似ているようで似ていない? 「ダイハツ・タフト コンセプト」と新型「スズキ・ハスラー」を比較する
2020.01.15 デイリーコラムダイハツブースの隣にスズキブース
東京オートサロン2020のダイハツブースでは、レッドの「コペンGRスポーツ」や「ロッキーSporty Style」が目を引いた。でも、本当の主役はちょっと地味なモスグリーンに塗られた四角いクルマ、「タフト コンセプト」である。「Tough&Almighty Fun Tool」というコンセプトの頭文字を取って名付けられた軽クロスオーバーSUVで、今年の年央発売というからオリンピック前には姿を見せそうだ。
ホールの壁を隔ててすぐ隣にはスズキのブースがあり、新型「ハスラー」が並べられていた。見れば誰でもわかるように、タフトはハスラー対抗のモデルなのだ。ハスラーが全長×全幅×全高=3395×1475×1680mmで、タフトは同3395×1475×1630mmとほとんど同じサイズ。どちらも角張った形の中に軽規格では最大限のスペースを取ろうとしているから、フォルムはどうしても似通ってしまう。
ただ、見比べてみると印象はまるで違う。ハスラーが初代よりもワイルドさを増してアウトドア感を強調しているのに対し、タフトはクールで都会的なイメージを目指しているようだ。ガッシリと頑丈な雰囲気は同じでも、ハスラーはポップでにぎやかな若づくりで、タフトはシャープかつ知的でアダルト感を醸し出すという違いがある。タフトにはメッキが多用されているのも特徴だ。内装ではオレンジの加飾やステッチが目につく。
スズキとダイハツ、それぞれの言い分
説明員に話を聞くと、ハスラーが女性ユーザー寄りなのとは違い、タフトはどちらかというと男性を意識しているという。だからあまり競合することはなく、軽SUVというマーケットを拡大することになるというのだ。ともに活性化できればいい、と言っていたのは建前ではあるだろうけれど、一部は本音かもしれない。
悪路走破性能はそれほど重視しておらず、売りはDNGAシャシーによる走りのよさだと話す。確かに、DNGA第1弾の「タント」は旧型とは段違いのしっかりとしたボディー剛性を持っていた。発売前にサーキットで行われた試乗会では、ついコーナーを攻めたくなってしまったほどである。第2弾の「ロッキー」も、SUVながら山道でも楽しめる素性のよさを示していた。比較的背が低く軽量なタフトの走行性能には期待が持てる。
スズキのブースでも話を伺った。気になっていたようで、朝イチでタフトを見てきたという。感想は「やっぱり寄せてきたな、と感じたが、思ったよりは似ていない」とのことだった。そして、ハスラーは女性ユーザーばかりでなく、男性からも支持されている、と胸を張る。ともにマーケットを盛り上げていきたい、とこちらも角の立たないコメントをしていたが、受けて立つ自信はありそうである。
開戦は2020年の夏
思い出されるのは2015年の「キャスト」のことである。ハスラー発売から2年後、ダイハツが追撃のために送り込んだライフスタイル系モデルだ。強力なハスラーに対抗するために、3種類のバリエーションを用意した。「アクティバ」「スタイル」「スポーツ」の3つで、それぞれSUVテイスト、都会的洗練、走りの性能という異なる持ち味を与えられている。3倍の勢力で挑めば勝利間違いなしというわけだ。
しかし、この戦術が裏目に出た。イメージが分散して、キャストというクルマの正体が不明確になってしまったのだ。これでは“どうしてもキャストが欲しい!”と望むユーザーは生まれない。性格付けも中途半端で、インパクトが薄かった。片やハスラーはまだ5人体制だったももクロがカラフルな衣装ではしゃぎながら宣伝していて、誰の目にもキャラクターが焼き付いていたのである。
今回のフルモデルチェンジで、ハスラーは“遊べる軽”というコンセプトを守りながら内外装のSUVテイストを強めた。それが吉と出るか凶と出るかはわからないが、安全装備やインフォテインメントシステムのアップデートなどで魅力を高めている。シャシーはハスラーもタフトも最新の技術を使っているので、走り対決という側面もある。ダイハツの2度目の挑戦は駆け引きなしの真っ向勝負だから、もう言い訳はできない。今度こそハスラーの牙城を崩すことができるのか、半年後の“夏の陣”が楽しみだ。
(文=鈴木真人/写真=鈴木真人、スズキ、webCG/編集=藤沢 勝)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。