【F1 2020】開幕戦オーストリアGP「ドラマチックな開幕戦で217日ぶりの歓喜」
2020.07.06
自動車ニュース
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2020年7月5日、オーストリアのレッドブル・リンク(4.318km)で行われたF1世界選手権開幕戦オーストリアGP。無観客、ソーシャルディスタンスなど、新型コロナウイルス感染予防のために取られたさまざまな処置を経てようやく開催までこぎつけたレースは、3度もセーフティーカーが入るドラマチックな展開となった。
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F1「ニューノーマル」の始まり
新型コロナウイルスのパンデミックと、各国で取られたロックダウンをはじめとする各種感染拡大防止策により、開幕戦が3月の「オーストラリアGP」から7月の「オーストリアGP」に変更された2020年シーズン。違うのは1文字だけ、ということは当然なく、あれから何もかもが変わってしまったことは言うまでもない。
F1における「ニューノーマル」は、とにかく異例づくしだ。“正式な手順”によれば、週末を通じて無観客、スポンサー招待などを含めノーゲストで開催。レース後の表彰式も通常のかたちでは行われない。帯同できるチームメンバーは各陣営最大80人までに絞られ、ドライバー、メカニック、チーム首脳も皆フェイスマスク着用となる。また、あらゆる場所でソーシャルディスタンスを保つ指示も出ている。
7月に入ってからのシーズン開幕は、70年のF1の歴史で最も遅く、ヨーロッパからスタートするのは54年ぶり。今年3月までは史上最多22戦のスケジュールが組まれていたが、コロナ禍で当初予定されていた前半10戦が延期・中止となり、調整の末に取りあえず7月~9月上旬までの欧州8戦がようやく確定した。
ただ、今季後半にあと何戦が加わるのか、どんなコースになるかはまだ発表されておらず、チャンピオンシップを戦う上でも見通しが立てづらい。加えて、決まっている前半8戦も10週間という短期に詰め込まれており、大きなクラッシュやトラブルへの対応が間に合わないなど不測の事態も考えられる。オーストリアとイギリスでは、2週連続で同じサーキットを舞台にレースが行われるというのも初めてのことである。
開幕遅延中の5月にはチャンピオン経験者のセバスチャン・ベッテルが今季限りでフェラーリを去ることが発表され、2021年にはマクラーレンのカルロス・サインツJr.がフェラーリに、ダニエル・リカルドがルノーからマクラーレンにそれぞれ移籍することが決まるなど、シーズン前からドライバー市場が大きく動いたのも例年にはないことだ。
さまざまな異例のなか、多くの関係者の尽力もあり、2020年シーズンはなんとかスタートを切ることができたのだった。
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メルセデス&ボッタスがポールポジション
2020年シーズンの見どころといえば、メルセデスのルイス・ハミルトンが、ミハエル・シューマッハーが持つ最多タイトル記録7回に並ぶことができるか。6連覇中の王者メルセデスの牙城を、レッドブル、フェラーリが切り崩せるか。激戦の中団勢からどのチームが抜け出すかなど挙げられるが、初戦早々のフリー走行で見えてきたのは、やはりメルセデスは今年も速いということだった。
ブラックにカラーを一新したメルセデスの今季型「W11」を駆り、フリー走行3回ともハミルトン1位、チームメイトのバルテリ・ボッタス2位と好発進。そして今年最初の予選、トップ10グリッドを決めるQ3に入ってもメルセデス優勢のまま進んだのだが、コースレコードを塗り替える最速タイムをたたき出したのは、ボッタスのほうだった。30歳のフィンランド人ドライバーにとっては通算12回目の予選1位。オーストリアでは3回目となり、ニキ・ラウダらが持つ同地最多記録に肩を並べた。
ハミルトンは0.012秒という僅差で予選2位だったが、レース直前になって3グリッド降格が決定し5番グリッド。Q3最後のアタック中の黄旗無視によるペナルティーで、予選直後に一度おとがめなしとなったものの、レッドブルからの抗議の末に降格となった。
レッドブル「RB16」をドライブするマックス・フェルスタッペンが3番手タイム、ハミルトン降格でフロントローからのスタート。チームのホームGPで2連勝中、昨年はホンダに復帰後初優勝をもたらした若きオランダ人が好位置を得た。キャリアベストの予選4位だったマクラーレンのランド・ノリスは3番グリッド、レッドブルのアレクサンダー・アルボンが4番グリッドに繰り上がり、ハミルトンを間に挟み、レーシングポイントのセルジオ・ペレスが6番グリッドにつけた。
フェラーリは新型「SF1000」で大苦戦。シャルル・ルクレールはポールから0.9秒も離され7位、ベッテルは屈辱のQ2敗退で11位と下位グリッドに沈んだ。マクラーレンのサインツJr.8位、レーシングポイントのランス・ストロール9位、ルノーのリカルドは10位だった。
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フェルスタッペンが早々にリタイア メルセデス1-2へ
71周レースのスタート、ターン1をトップで入ったのはポールシッターのボッタス。ノリスがフェルスタッペンに並びかけるもコースを外れてしまい、フェルスタッペンの後ろの3位で戻る。4位アルボン、5位ハミルトンと続いたが、程なくしてアルボンとハミルトンがノリスを抜いたことで、1位ボッタス、2位フェルスタッペン、3位アルボン、4位ハミルトンと、メルセデスがレッドブルをサンドイッチするかたちとなった。
やがて、GP2年目のアルボンの真後ろに6冠王者ハミルトンが肉薄。9周目にはハミルトンがアルボンをズバっと刺して3位に上がった。この後もメルセデス対レッドブルの好ゲームが期待されたが、11周目、好走していた2位フェルスタッペンが突如スローダウンし最後尾までドロップ。ピットに入りタイヤを交換したものの、電気系のトラブルか、マシンは再始動することなくガレージの奥に消えた。
これでメルセデスが難なく1-2を手に入れ、残されたもう1台のレッドブル、アルボンが3位。4位ノリス、5位ペレス、6位ルクレールらが続いた。2位ハミルトンはファステストラップを更新しながらジワジワとボッタスとの差を詰め、24周を過ぎるころには間隔は5秒を切った。
26周目、ハースのケビン・マグヌッセンがコースオフ、ストップしたことでこの日最初のセーフティーカーが出動し、メルセデスをはじめ各陣営がタイヤ交換に踏み切った。1位ボッタス、2位ハミルトン、3位アルボン、4位ノリス、5位ペレス、6位ルクレールという隊列で31周目にリスタート。各車接近状態のなか、入賞圏後方のサインツJr.とベッテルが接触し、フェラーリは15位に後退。一方ペレスがノリスをオーバーテイクし4位に上がるなど順位が動いた。
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ボッタス優勝、ハミルトン降格でルクレールが2位に
レース中盤、首位ボッタスは最速ラップを刻みながら2位ハミルトンを突き放しにかかろうとし、ハミルトンもチームに「エンジンをもっと回していいか?」とたずね、両車とも臨戦態勢を取っていた。だが、1秒以下の僅差で走るメルセデスの2台に、チームからの不穏な無線が入る。
「ギアボックスのセンサーに問題が出るかもしれないから、縁石に乗らずに走ってくれ」。この無線の前、同じメルセデスのパワーユニットを搭載するレーシングポイントのストロールが衝撃によるセンサー異常でリタイアしていたのだ。ボッタスとハミルトンの間は1秒以上に開いたものの、トップ2台には別の意味での緊張感が走っていた。
レースは終盤にかけて、ますます荒れ模様を呈した。まずは51周目、ウィリアムズのジョージ・ラッセルがスローダウンしコース脇にストップしたことで、このレース2度目のセーフティーカー。アルボン、ノリス、ルクレールらが再びピットでタイヤを替えたことにより、1位ボッタス、2位ハミルトン、3位ペレス、4位アルボン、5位ノリス、6位ルクレールというポジションに。アルボンは順位を4位に落としたが、ソフトタイヤを履いて前の3台に勝負を挑んだのだ。
そのアルボンが、55周目の再スタート早々にペレスを抜き3位に。その直後、キミ・ライコネンのアルファ・ロメオのフロントタイヤが外れるというトラブルで3度目のセーフティーカー。61周目にレースが再開すると、鬼気迫る勢いの3位アルボンがアウトから2位ハミルトンに襲いかかった。しかし2台は接触してしまい、アルボンは最後尾に脱落。また2位を死守したハミルトンには、この接触のペナルティーとして5秒が加算されることになってしまう。
こうしたライバルの混乱に乗じて上位に駒を進めてきたのが、フェラーリのルクレールだった。絶不調で迎えた開幕戦で、ペレスをオーバーテイクし3位、ハミルトンのペナルティーでなんと2位でフィニッシュしてしまったのだった。
漁夫の利を得たドライバーがほかにもいた。マクラーレンを駆る弱冠20歳のノリスだ。ハミルトンに5秒が加算されると知るや猛烈にペースを上げ、最終周でファステストラップを記録。6冠王者をポディウムから引きずり下ろし、自身初めての3位表彰台を獲得したのだ。
人気の少ないコース上に設けられた、簡易な表彰台の中央に立ったボッタスは、昨季に続く開幕戦での勝利。何戦になるか分からない2020年シーズンだが、レース数が少なければ少ないほど1勝の重みは増していく。最強の敵、ハミルトンがつまずいたことも重なって、ボッタスはタイトル獲得に向けて幸先のいいスタートを切った。そして、2019年の最終戦から217日ぶりに歓喜の瞬間が訪れたこの日、F1にようやく日常が戻ってきたことを世界中のファンが実感した。
第2戦もレッドブル・リンクでの開催。GP名は地名から「シュタイアーマルクGP」となる。決勝日は1週間後の7月12日だ。
(文=bg)