ケータハム・スーパーセブン2000(FR/5MT)
ぜいたくの極み 2026.04.28 試乗記 往年のスポーツカーの姿を今日に受け継ぐケータハム。そのラインナップのなかでも、スパルタンな走りとクラシックな趣を同時に楽しめるのが「スーパーセブン2000」だ。ほかでは味わえない、このクルマならではの体験と走りの楽しさを報告する。乗り降りだけでもコツがいる
空をにらんだところで雨が上がるわけじゃないのはわかっている。しかし、どうにも恨みがましい気持ちをぬぐい去ることができなかった。
スーパーセブンをしっかり走らせることができそうなのは何年ぶりか。その昔は、貴重なモデルも含めてほぼすべてのモデルに試乗し、ケントやBDRといった、時代を象徴する名機を積んだセブンでレースを走ったりもしていた。それが、時の移ろいとともに環境や状況が変わり、次第に縁が薄くなってしまっていたのだ。
ケータハム・カーズが創設された1973年から、いや、源流である「ロータス・セブン」のデビュー年である1957年から、姿かたちも基本的な設計も変えることなく、延々と改良・進化・発展を繰り返し、生き残ってきた稀有(けう)なスポーツカー。その最新版を……そして遠からずバッテリーとモーターの時代がくることを思えば、内燃機関を積む最後のセブンになるかもしれないモデルを、ようやく堪能できるチャンスが巡ってきたというのに。強くなったり弱くなったりしながらも、一向にやむ気配のない雨。これは自分の涙雨みたいなものだな、なんて鬱々(うつうつ)とした気分でいた。
お前はなにをカッコつけてるのだ? と思われた方もおられるだろう。なにゆえそこまで浸るのかと。いや、仕方ないのだ。セブンというのはそういうクルマなのだから。
気を取り直して、ドアの代わりというにはあまりにも簡素なサイドスクリーンを跳ね上げ、コックピットに潜り込む。ホロをかぶったセブンに乗り込むのは、慣れない人には至難の業だろう。サイドスクリーンの開口部はあり得ないぐらい狭い。雨に背中を打たれながら頭から進入し、腰のあたりまで潜り込んだら体を反転させてシートに腰を下ろし、両足を順番に引き上げてステアリングシャフトの両側に収めていく。文字にすれば簡単に思えるかもしれないけど、だいぶアクロバティックだし、だいぶめんどくさい。ホロの内側やホロの骨に頭もぶつけがちだ。けれど、ひとたびシートに収まってしまえば──というかパコッとはまり込んでしまえば、意外や快適だ。その一連の流れがうまくできた。身体が覚えていた。少しだけ気をよくしてスターターボタンを押し、のそのそと走りだす。
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クラシックな「セブン」をよりクラシックに
10分後、僕は一転して上機嫌になっていた。最初の5分でセブンに馴染(なじ)み──というか、すべてのセブンに共通する独特の運転感覚を身体が完全に思い出し、さらに数分後にさしかかった高速道路のランプウェイで右足をグッと踏み込むと、世界が変わった。1速と2速ではぬれた路面にタイヤのグリップを奪われ、なかなかまっすぐ進めない。が、グリップと空転の境目あたりをアクセルペダルで探り当てた瞬間、素晴らしく強烈な加速がやってくる。もとから空に近いけどさらに頭が空っぽになりそうな感覚。これだよ! これこれ! 雨、ぬれた路面、視界を大幅に遮るホロといううれしくないフィルターがかかっているにもかかわらず、「ひゃっほー!」と声を上げたい気分になった。
ケータハムのラインナップにおけるスーパーセブン2000の立ち位置を説明すると、生産終了によりディーラー在庫限りとなった「セブン480」に次ぐ高性能版の「セブン340」をベースに、クラシカルな装いが与えられた上級モデルである。
あまり関心のない人にはすべてのモデルがクラシカルに思えるだろうし、それを否定する気もなければ否定することもできない。ただ、ケータハムが製造権を譲り受けてからですら、すでに50年以上もつくり続けられているセブンである。時の流れとともに、これでもさまざまなディテールの変更が行われてきているのだ。
視覚的に最もわかりやすいのはフロントウイング、一般的にはフロントフェンダーと呼ばれる部分だろう。現在は、フロントタイヤの上にかぶさるサイクルウイング(昔はサイクルフェンダーと呼んでいた)がセブンの主流なのだけど、ケータハムの初期から1980年代後半ぐらいまでのモデルでは、ロータス時代から継承されたフレアードウイング(昔はクラムシェルフェンダーと呼んでいた)が主流だった。
スーパーセブン2000には、かつてのセブンの象徴的なディテールだった、そのクラムシェル型のウイングが備わっているのだ。それだけでも、セブン好きなら郷愁に近い気持ちが湧いてくる。ただでさえクラシカルなセブンのなかでも、さらにクラシカルな雰囲気なのだ。
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軽さはすべてに勝る
セブン340との相違点は、もちろんそれだけじゃない。例えばメーターがクロームの縁を持つスミス製となり、ステアリングがMOMO製からMoto-Lita製になってウッドも選べるようになり、フィラーキャップがクロームのレーシングフィラー風となり、スペアタイヤ&ホイールとそのキャリアが標準で備わるなどなど、往年のセブンそのものといったディテールが与えられる。
豊富に用意されるオプション群も、トラック志向が強いセブン340に対し、ややゴージャスだったり雰囲気重視だったりパーソナライズの幅が広かったりと、エレガントでツーリング志向といえるようなものが多い。ちょっと違うけど、「ポルシェ911 GT3」から派生した「GT3ツーリング」のような位置づけ、とイメージしていただいていいだろう。
もちろん走りの部分をないがしろにしているわけじゃなく、「スポーツサスペンションパック」やLSD、4ピストンキャリパーのフロントベンチレーテッドディスクブレーキなど、セブン340とほぼ同等のコーナリングパフォーマンスやストッピングパワーを得るためのオプションも用意されている。
そもそも「シリーズ3」と呼ばれるナローボディーを基本とすること、ドディオンアクスル式リアサスペンションのシャシーを採用すること、最高出力172PS/7250rpm、最大トルク174N・m/6500rpmの「フォード・デュラテック」2リッター直4エンジンとマツダ製5段MTを搭載することなど、基本構成はセブン340と共通だ。それゆえ、誰が走らせてもそうそうパフォーマンスに不満に感じることはないだろう。
なにせ車重はドライで560kg、車検証記載値で590kg。これはセブン340と同じ数値で、パワーウェイトレシオは3.37~3.43kg/PSといったところ。昨今のスポーツカーと比べても、例えば「日産フェアレディZ NISMO」や「トヨタGRスープラ」「ポルシェ718ケイマンGTS」「アルピーヌA110 R」などより優れた数値となるのだ。0-100km/h加速5.0秒の体験は、ほとんどの人が本能的に「速い!」と感じられるレベルで、慣れない人は怖さすら覚えるかもしれない領域にある。たかが高速のランプで、三重苦のような環境のなかでさえ「ひゃっほー!」と叫び出したくなるのも、当然といえば当然なのだ。
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この快感は何物にも代え難い
実際のところ、140PS少々のデュラテック2リッターをベースに、ケータハムが吸排気系やECU、フライホイールなどに手を加えたスーパーセブン2000のパワーユニットは、僕はなかなかに素晴らしいものだと感じている。あらゆる領域でレスポンスがいい。低速域でのトルクも十分だから、街なかをゆっくり走るときでも扱いやすいし、シフトを少しぐらいサボっても楽々とそれを許容してくれる。そのくせ3000rpmを過ぎたあたりから弾みがつきはじめ、7000rpmを超えるあたりまでパワーの密度感を高めながら鋭く吹け上がる。それにシンクロして、かつてのケントやBDRには少々及ばないものの、はっきり快音と評せるサウンドも高まっていく。加速は慣性の束縛からすっかり解放されたかのようで、すさまじく気持ちいい。背筋が軽くゾクゾクする。
そのダイナミズムは、ワインディングロードに滑り込んでからも健在、というかここでこそ本領発揮といった様子で、路面のコンディションとタイヤのグリップと横Gがうまくバランスしたところで適切なスロットルの入れ方をできれば、シュパーッ! と、まるで弓から放たれた矢のように鋭く加速していく。履いているエイボンがフロント175幅、リア185幅と細く、ハイグリップ系じゃないこともあって、逆にスロットルを入れるタイミングや踏み込み加減をミスると、リアタイヤが路面をつかみきれなくなることもあった。が、自分がそのリアタイヤのすぐ前に座っていることもあって、動きがしっかり腰に伝わってきて感知しやすい。ステアリングもクイックで極めて反応がいいから、意外や容易に修正することができる。
もっとも、これは初めて乗るクルマであるし、何度も触れているとおり、当日の路面コンディションはウエットだったから、ウデにそう自信があるわけでもない僕は、無理せず、操れそうな領域であれこれ試してみたにすぎない。というのも、誤解を恐れずに言うなら、セブンはちまたで言われているより“曲がらない”クルマだということを知っているからだ。
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うまく曲げるにはコツがいる
セブンに乗っていてどこでもスパスパ曲がれる気がするのは、クルマが持つ限界のずっと手前側で走っているからだ。限界付近でのセブンはというと、しっかりフロントに荷重をかけないと長い鼻先はなかなか内側に向かないし、立ち上がりでヘマをするとトラクション抜けを起こしがち。一部のモデルを除けばそれが基本的な性格で、例えばサーキットでタイムを削ろうとアシを固めれば固めるほど、その傾向は強くなる。つまり、パフォーマンスの高いモデルほど、実は曲げるのがちょっと難しかったりする。今回はその境界線まで踏み込んだりはしなかったが、その点を加味しても“曲がる”ことに関して好印象だったのは、パフォーマンス高めのモデルでありながらフロントにもリアにも荷重をかけやすく、そのバランスが絶妙だったから。アシがとてもしなやかに動いてくれるのだ。
セブンは、サーキット志向の強いモデルや、一部で“ウルトラセブン”なんて呼ばれる超高性能系のモデルを除けば、実はさほどガチガチなセッティングではない。どちらかといえば、見た目から想像するよりはるかにしなやかだ。このスーパーセブン2000も乗り心地は快適な部類で、“R”を除く660ccの「セブン130~170」シリーズほどではないものの、のんびり走る気持ちよさも味わえる。今回は奇跡的に晴れ間がのぞいたタイミングを除くと、終始、見事に雨にたたられてしまった。それもあって、帰りの高速をのんびり走りながら、「今の時期、春の心地いい日和のなかで、山道を攻めたり、ゆったりクルージングしたりしたいものだなぁ」と心底思ったものだ。
今やセブンも高価格車の仲間入りで、ベース車のセブン340でも1091万2000円、スーパーセブン2000は1146万2000円で、さらに今回の試乗車は各種オプションがたっぷり盛られていて、1300万円を超える価格となっていた(いずれも取材時の価格)。であれば、もっと威張りが利いたり、もっと速かったりするクルマのほうがいいんじゃない? なんて思われるのが普通だろう。そういう人は素直にそっちにいけばいいと思う。実際、セブンは走るためだけにつくられていて、走ることしか能がなく、“おもてなし”など皆無に等しい。けれど、走りに関してはみじんも妥協がなく、ほかでは得難い楽しさや気持ちよさを、遠慮会釈なしにドライバーにたたき込んでくるクルマなのだ。しかもそれは、英国の職人が一台ずつていねいに手組みした工芸品のような存在でもある。これはとても、ぜいたくなことではあるまいか。
スポーツカーを手に入れるなら、おそらくアシにするクルマとの2台持ちになるだろう。であれば、僕は日常とはかけ離れたスポーツカーを選びたい。なんだか焼けぼっくいに火がついちゃったような気分だ。
(文=嶋田智之/写真=向後一宏/編集=堀田剛資/車両協力=エルシーアイ)
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テスト車のデータ
ケータハム・スーパーセブン2000
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3380×1575×1115mm
ホイールベース:2225mm
車重:560kg(乾燥重量)/590kg(車検証記載値)
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:5段MT
最高出力:172PS(126.5kW)/7250rpm
最大トルク:174N・m(17.7kgf・m)/6500rpm
タイヤ:(前)175/60R14 82H/(後)185/60R14 82H(エイボンZT7)
燃費:--km/リッター
価格:1146万2000円/テスト車=1337万2700円
オプション装備:ボディーカラー<バーボン>(62万8100円)/ホイール<ボディーカラーアロイセンター+ダイヤモンドカットリップ>(17万6000円)/ダイヤモンドクロームメッシュグリル(3万8500円)/ダッシュボード<レザー[オーバーン]>(16万3900円)/シート<レザー[オーバーン]>(48万9500円)/ギアボックス&ハンドブレーキゲートル<レザー[オーバーン]>(6万2700円)/サイドスクリーンアームレスト<ブラック>(3万8500円)/Moto-Lita製ウッドリムステアリングホイール(7万4800円)/ベンチレーテッドフロントディスク&4ピストンキャリパー(17万6000円)/アップレーティッドブレーキマスターシリンダー(6万2700円)/ブラックレザーロールバー(特別装備)
※価格は取材時のもの。
テスト車の年式:2025年型
テスト開始時の走行距離:3688km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(7)/山岳路(2)
テスト距離:232.8km
使用燃料:16.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.9km/リッター(満タン法)
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嶋田 智之
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