メルセデス・ベンツE350deアバンギャルド スポーツ(FR/9AT)
魔法のつえはないけれど 2020.02.04 試乗記 ディーゼルエンジンにプラグインハイブリッドシステムを組み合わせた「メルセデス・ベンツE350de」。「Eクラス」に初搭載されたこのパワーユニットの実力を確かめるべく、東京・都心から郊外へと、休日の使い方を想定したロングドライブに連れ出してみた。昔の褒め言葉は通用しない
イギリスのロックバンド、コールドプレイが「飛行機での移動は環境に悪いから」とワールドツアーを中止にしたことは、なかなか考えさせられる出来事だった。ってことは、人類は移動をしないのが最善の選択なのか? と突っ込みたくなったけれど、それは早合点。ボーカルのクリス・マーティンはBBCの取材に「これから1、2年をかけて、どうすれば自分たちのコンサートツアーが持続可能なだけでなく、環境に利益をもたらすものになるかを模索する」と答えている。
クルマ好きにとっては耳が痛い話で、「用もないのに出掛けたくなるクルマ」なんていうのは、20年後、30年後も褒め言葉であり続けるのか。面倒なことには目をツブって駆け抜けたくなる衝動に駆られますが、それだと自分で自分の首を絞めることになる。大したことはできないにしても、クリス・マーティンのように「模索する」ことはできる。
これ一発ですべてが解決という特効薬が存在しない以上、当面は都市部のコミューターは電気自動車(BEV)にするとか、内燃機関やハイブリッドシステムの性能を引き上げるなどさまざまな方法で取り組んで、それらを効率的に組み合わせるしかない。
そして、こうした現実的な解決策を一台に盛り込んだのがメルセデス・ベンツE350de。2リッターの直列4気筒ディーゼルターボエンジンと電気モーターを組み合わせたプラグインハイブリッド車(PHV)である。市街地ではBEV的な使い方ができ、燃料と電池が満タンなら1000km近い航続距離を誇るのだ。
では、現時点での理想の一台は、乗ってみるとどんなクルマなのか。記録的な暖冬と雪不足だと報道される2020年の冬、E350deを走らせてみた。
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ひたすら上品なサルーン
なんの予備知識も持たずにこのクルマのステアリングホイールを握ったら、静かで乗り心地の快適な高級サルーンだという印象しか残らないだろう。エンジンもモーターもトランスミッションも、複雑な仕組みが作動していることを乗員に悟られないように、徹底した訓練を受けている。
アクセルペダルを踏み込めば、ほぼ無音・無振動でリッチに加速する。画面に表示されるシステムの作動状況を見ずにぼーっと乗っていると、この加速がエンジンによるものなのか、モーター単体なのか、あるいは両者の共同作業の成果なのかはわからない。エンジンとモーターのシステムトータルの最大トルクは700N・m。「メルセデスAMG G63」の4リッターV型8気筒ターボの850N・mに迫る値だ。
乗り心地はちょっとした湿り気を感じさせるしっとりとしたもの。路面のデコボコを乗り越える瞬間に4本の足がそれぞれにスーッと縮んでショックを吸収する。このスーッと縮む瞬間の動きが繊細かつ滑らかで、そのスムーズさが湿り気を感じさせる理由だ。
そしてデコボコを乗り越えた後に、また4本の足がそれぞれに伸びる。4本の足が別々に動いているのに、結果として車体はフラットな姿勢を保っている。かなりレベルの高い乗り心地を提供する足まわりだ。
乗り心地のよさとともに感心するのが静粛性の高さで、ロードノイズもパワートレインからのノイズもよく抑えられている。高速道路を走った時には風切り音の小ささにも驚いたから、吸音と遮音が行き届いているのだろう。といった具合に、E350deは、メカニズムとかスペックの話をひとまずおくと、ひたすら上品なサルーンである。
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クルマとの新しい付き合い方
ドライブフィールを確認した後は、PHVという仕組みに焦点をあてる。E350deには、通常の走行状態である「ハイブリッド」、電力消費を抑える「Eセーブ」、充電を優先する「Eチャージ」、そして電力があればBEVとして走る「Eモード」がある。また、少しややこしいけれど他のメルセデス・ベンツのラインナップと同じように、「コンフォート」「スポーツ」「スポーツ+」「エコ」「インディビジュアル」の各走行モードも用意される。
ちなみに試乗開始からここまではハイブリッドを選び、主にコンフォートで走らせた。この状態だと、ディーゼルエンジンが始動したり、停止したりを繰り返すことになるけれど、不快なショックやノイズを感じることはなかった。連携はよく練られている。
Eモードを選ぶと、まったくのBEVになる。しかもただのBEVではなく、シルキーな乗り心地の高級BEVだ。モーターならではのほぼ無音・無振動でシームレスな加速に、前述のしっとり湿り気のある乗り心地があいまって、魔法のじゅうたんのような乗り物になる。モーター単体でも最大トルクは440N・mあるから、加速力も十分だ。
ただし幸せは長くは続かなかった。それほどバッテリー残量に余裕があるわけではなかったので、数kmで蜜月が終わってしまったのだ。参考までに、トランクルームに積まれるリチウムイオンバッテリーが満充電されていると、最長で50kmのEV走行が可能だという(WLTPモード値)。
ちょっと不思議な気がしたのがEチャージのモードで、これを選んで走ると確かに充電の目盛りは確実に増える。けれども、軽油を燃やして電力を生んでバッテリーに充電、その電気を使ってモーターを駆動することにどれだけの意味があるのか、最初はピンとこなかった。
でもそうか、例えば郊外から都市部へ向かうときにEチャージで充電して、都市部ではゼロエミッションビークルとして走るなんていう使い方ができるのか。クルマを取り巻く環境はどんどん変わっているから、かつての常識に凝り固まらずに、クルマとの新しい付き合い方を学ばなければいけない。
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エンジン車の父のプライド
ほぼ一日E350deに乗ってみて、このクルマがある生活のイメージは大体つかめた。仮にクルマ通勤だとすると、Eモードで出勤して、仕事中は勤務先の充電設備で充電。帰りもEモードでBEVとして帰宅する。そして自宅で充電して、翌朝の出勤に備える。平日は、エンジンが始動することはない。静かで快適な車内で音楽を聴いてリラックスしたり、ニュースを聞いて情報を仕入れたり、社運を賭けたプロジェクトの戦略を練ったりする。休日は、ゴルフでも旅行でもお墓参りでも、1000km近いという長いアシを利して移動の自由を謳歌(おうか)する。
で、冒頭のコールドプレイの問いかけに戻る。Eモードは確かに快適であるけれど、残念ながらまだ太陽と風と波と地熱の力だけで電力をまかなうことはできない。今回、219.8km走っての燃費は14.8km/リッター(満タン法)。やはり地球温暖化の元凶と目される二酸化炭素は確実に排出している。
もうひとつ、これだけ複雑で高価なディーゼルエンジンと、それをモーターと連動させるさらに複雑なハイブリッドシステムを全世界に普及させることができるのかという問題もある。とはいえ、このクラスの立派なサルーンで、あれだけ見事に走って前述の燃費値である。5年前、10年前に比べれば長足の進歩だ。乗り心地も満点。
ご存じのように化石燃料を燃やして走るクルマをつくったのはカール・ベンツとゴットリープ・ダイムラーで、つまりメルセデス・ベンツはエンジン車の父だ。ロックバンドのボーカリストが模索しているように、エンジン車の父も模索している。メルセデス・ベンツE350deからは、移動の自由は手放さないという、エンジン車の父のプライドが感じられる。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
メルセデス・ベンツE350deアバンギャルド スポーツ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4923×1852×1475mm
ホイールベース:2939mm
車重:--kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:194PS(143kW)/3800rpm
エンジン最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/1600-2800rpm
モーター最高出力:122PS(90kW)/2500rpm
モーター最大トルク:440N・m(44.9kgf・m)
システム最高出力:306PS(225kW)
システム最大トルク:700N・m(71.4kgf・m)
タイヤ:(前)245/45R18 100Y/(後)275/40R18 103Y(ピレリ・チントゥラートP7)
燃費:--km/リッター
価格:875万円/テスト車=943万8000円
オプション装備:スペシャルメタリックペイント<ダイヤモンドホワイト>(20万3000円)/エクスクルーシブパッケージ(26万1000円)/パノラミックスライディングルーフ<はさみ込み防止機能付き>(22万4000円)
テスト車の年式:2019年型
テスト開始時の走行距離:1979km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(7)/山岳路(0)
テスト距離:219.8km
使用燃料:14.9リッター(軽油)
参考燃費:14.8km/リッター(満タン法)/18.2km/リッター(車載燃費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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