まだまだこれから? 日欧の自動車市場に見るディーゼル車の未来
2020.04.29 デイリーコラムディーゼル比率に変化あり
「SKYACTIV-D」搭載車、国内販売累計50万台達成――
2019年の11月末、マツダが発信したニュースリリースの題名です。要はマツダの新世代ディーゼル車が国内で50万台売れたよということなんですが、その初出は2012年あたま、初代「CX-5」に搭載された2月21日の話ですから、8年かからずこの数字というのは結構なスピードを表すものと見ていいでしょう。
それもそのはずで、今やマツダの国内全販売の約半分がディーゼルとなっています。当然モデルライフによる浮沈もありますが、ざっくり年間8万台前後とイメージすれば的外れではありません。
その他の日本メーカー、トヨタや三菱に加えて近ごろは輸入車のディーゼルラインナップも充実しています。そこに件(くだん)のマツダの数字と合わせると、おおむね年間で15万台前後のディーゼル乗用車が販売されている計算です。登録車全体が年間250万台程度と見積もれば、約6%のシェアといったところでしょうか。
一方、2011年には全数の55%近くに達していた欧州でのディーゼル販売比率ですが、2019年の数字は31%です。フォルクスワーゲンの“ディーゼルゲート”が発覚した2015年に対しては20ポイントのダウンと、このあたりからの落ち込みが目に見えて明らかになっています。もっとも、これはディーゼルゲートのみならず、その以前から懸念されていた大都市の大気汚染問題が顕在化したことも影響しているのは間違いありません。
電動化だけではクリアできない
ただし、ディーゼルの販売比率低下による負の変化も確実に表れています。それはCO2排出量の増加です。これ、ディーゼルの減少に反してガソリンの販売比率が59%に達したぶん、連動してスコアが引き上げられたかたちなんですね。で、本来ならその増加分を補えるほどの削減効果が期待できるBEV(バッテリーEV)やPHEV(プラグインハイブリッド車)、HEV(ハイブリッド車)の販売が振るわないと。トヨタあたりはHEVが売れて欧州での販売台数が増えているんですが、まぁ全数に対すれば微々たるものです。ちなみにこのCO2増加はここ3年連続の流れでして、パリ協定を背負うわれわれとしては看過できない傾向になっています。
ディーゼルを減らせばNOxやPMが減るかもしれないけど、CO2は間違いなく増える。この相反関係は、車体が重く走行抵抗も大きいSUVではより顕著に表れます。そう、メーカーにとっては売れ筋も売れ筋、稼ぎ頭のカテゴリーです。ここのディーゼルをガソリンに置き換えるのは、何よりCAFE(企業別平均燃費)的にも相当きつい。だったら電動化で切り抜けるしかないだろうというのがディーゼルゲート以降の欧州メーカーに共通した見解でした。
が、こういったネガティブな数字が目に見えるようになると、「やっぱりディーゼルも並行してやっておかないと、この先に致命傷を負うかもよ」的な空気がふんわりと漂ってくるようになりました。特にドイツの自動車メーカーのエンジニア方面からの圧は強力でして、「BEVなんて経営側が張り切ってるだけで、数年後に100万台なんて大風呂敷が達成できるわけがないってことは、お前らだってわかるだろ?」と、はばかりなく仰せの方もいらっしゃるくらいです。
用途に応じてディーゼルを
確かにBセグメント以下のコンパクトカーにとっては、ベストソリューションはガソリンだと思います。
現在のディーゼルはNOxやPMの対策にさまざまな後処理装置を付加しなければならず、小型車への使用を前提とする1.5リッター以下の小さいエンジンはコスト、効率、搭載性のうえでも見合わないものになっています。ゆえにBセグメント以下級のコンパクトカーにとってはガソリンがベストソリューション、あるいは航続距離等の“ぜいたく性能”を欲張らなければBEVでも高効率を発揮できると思います。何より「トヨタ・ヤリス ハイブリッド」の実燃費を知れば、もうディーゼルの出る幕はないかとも思います。
一方で、サイズに比例して単価も高い大型車やSUVは、ディーゼルの価値が際立ちます。ガソリンで仮に同じ仕事をさせたなら、燃費は逆立ちしてもかないません。もちろんWell-to-Wheel(油田から車輪まで)で見ればBEVもしかり。そしてバイオマス燃料などのブレイクスルーがあれば、ディーゼルはその雑食性を生かして圧倒的な環境性能を発揮する可能性もあります。
先の東日本大震災の際に、日本は強烈なガソリン不足に見舞われました。僕が物資運搬のボランティアで訪れた病院では、製薬会社の営業バンが軒並み燃料切れで、薬や医療用品が営業所にはあるけれど届かないという事態におちいっていることも、何度も耳にしました。有事対応やエネルギーマネジメントの面からも、日本で保有される乗用車の1~2割はディーゼルにした方がいいんじゃないかとあちこちで話をするようになったのは、そういう背景からです。
国内販売の選択肢はほぼ100%ガソリンで、乗用ディーゼルといえばメルセデスくらいだったあの頃からすれば、今や日本のディーゼル販売状況は夢のように改善されました。特に通勤先が遠い、高速移動が多いなど年間の走行距離が長いユーザーは、CO2側からの環境貢献度が高いディーゼルを考えてみるのは悪くないと思いますよ。
(文=渡辺敏史/写真=トヨタ自動車、マツダ、BMW、FCA、webCG/編集=関 顕也)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
バンコクモーターショー訪問記 「ランドクルーザー“FJ”」目当てに出かけた先で起きた大事件NEW 2026.5.6 年に2度開催され、毎回盛況のバンコクモーターショーをライターの工藤貴宏が訪問。お目当てはついに正式発表&発売の「トヨタ・ランドクルーザー“FJ”」だったのだが、現地では数十年ぶりとなる大事件が起きていた。会場の様子とともにリポートする。
-
業績不振は想定内!? 名門ポルシェはこの先どうなってしまうのか? 2026.5.4 2025年から思わしくない業績が続くポルシェ。BEVの不振やMRモデルの販売終了などがその一因といわれるが……。果たして、名門に未来はあるのか? 事情をよく知る西川 淳が、現状と今後の見通しについて解説する。
-
世紀の英断か 狂気の博打か 「日産サクラ」の値下げに踏み切った日産の決断を考える 2026.5.1 日産の軽乗用電気自動車「サクラ」が、180kmの航続距離はそのままに値下げを断行! デビューから4年がたつというのに、性能はそのままで大丈夫? お手ごろ価格というだけでお客は戻ってくるのか? 電気自動車のパイオニアが下した、決断の成否を考える。
-
BMWの新世代BEV「i3」の姿からエンジン搭載の次期「3シリーズ」を予想する 2026.4.30 「iX3」に続き、完全な電気自動車として登場した新型「i3」。BMWはノイエクラッセをプロジェクトの御旗に電動化を推進しているが、同社の伝統たる内燃機関搭載車「3シリーズ」のゆくえやいかに。 i3の成り立ちからその姿を予想する。
-
「シビック タイプR」は入手困難 北米生産の「インテグラ タイプS」はその需要を満たせるか? 2026.4.29 ホンダが北米生産の「アキュラ・インテグラ タイプS」の国内導入を発表した。エンジンなどのスペックから、それが「シビック タイプR」にほど近いクルマであることがうかがえる。果たしてタイプSは入手困難なタイプRの代替になるのだろうか。
-
NEW
ジープ・アベンジャー4xeハイブリッド アップランド(4WD/6AT)【試乗記】
2026.5.6試乗記ジープのなかでも最も小柄な「アベンジャー」に、4WDのマイルドハイブリッド車「4xe」が登場。頼りになるリアモーターと高度なマルチリンク式リアサスペンションを備えた新顔は、いかなる走りを見せるのか? 悪路以外でも感じられる、その恩恵を報告する。 -
NEW
第111回:新型BMW i3(後編) ―BMWの挑戦が浮き彫りにした、BEVセダンのデザイン的課題―
2026.5.6カーデザイン曼荼羅BMWが発表した新型「i3」は、スポーツセダンの世界的ベンチマーク「3シリーズ」の電気自動車(BEV)版ともいうべきモデルだ。彼らが思い描く、BEV時代のセダンの在り方とは? そこから浮かび上がる、未来のセダンの課題とは? カーデザインの識者と考えた。 -
NEW
バンコクモーターショー訪問記 「ランドクルーザー“FJ”」目当てに出かけた先で起きた大事件
2026.5.6デイリーコラム年に2度開催され、毎回盛況のバンコクモーターショーをライターの工藤貴宏が訪問。お目当てはついに正式発表&発売の「トヨタ・ランドクルーザー“FJ”」だったのだが、現地では数十年ぶりとなる大事件が起きていた。会場の様子とともにリポートする。 -
アルファ・ロメオ・ジュニア エレットリカ プレミアム(FWD)【試乗記】
2026.5.5試乗記アルファ・ロメオのコンパクトSUV「ジュニア」にラインナップする電気自動車「ジュニア エレットリカ プレミアム」に試乗。1973年型の「GT1600ジュニア」を所有していたかつてのアルフィスタは、最新のフル電動アルファに触れ、何を感じたのか。 -
“ウインカーのカチカチ音”は、どんな理由で決められているのか?
2026.5.5あの多田哲哉のクルマQ&Aウインカー(方向指示器)を使う際の作動音は、どんなクルマでも耳にする一方、よく聞くとブランドや車種によって差異がある。一体どんな根拠で選定されているのか、元トヨタのエンジニア、多田哲哉さんに聞いた。 -
トヨタGRヤリス/GRカローラ/GRヤリスMORIZO RR プロトタイプ【試乗記】
2026.5.4試乗記進化を続ける「トヨタGRヤリス」と「GRカローラ」の、最新バージョンに試乗。硬派な4WDスポーツならではの、サスペンションチューニングの難しさを知るとともに、100台の限定モデル「GRヤリスMORIZO RR」に、そのひとつの回答を見いだすことができた。






