【F1 2020】第4戦イギリスGP「運を味方につけたハミルトンが3輪走行で3連勝」
2020.08.03 自動車ニュース![]() |
2020年8月2日、イギリスのシルバーストーン・サーキットで行われたF1世界選手権第4戦イギリスGP。レース終盤になって相次いだタイヤトラブルが、戦いの様相を大きく変えた。
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感染発覚で欠場のペレス「最も悲しい日」
ついにF1ドライバーから新型コロナウイルス感染者が出てしまった。イギリスGP開幕目前の2020年7月30日、レーシングポイントのセルジオ・ペレスは、F1関係者が5日ごとに受けることになっているウイルス検査で陽性と診断され、同GPを欠場することになった。
ペレスは、前戦ハンガリーGP終了後、事故で入院していた母親を見舞いにプライベートジェットで母国メキシコを訪れていたというが、どこで感染したかは分かっていない。幸いにして症状は出ていないものの、SNSを通じたファンへのビデオメッセージでは「キャリアの中で最も悲しい日だ」と肩を落としていた。感染のショックに加え、今季絶好調のレーシングポイント、上位を狙えたかもしれないレースに出られないとあっては落胆するのも無理はない。すでにイギリスにいたペレスは、現地のルールにのっとり少なくとも10日間の隔離生活を余儀なくされるため、同地での連続開催となる翌週の第5戦「70周年記念GP」にも出ることができない。
イギリスGPでは、レーシングポイントの前身であるフォースインディアに在籍していたニコ・ヒュルケンベルグが代役を務め、チームとしては急場をしのげたが、このような事態はチャンピオンを争うドライバーやチームにも起こりうることであると考えれば、2020年シーズンはいまもって予断を許さない状況であるだろう。
7月24日には、今季のカレンダーに3戦追加されることが発表された。第11戦はドイツ・ニュルブルクリンクでのアイフェルGP(決勝10月11日)、第12戦はF1初開催の地、アルガルベ・サーキットで行われる24年ぶりのポルトガルGP(同10月25日)、第13戦は2006年以来GPから遠ざかっていたイモラでのエミリアロマーニャGP(同11月1日)と、懐かしい名前ばかり。またアメリカ大陸でのアメリカ、カナダ、メキシコ、ブラジル各GPは、ウイルス感染の状況等から今季開催が断念された。2020年シーズン後半には、バーレーン、アブダビの中東戦が組まれる見込みである。
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スピンからポール ハミルトン母国7度目の予選P1
開幕戦オーストリアGPでこそ接触のペナルティーで4位に終わるも、オーストリアでの2戦目、続くハンガリーGPと、2戦連続でポール・トゥ・ウィンを達成しポイントリーダーとなったメルセデスのルイス・ハミルトン。母国で歴代最多6勝をマークしているがゆえに、2戦連続のシルバーストーン開催はライバルを突き放す絶好のチャンスだった。
また開幕3連戦で出遅れたチームは、イギリスから始まる2度目の3連戦に向けて攻勢に転じたいところ。特にマシンの挙動が突発的に不安定になるレッドブル陣営は、新しいリアウイングなどを持ち込み挽回に努めた。
だが、メルセデスの優位性はなかなか揺らがなかった。予選Q2で風にあおられ珍しくスピン、赤旗を出したハミルトンは、トップ10グリッドを決めるQ3になると見事に挽回。コースレコードを塗り替える最速タイムをたたき出し、3戦連続、ホームのイギリスで歴代最多7度目、通算91回目のポールポジションを奪ってしまった。僚友バルテリ・ボッタスが0.313秒差で2位。通算66回目の最前列独占を決めたメルセデスは、フェラーリの記録を抜き単独トップに躍り出た。
レッドブルはマックス・フェルスタッペンが3位につけ一矢報いたものの、ポールタイムからは1.022秒も遅れ、またチームメイトのアレクサンダー・アルボンが2戦連続でQ2敗退の12位となるなど、手放しでは喜べない予選結果に。メルセデスが頭ひとつ抜けてはいたものの、フェルスタッペン以下、4位フェラーリのシャルル・ルクレール、5位マクラーレンのランド・ノリス、6位レーシングポイントのランス・ストロールと、3列目まで異なるチームやパワーユニット勢がひしめき、中団勢の群雄割拠ぶりがうかがえた。
7位につけたマクラーレンのカルロス・サインツJr.に続いたのはルノー勢で、ダニエル・リカルド8位、エステバン・オコン9位。トップ10の最後には、フェラーリのセバスチャン・ベッテルがおさまった。
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メルセデス1-2のまま2度のセーフティーカー出動
グリッド上位陣のうち、スタートタイヤにミディアムを選んだのはハミルトン、ボッタス、フェルスタッペン、ルクレールのトップ4台とストロール。タイヤをいかにもたせるかという課題に対し、ライフの短いソフトは避けられたのだ。
雲間から夏の日が注ぐ日曜日の午後、52周のレースがスタート。ボッタスが滑らかな滑り出しを見せるもトップはハミルトンのまま、ルクレールが一瞬前に出るもフェルスタッペンが3位を死守しオープニングラップが終了。1位ハミルトン、2位ボッタス、3位フェルスタッペン、4位ルクレール、5位サインツJr.というオーダーで2周目に入ろうとした時、ケビン・マグヌッセンとアルボンが接触、ハースがコース外にはじき出されたことでセーフティーカーが出動した。
この責任を問われたアルボンは、5秒加算のペナルティーを受けて順位を大きく落としてしまう。Q2敗退、フリー走行中のクラッシュやトラブルなど、何かと受難続きのアルボンだったが、レース終盤にニュータイヤを与えられるとファステストラップを連発し、見事8位入賞を果たすことになる。
6周目にレースが再開するも、13周目、ダニール・クビアトのアルファタウリがクラッシュして2度目のセーフティーカー。このタイミングに各車一斉にタイヤ交換に踏み切り、ピットに入らなかったハースのロメ・グロジャンを除く全車が、最も長持ちなハードタイヤに換装した。このまま2度目のタイヤ交換なしにゴールまで走り切れるだろう──この読みがかなり楽観的だったと気づかされるのは、ラスト数周のことだった。
18周目、1位ハミルトン、2位ボッタス、3位フェルスタッペン、4位ルクレール、5位グロジャン、6位サインツJr.という順位でリスタート。先頭のメルセデス2台が互いにファステストラップを更新しながら、3位フェルスタッペン以下を引き離す展開。4位ルクレールの後ろでは、ノンストップで走り続けるグロジャンをオーバーテイクしたサインツJr.が5位、ノリスは6位につけていた。
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間延びしたレースが一変 最終周に予想外のドラマが
残り10周という時点で、トップのハミルトンと2位ボッタスには2秒半の差、ボッタスと3位フェルスタッペンの間には10秒のギャップ、さらにフェルスタッペンと4位ルクレールとは25秒もの開きという間延びしたレースに。もはや興味の対象はファステストラップのボーナス1点を誰が取るかぐらいしかなかった。
そんな緩んだ空気を打ち破る緊急事態が発生したのは50周目のこと。タイヤの不調を訴えていた2位ボッタスの左フロントタイヤが突如パンクしたのだ。盤石のメルセデス1-2態勢は瞬く間に崩れ、ボッタスはポイント圏外に脱落。さらにファイナルラップになると、4位走行中のサインツJr.、そしてあろうことか、首位独走中のハミルトンの左フロントタイヤも相次いでパンクしたのだった。
だが、ハミルトンは幸運に恵まれていた。ボッタスのパンク直後、2位に上がったフェルスタッペンがピットに入っていたのだ。3位ルクレールとの間に十分なスペースがあることを知っていたレッドブルは、ファステストラップの1点を狙うためにフェルスタッペンにニュータイヤを与えたのだが、これでハミルトンのリードは30秒以上に広がり、結果的にメルセデスに逃げ切られることとなった。
トップでチェッカードフラッグを受けたハミルトンから遅れること5.8秒、2位に甘んじることとなったフェルスタッペンは、「2位は上出来」と前向きなコメントでチームの決断をフォロー。一方、3輪スロー走行で辛くも勝利したハミルトンは、「心臓が止まるかと思った」とパンクが起きた時を振り返りつつ、7回目の母国GPでの勝利を喜んでいた。
3位に終わったルクレールも「この表彰台はうれしい」と笑顔。調子の上がらない跳ね馬を駆り、4戦して2度ポディウムにのぼったのは、こちらも相当な強運に恵まれていると同時に、しかるべき時にしかるべきポジションにいるルクレールのしたたかさゆえでもあろう。
シルバーストーンでのダブルヘッダー。2戦目は「70周年記念GP」と銘打ち、8月9日に行われる。
(文=bg)