新社名は「ステランティス」 FCAとグループPSAの今後のクルマづくりを考える
2020.08.05 デイリーコラムそれぞれのメリット
プジョーS.A.(=グループPSA。以下、PSA)とフィアット・クライスラー・オートモービルズ(以下、FCA)が、50:50の対等合併合意を発表したのは2019年12月のことだ。そして、この2020年7月17日、合併後に誕生する新グループ会社の名称が「STELLANTIS」に決定したと発表された。
STELLANTIS(=ステランティス)とはラテン語で「星の光で輝く」を意味する動詞「stello(ステロ)」にちなんだ造語といい、この新会社自体が「星たちとともに輝く」という意味が込められているんだとか。そういわれても、ラテン語にルーツをもたない日本語になじんだ日本人には、その意味や語感はどうもピンとこない(のは私だけか)。しかし、あくまで対等合併をうたう以上、PSAかFCAのどちらかが主導権を握った感のあるネーミングはできないのだろうし、「合従連衡の歴史を社名に残す」には、両グループが傘下に抱えるブランドが多すぎる。もっとも、この新社名が実際の商品名などに使われることはないようなので、そこはひと安心(?)ではある。
昨年末の合意直後には「効果は期待薄」と評されがちだった今回の合併だが、その後に起こった新型コロナウイルスのパンデミックによって、今では逆に「やっててよかった」的な空気が漂いはじめているようだ。今後の合併作業にも新型コロナに起因する変更はないようで、こうしてステランティスという新社名も正式決定し、2021年の第1四半期が見込まれる合併完了まで、すべての作業が粛々と進められる予定という。
PSAとFCAは日本市場における販売台数が少ないこともあって、とくに日本の大手メディアでは“弱者連合”と揶揄する論調が多いが、両グループの得意分野を並べてみると、親和性は意外なほどに高い。少なくともクルマ好きの目線では悪くないように思える(あらゆる小規模メーカーも独自技術で生き残るのが、究極の理想ではあるけれど)。
まず、FCA陣営において喫緊の課題は電動化の遅れだが、その点は、PSAがすでに明確な電動化プランをもっているのが大きい。PSAの電動化戦略は、Cセグメント以下の小型車用として純電気自動車とエンジン車を並行ラインナップできる「CMP」プラットフォームを、それより上級のC~Dセグメントにはハイブリッドやプラグインハイブリッドを想定した「EMP2」プラットフォームを使う戦略だ。EMP2のハイブリッド機構は後輪にモーターを備える電気4WDであり、使いようによってはジープにも転用可能と思われる。
いっぽうのPSAは、2017年にオペル/ボクスホール(=旧ヨーロッパGM)を買収したことで欧州市場でのプレゼンスは盤石となったが、世界2大市場のひとつである北米市場には足場をもっていなかった。そんなPSAにとって旧クライスラーの地盤をもつFCAとの合併は新たな可能性を一気にひらくだろう。また、FCA傘下のダッジはフルサイズピックアップの「ラム」でも有名だが、日本では北米専用イメージの強い大型パーソナルトラックも、実際には世界中に輸出されている。このあたりも従来のPSAにはない魅力だ。
“食い合い”は起きないのか
日本のクルマ好きにとっては、プジョーやシトロエン、オペル、そしてフィアットとアルファ・ロメオといったおなじみの欧州の名門ブランドが共存できるか……が最大の懸念かもしれない。
ただ、FCA陣営の現状を見るに、彼らの伝統的乗用車のラインナップはすでに整理されつつある。とくにプジョーやシトロエン、オペルとカブりそうなフィアットでそれが顕著で、フィアット名義の乗用車は今や大半がキャラクター商品の「500」に集約されているのだ。それ以外はCセグメントの「ティーポ」とAセグメントの「パンダ」くらいしか残っていない。
誤解を恐れずにいうと、フィアット500はデザインやイメージ戦略でキャラクターさえ立っていれば、中身の出自を問われるようなタイプではない。また、アルファ・ロメオは「ミト」に続いて、PSAとの合併を待たずして「ジュリエッタ」の生産終了も明らかにしており、欧州市場におけるPSAとFCAの“食い合い”は、じつは大きな不安要素ではなさそうだ。
このように考えていくと、FF系Dセグメント以下のコンパクトモデルの技術開発はPSA主導でまかないつつ、マセラティやアルファ・ロメオ/ジープの上級機種が使う大型FR系プラットフォーム(とそれ用の本格的な4WD機構)のみFCAの技術を進化発展させていく……というのが、新会社ステランティスの近未来技術戦略ということになるだろうか。
マセラティにも使える高級車プラットフォームをPSA陣営も新たに手に入れるのなら、クルマ好きとしては“フランスブランドの高級車”にも期待したくなる。ただ、シトロエンと、その派生であるDSは世にFF車を広めたことが最大の歴史遺産なので、FCA主導でつくられるであろうFRプラットフォームは似合わない。後輪駆動が似合うフランス製高級車といえば、かつてクライスラーV8を搭載したこともあるファセル・ヴェガなんて物語的にもドンピシャと思うが、その商標権がPSAのもとにあるわけではないようだし、ただでさえ膨大なブランドを抱えるステランティスでさらにブランドを増やすのはさすがに……とも思う。
フォルクスワーゲン、トヨタ、ルノー・日産・三菱に続く世界4位の規模になる新グループ会社にとって、最大の不安要素はPSA、FCAともに北米と並ぶ巨大市場である中国での業績が芳しくないことだ。いずれにしても、そんなステランティスを実際に切り盛りするのは、PSAの現CEO、カルロス・タバレス氏になる予定である。PSAとオペル(/ボクスホール)の合体を見事に成功させたカリスマ経営者は、プジョー、シトロエン、DS、オペル/ボクスホール、フィアット、アルファ・ロメオ、マセラティ、ランチア、アバルト、クライスラー、ダッジ、ジープ、ラムという現在使われている全ブランドをすべて存続させると明言している。はたして、今度はどんな手腕を発揮するのだろうか。
(文=佐野弘宗/写真=FCAジャパン、グループPSAジャパン/編集=藤沢 勝)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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