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悲惨な事故を撲滅せよ これが2020年夏に出るトヨタの運転支援システムだ

2020.02.07 デイリーコラム 関 顕也
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“誤操作の法則”を徹底チェック

トヨタ自動車は2020年2月3日、同年夏をめどに、新たな運転支援機能を搭載する新型車を発売すると発表した。

新たな機能の名称は、「急アクセル時加速抑制機能」。パッとイメージしにくいが、つまりは「アクセルワークの誤操作による急加速を抑え、事故を未然に防ぐメカニズム」のこと。ここ数年、高齢ドライバーによる“ペダルの踏み間違え事故”の対策が急務とされてきたが、今回のシステムは、車両の周囲に壁や建物といった障害物がない運行状態でも「アクセル操作がおかしいぞ!」とクルマ側で判断されれば自動的に加速を抑制するというものだ。ただ、どんなタイプのなんというクルマに装着されるかは、現時点では明らかにされていない。

いまのところ有効とされている速度域は、ゼロ発進から30km/hまで。例えば、20km/hでの走行時に「異常な加速をしようとしているかも!?」と思われたなら、どうペダルを踏んでも20km/hから上には車速が上がらなくなる。もっとも、システムの判断が常に100%正しいとは限らないわけで、人によってはこの介入に違和感を覚えることもあるだろう。そうした感覚のズレが新たなトラブルをまねかないよう、システムのオンオフは(特殊なキーが付与されることで)選択できるようになっている。

「増加の一途をたどる高齢者ドライバーの悲惨な事故を減らすのに、このシステムは役立ちます」。そう語るのは、トヨタ自動車 先進技術開発カンパニーで開発に関わってきた葛巻清吾さんだ。

「交通事故死者数をゼロにするためには、しっかり事故原因を調べては技術を開発するという“解析サイクル”を回し続けることが大事です」

では、何をもって“調べる”のか? そのキーになるのが、2018年6月にデビューした新型「クラウン」や「カローラ スポーツ」から順次搭載されている通信機能だ。これら“コネクティッドカー”のDCM(Data Communication Module)がドライバーのハンドル、アクセル、ブレーキ操作などのデータをフィードバック、その膨大なデータの分析に基づいて、「ペダル踏み間違いの推定アルゴリズム」をトヨタは把握しているのだ。例えば、「アクセルペダルの踏み込み方が急激」で、「そのストローク量も大きく」て、「道が上り坂でもない」状況で、「直前にブレーキ操作がなかった」ならば、踏み間違いの可能性が高い……! というように、ビッグデータによる“経験則”からシステム介入が実施されるわけである。

「じゃぁ、クラウンやカローラ スポーツをはじめとするコネクティッドカーのオーナーは、常に運転を監視されてきたのか?」という思いも頭をよぎるが、この点については、DCMの利用に際して『収集したデータは技術開発のために使ってよい』という許可をユーザーから得ているそうだ。具体的な車名は非公開ながら、すべてのコネクティッドカーがデータ収集の対象になっているわけではなく、母集団の規模としては数千台程度だという。

2020年夏発売の新型車に備わる「急アクセル時加速抑制機能」のイメージ。
2020年夏発売の新型車に備わる「急アクセル時加速抑制機能」のイメージ。拡大
これまでアクセルペダルとブレーキペダルの踏み間違いによる事故の防止は、障害物がある場合に限られていた。新システムは、障害物がなくても暴走を抑止できる点が新しい。写真は、説明会で用いられたスライド資料。
これまでアクセルペダルとブレーキペダルの踏み間違いによる事故の防止は、障害物がある場合に限られていた。新システムは、障害物がなくても暴走を抑止できる点が新しい。写真は、説明会で用いられたスライド資料。拡大
「ペダル踏み間違いの推定アルゴリズム」のイメージ。トヨタは1年前から、数千台の“コネクティッドカー”を対象にデータを収集。その膨大な走行データを分析し、独自のアルゴリズムを開発してきた。
「ペダル踏み間違いの推定アルゴリズム」のイメージ。トヨタは1年前から、数千台の“コネクティッドカー”を対象にデータを収集。その膨大な走行データを分析し、独自のアルゴリズムを開発してきた。拡大
今回、新システムの説明にあたった、トヨタ自動車 先進技術開発カンパニー フェローの葛巻清吾さん。2003年には車両安全の機能主査として、技術の企画・開発を担当。2018年、内閣府の第2期SIP「自動運転」プログラムディレクターに就任した。
今回、新システムの説明にあたった、トヨタ自動車 先進技術開発カンパニー フェローの葛巻清吾さん。2003年には車両安全の機能主査として、技術の企画・開発を担当。2018年、内閣府の第2期SIP「自動運転」プログラムディレクターに就任した。拡大
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新たな機能は“後付け”できる

国や自動車メーカーがいま、踏み間違いの防止に力を入れているのには理由がある。日本の交通事故死者数は1990年代から低減の一途をたどり、2019年には3215人(=ピーク時の2割以下)にまで減っている。しかし一方で、75歳以上のドライバーが加害者となる死亡事故は、ここ10年ほどで増え続けているのだ。

そもそも、75~80歳の運転免許保有者数そのものが増えている。警察庁のデータによれば、2007年に381万人だった同値は、2018年には791万人へと倍増。たとえ“事故率”が減っても、高齢ドライバーの絶対数が増えているため、事故件数は増えてしまうという結果になっている。

「だから、お年寄りの運転を禁止すればいいじゃないか」という意見もあるだろう。しかし、75歳の父を持つ筆者も実感していることだが、年を取るほど自動車へのニーズは高まるもの。そこは、車両開発という手段で問題解決を目指すのが自動車メーカーの役割、ともいえるだろう。

葛巻さんによれば、(駐車場での誤発進事故を防ぐタイプの)既存の「インテリジェントクリアランスソナー」は、2019年12月の時点で83%の新車に装着されており、おかげで踏み間違い事故は約7割も減少できたという。

「残るは3割。その3割全部とは言いませんが、走行状態での誤操作を抑える新システムが、さらに半分(=1割5分)以上をなくせると考えています」

なおこの機能、2020年夏発売の新型車に装着されるだけでなく、既存の車種に対しても“後付けの踏み間違い加速抑制システム”として装着可能になる。具体的にどのモデルになるのか不明だが、「これまで後付け装置は、高齢者事故の発生率が高い小さなクルマから順次対応してきました」という説明から推測するに、夏発売の新型車もまた、コンパクトカーである可能性は高い。

なおトヨタはこの“踏み間違い推定アルゴリズム”を、特許料を取ることなく、他の自動車メーカーとも共有する考えだ。

「他社への働きかけ自体は、数カ月前からしています。反応ですか? みんなで取り組んでいきましょう! というポジティブなリアクションが得られていますよ」

意欲的に前向きな話をする葛巻さんも、現実をよく知る方だからか「事故数はゼロにできる」などとは明言しない。しかし、事故死傷者ゼロを“究極の願い”に掲げるトヨタのこうした取り組みは、いつか、それも早期に実を結んでほしいと願わずにいられない。

(文と編集=関 顕也、写真=トヨタ自動車、webCG)

資料をもとに、国内における交通事故について説明する葛巻さん。現在、高齢ドライバーの運転に起因する事故件数は増えているが、その数を減らす余地はまだあると語る。
資料をもとに、国内における交通事故について説明する葛巻さん。現在、高齢ドライバーの運転に起因する事故件数は増えているが、その数を減らす余地はまだあると語る。拡大
2020年2月10日に発売される新型「トヨタ・ヤリス」にもさまざまな安全装備が用意される。中でも、交差点での“右直事故”を防ぐ新システムや、360度センシングによる駐車支援システムの搭載は目玉とされている。
2020年2月10日に発売される新型「トヨタ・ヤリス」にもさまざまな安全装備が用意される。中でも、交差点での“右直事故”を防ぐ新システムや、360度センシングによる駐車支援システムの搭載は目玉とされている。拡大
レクサスのフラッグシップセダン「LS」とほぼ同等の安全装備も、トヨタ車の先進安全パッケージ「Toyota Safety Sense」に拡大展開される。具体的には、「操舵回避支援PCS」と「ドライバー異常時停車支援システム」「スピードマネジメント機能付きレーダークルーズ&LTA」の3機能。
レクサスのフラッグシップセダン「LS」とほぼ同等の安全装備も、トヨタ車の先進安全パッケージ「Toyota Safety Sense」に拡大展開される。具体的には、「操舵回避支援PCS」と「ドライバー異常時停車支援システム」「スピードマネジメント機能付きレーダークルーズ&LTA」の3機能。拡大
関 顕也

関 顕也

webCG編集。1973年生まれ。2005年の東京モーターショー開催のときにwebCG編集部入り。車歴は「ホンダ・ビート」「ランチア・デルタHFインテグラーレ」「トライアンフ・ボンネビル」などで、子どもができてからは理想のファミリーカーを求めて迷走中。

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