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動画配信で十分? ジュネーブモーターショー中止で気づいたこと

2020.03.23 デイリーコラム 藤野 太一
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新型コロナウイルスの前から吹いていた逆風

2020年3月に開催予定だったジュネーブモーターショーは、新型コロナウイルスの影響で中止となった。4月に行われるはずだった、北京モーターショーやニューヨークショーも延期が発表された。

ところで近年はモーターショーのあり方そのものが問われていた。デトロイト、ジュネーブ、フランクフルト、パリ、そして東京は、かつては世界5大モーターショーと呼ばれていたが、今は昔のことだ。

「CES」にその座を奪われたデトロイトショーは今年から8月開催となり、あれほどの栄華を極めたフランクフルトショーは出展社数激減で、2021年からは会場をミュンヘンへと移して開催されることが決まった。昨年の東京では、輸入車の出展社数はわずか4ブランドだった。

モーターショーのような国際見本市は、企業が自社の新製品や将来に向けての新技術、新たなサービスに関する情報を発信する展示会だ。プレスデーにはメーカー関係者や報道関係者が一堂に会するため、プレスカンファレンスで新車発表を行えば、各メディアが一斉に報道してくれる。かつてはそういったスケールメリットがあった。

ところが、もはや会場に足を運ばずともカンファレンスの様子は閲覧可能だ。報道機関が発信せずとも、メーカー自身や、あるいは個人でもウェブサイトやSNSやYouTubeなどの配信メディアを利用することが可能になった。新型車の情報はあっという間に世界中に拡散される。自動車先進国においてモーターショーの縮小傾向は、必然の流れだった。そして今後は、自動車にとって最重要市場となった中国をはじめとする新興国に、モーターショーの主戦場は移っていくだろう。

そうした流れの中、先述の世界5大モーターショーの中で唯一盛況であり続けてきたのが、ジュネーブモーターショーだった。

2019年にピニンファリーナが発表した「バッティスタ」。世界的にモーターショーが斜陽の一途をたどる中でも、その独自性でもって存在感を示していたジュネーブショーだが、2020年は新型コロナウイルスのまん延により、中止となってしまった。
2019年にピニンファリーナが発表した「バッティスタ」。世界的にモーターショーが斜陽の一途をたどる中でも、その独自性でもって存在感を示していたジュネーブショーだが、2020年は新型コロナウイルスのまん延により、中止となってしまった。拡大

配信サイトに見る“幻のジュネーブショー2020”

なぜジュネーブは特別なのか。それは以前から言われていることだが、自国に自動車メーカーのない“中立国”であることが大きな要因だ。デトロイトではアメリカメーカーが、フランクフルトではドイツメーカーが、主催者として立派なブースを構えることが慣習になっていた。しかし、このショーにはそれがない。各ブランドのブースの大きさにはそれほど差がなく、ジュネーブ空港に隣接する会場もとてもコンパクトで歩きやすい。そして、小さなブースであれば出展料を低く抑えることができるため、新興のスポーツカーメーカーなどの顔ぶれがどのモーターショーよりも多彩だ。またジュネーブやその周辺都市は富裕層が多いことで知られており、商談の場としても活用されているのだろう。一台数億円という超ド級スーパーカーを買える財力をもった人たちの反応を肌で感じることができる、マーケティングに格好の場というわけだ。
 
今年のジュネーブショーは残念ながら中止になってしまったが、主要メーカーのプレゼンテーションは、「Virtual Press Day」と名付けられた配信サービスで閲覧が可能だ。  

ちなみに、今回のショーで“ワールドプレミア”されるはずだった、あるいは出展が予想された主要なモデルを以下に列挙してみる。

  • ルノー・トゥインゴZ.E.
  • シトロエン・アミ
  • フォルクスワーゲン・ゴルフGTE
  • アウディe-tron/e-tronスポーツバックの「Sモデル」
  • アルファ・ロメオ・ジュリアGTA/GTAm
  • モーガン・プラスフォー 
  • アウディA3スポーツバック
  • ポルシェ911ターボS
  • ベントレー・バカラル
  • メルセデス・ベンツEクラス
  • GFGスタイル バンディーニ・ドーラ
  • マクラーレン765LT
  • イスパノ・スイザ・カルメン ブローニュ
  • アストンマーティンV12スピードスター
  • フィアット500
  • フィスカー・オーシャン

これらの顔ぶれを見れば、ジュネーブショーは従前からの流れを踏襲し、電気自動車(BEV)&ハイパフォーマンスカー主体の展示だったことがわかる。BEVに関しては、昨年のジュネーブでホンダが「ホンダe」のプロトタイプを世界初公開し、フランクフルトでフォルクスワーゲンが「ID.3」の市販モデルを発表したが、「ルノー・トゥインゴ」や「フィアット500」などが続いているのをみると、コンパクト化の流れがきているようだ。BEVはいま80kWh以上の大容量バッテリーを積んだ高性能で高価なモデルと、30kWh前後の小型バッテリーを積んだ普及型とに2極化している。

アストンマーティンが発表した「V12スピードスター」。ジュネーブショーは中止となったが、各社が実施したプレスカンファレンスの様子は、情報配信サイトによって見ることができた。
アストンマーティンが発表した「V12スピードスター」。ジュネーブショーは中止となったが、各社が実施したプレスカンファレンスの様子は、情報配信サイトによって見ることができた。拡大

“ショー”はライブで見る方がいい

そもそも編集部からのお題は、「幻となったジュネーブショー2020のトレンド、そこから見える自動車業界の潮流を探ってください」というものだったが、果たしてあまりに深刻な新型コロナウイルスの感染拡大をみるにつけ、そうのんきな話もしていられない。

欧州では人の移動が制限されている影響で、ダイムラーもBMWもフォルクスワーゲングループも生産ラインを止めている。日本メーカーではトヨタもイギリス、フランス、ポーランド、チェコ、トルコなど欧州の生産拠点をはじめ北米でも操業停止。アメリカでもビッグ3をはじめ、トヨタ、日産、ホンダなどの日本メーカーもすべてラインが止まっている状況だ。サプライヤーやロジスティクスに与える影響も尋常ではないだろう。

自動車レースの世界でも、F1をはじめ、ニュルブルクリンク24時間もルマン24時間も、国内では最も集客力のあるSUPER GTもすべて延期になった。まずは一日も早いパンデミックの収束を願うばかりだ。

最後にあえて言うならば、「Virtual Press Day」を見ていてわかったことがある。ごくあたり前のことだが、モーターショーは現地へ赴いたほうが面白いということだ。5Gなどで通信回線が速くなり、どんなにテレワークが進んだとしても、人の声や動きや会場の空気が生み出す臨場感までは伝わらない。何もコンサートや演劇だけでなく、モーターショーだってレースだって、“ライブ”なのだ。あんなに苦手だった人混みだって、とても大切な意味を持っているのだと知るに至った。

(文=藤野太一/写真=アストンマーティン、Newspress、webCG/編集=堀田剛資)

2019年の東京モーターショーより、トヨタのプレスカンファレンスに詰めかける報道陣。
2019年の東京モーターショーより、トヨタのプレスカンファレンスに詰めかける報道陣。拡大
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