカーは、活路を“みなし”EVに求めるしかない。具体的には、販売したハイブリッド車やプラグインハイブリッド車に係数をかけて、EVに換算するわけだ。ただし多くの国で自動車は基幹産業だし、それぞれに得意な分野も異なるから、換算方法や係数の決定に「政治」が絡むことは避けがたい。だから、東洋の島国を発祥の地とするトヨタとしては、貴重な特許を公開してでも仲間を増やしておきたい。もしかしたら、2025年ごろには、トヨタのハイブリッドシステムを搭載した欧州ブランドのクルマが登場するかもしれませんね!?
(文=青木禎之/写真=トヨタ自動車、webCG/編集=関 顕也)
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青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
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