成功のカギは“ホカン”にあり!? スーパーSUV「ランボルギーニ・ウルス」はどうしてこんなに売れるのか?
2020.08.07 デイリーコラムねらい通りの大成功
シャシー番号♯10000のウルスがラインオフ! 2020年6月21日付のランボルギーニのプレスリリースに、パンデミックでうち沈むクルマ業界がざわついた。もっともそれは、ランボルギーニのもくろみ通り、いや、むしろ新型コロナの影響で少々遅れ気味だったといっていい。なにしろ2018年から本格生産が始まり、2019年には最新工場もフル稼働で5000台弱をサンターガタから送り出している。人員も倍、工場の規模も倍、組織から敷地まで、何もかも倍にしたわけだから、新型SUVにはそれくらい売れてもらわなければ困る、のだ。
それにしてもウルス人気はすさまじい。SUVとはいえ上代3000万円の“スーパーカー”である。どうしてかくも売れたのか?
正直に言うと、ウルス人気がホンモノであるかどうかが分かるのはもう少し先のこと、だとボクは思っている。最初の1、2年には初期オーダーの勢いがまだ残っていると思われるからだ。それが証拠にランボルギーニは2年でウルス1万台(ちなみにフラッグシップの「アヴェンタドール」は10年で1万台。これはこれですさまじい数字なのだが)の発表と前後して、新たなオプションの充実を図るメッセージも出している。ワンメイクレースの企画もある。おそらく近い将来には新たに次世代をにらんだパワートレインも積んでくるはずだから、本当の勝負はまだ先だとサンターガタもにらんでいるのだろう。
とはいえウルスがデビューからわずか2年で1万台も売れた(つくられた)理由はなんだったのか。もちろんウルスはSUVでありながらスーパーカーブランドの名に恥じないすさまじいパフォーマンスを有しているわけだが、多くのカスタマーがその実力を“試すことなく”オーダーしている。少なくとも最初の1年くらいはカタチだけ見た熱心なランボルギーニファンによってオーダーの勢いに拍車がかかったといっていい。では彼らはウルスのいったいどこに心を動かされたのか?
スタイリングが大きな要素であることは間違いない。思い返せばウルスの基本デザインが披露されたのは2012年の北京モーターショーだった。それからデリバリーまで実に6年を費やしている。にもかかわらず、デビュー直後から、いや、正確にはプレオーダーのスタートとなった正式デビュー1年前からランボルギーニファンはウルスを待望した。それだけ前デザイナーのフィリッポ・ペリーニによるスタイリングが衝撃的だったからだ。今や世間の“普通車”となったSUVカテゴリーでありながら、最新ランボルギーニらしさを体現したカタチ。多くのファンが納得した。
![]() |
![]() |
![]() |
これぞ“正のスパイラル”
重要なことは、いみじくも2012年のコンセプトカーデビュー時に前CEOのステファン・ヴィンケルマンが言った通り、「ウルスは現ラインナップを補完する第3のスーパーカーだ」ということだ。補完する=“隙間を埋める”。隙間とはすなわち、4+1ドアの4もしくは5シーターという実用領域のこと。そのうえで、ランボルギーニらしいスタイルと性能を与えたのがウルスというクルマである。
典型的なオーナー像を紹介しよう。3台分のスペースがあるガレージの中央にはフラッグシップのアヴェンタドールが鎮座している。アドペルソナムでオーダーした宝物。その右側には時々に旬なスーパーカーを置く。「フェラーリ488」だったり「マクラーレン650」だったり、もちろん「ランボルギーニ・ウラカン」だったり。牛だ馬だと流派にこだわる必要はない。何でもまずは乗っておきたい。左側、自宅に近いほうには普段のクルマ、雨の日のツーリングや家族のことも考えて大型の高性能SUVと決めている。メルセデスAMGの「Gクラス」だったり「ポルシェ・カイエン ターボ」だったり。そういう人がランボルギーニから新型SUV発表というニュースを聞いて、左側のスペースをそのために空けようと思わないはずがない。
価格が違いすぎる? いやいや、そんなことはない。カイエンもGクラスも最上級の高性能仕様に(スーパーカーオーダー慣れした人が)オプションを凝ったなら3000万円級にどんどん近づく。そのうえで+500万円くらいの差であれば、サンターガタに恩を売っておいて損はないという計算も働く。
果たしてランボルギーニが会社の規模を倍にしてSUVを売るという戦略は、今のところ大当たりだ。既存ラインナップを補完するモデルだったから、単純に生産台数も増えた。これはその昔のポルシェと全く同じビジネスモデルである。SUVでもうけて、より高性能なスポーツカーを開発する。スポーツカーでいっそう高まったブランドイメージを活用して実用的なSUVをさらに売る。そんな“正のスパイラル”にランボルギーニも乗っかった。
売れるかどうかは構成次第
ここで注意しておかなければならないことがある。この芸当はどのブランドでも可能なわけじゃないということだ。例えば世の中のSUVブームの多くは、セダンからの“置換”でしかない。ドイツプレミアムブランドはセダンやステーションワゴンの代わりにSUVを売っているにすぎない。BMWがSUVを出して販売台数を倍にした、などという話にはならない(もちろん企業活動なので全体としては継続的に拡販となっている)。
かたやマセラティやアルファ・ロメオ、ジャガーなどSUVブームに乗っかり切れていないブランドもある。これらはスポーツカーイメージの強い高級ブランド、とはいえそもそもセダンなど実用領域のモデルが主力だった。「ジュリア」の台数をきっちり保ったまま「ステルヴィオ」を売ることなどほとんど不可能。そのジュリアですら売れていないとなれば、SUVだからといってそう簡単に売れるわけでもない、というだけのことだ。
そう考えると今後、SUVを新たに出したとして高い確率で成功しそうなブランド(といってももうほとんど残っていないけれど)といえば、フェラーリとマクラーレンくらいしかない。いずれも高性能で高額なスーパーカーで成功をおさめ、SUVがそのラインナップを“補完”することになるからだ。もっともマクラーレンは絶対にSUVをつくらないと、今のところは言っているけれど。
フェラーリは5ドアなら勝機あり
微妙なのがアストンマーティンだ。今のところ新型SUVの受注は好調らしいが、既存ラインナップとどこまでカニバらずに済ますことができるか、にかかっている。2ドア4シーターGTとSUVという組み合わせは、2シーターミドシップカーとSUVという組み合わせほどガレージ的合理性(=趣味と実用)は強くない。
同じ理屈でフェラーリ製SUVにも死角はある。フェラーリにもまた「GTC4ルッソ」というよくできた実用車があったからだ(現在オーダーストップ中)。「ポルトフィーノ」や「ローマ」も実用性はそれなりにある。そんななか、マラネッロ製SUVがもし仮に3ドアで登場したならば……。ウルスほどの成功は望めないかもしれない。もっとも、マラネッロとしては既に年産1万台をクリアしている。そこまでして台数を増やさなくてもいい、と考える余裕もあると思うが。5ドアなら間違いなく成功する。
ウルスは今のところクルマ的にも会社的に見ても、大成功だといっていい。カタチと性能が良かったというだけでなく、カスタマーのガレージ内における自社製ミドシップカーとの補完関係が完璧に成立したからだった。そのイメージを利用して、今後はいっそう新規顧客の開拓にいそしむだろう。そこからまた新たなスーパーカー需要も生まれる。そんな好循環を他のブランドに適用することは、たやすいことではない。
(文=西川 淳/写真=ランボルギーニ、ポルシェ、アストンマーティン、アルファ・ロメオ、ジャガー・ランドローバー、フェラーリ、webCG/編集=関 顕也)

西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
-
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性NEW 2025.9.5 あのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。
-
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代 2025.9.4 24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。
-
マツダの将来を担う次世代バイオディーゼル燃料 需給拡大に向けた最新の取り組みを知る 2025.9.3 ディーゼルエンジンを主力とするマツダにとって、カーボンニュートラルを実現した次世代バイオディーゼル燃料は生命線ともいえる存在だ。関係各社を巻き込んで需給拡大を図るマツダの取り組みと、次世代燃料の最新事情を紹介する。
-
意外とクルマは苦手かも!? 自動車メディアの領域で、今のAIにできること、できないこと 2025.9.1 AIは今や、文章のみならず画像や動画もすぐに生成できるレベルへと発展している。では、それらを扱うメディア、なかでもわれわれ自動車メディアはどう活用できるのか? このテクノロジーの現在地について考える。
-
世界の議論を日本が主導! 進むハンズオフ運転支援機能の普及と国際基準制定の裏側 2025.8.29 世界的に開発と普及が進むハンズオフ(手放し運転)運転支援機能の、国際基準が改定された。先進運転支援や自動運転の技術の基準は、どのように決められ、またそこで日本はどんな役割を果たしているのか? 新技術の普及に必須の“ルールづくり”を解説する。
-
NEW
アマゾンが自動車の開発をサポート? 深まるクルマとAIの関係性
2025.9.5デイリーコラムあのアマゾンがAI技術で自動車の開発やサービス提供をサポート? 急速なAIの進化は自動車開発の現場にどのような変化をもたらし、私たちの移動体験をどう変えていくのか? 日本の自動車メーカーの活用例も交えながら、クルマとAIの未来を考察する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」発表イベントの会場から
2025.9.4画像・写真本田技研工業は2025年9月4日、新型「プレリュード」を同年9月5日に発売すると発表した。今回のモデルは6代目にあたり、実に24年ぶりの復活となる。東京・渋谷で行われた発表イベントの様子と車両を写真で紹介する。 -
NEW
新型「ホンダ・プレリュード」の登場で思い出す歴代モデルが駆け抜けた姿と時代
2025.9.4デイリーコラム24年ぶりにホンダの2ドアクーペ「プレリュード」が復活。ベテランカーマニアには懐かしく、Z世代には新鮮なその名前は、元祖デートカーの代名詞でもあった。昭和と平成の自動車史に大いなる足跡を残したプレリュードの歴史を振り返る。 -
NEW
ホンダ・プレリュード プロトタイプ(FF)【試乗記】
2025.9.4試乗記24年の時を経てついに登場した新型「ホンダ・プレリュード」。「シビック タイプR」のシャシーをショートホイールベース化し、そこに自慢の2リッターハイブリッドシステム「e:HEV」を組み合わせた2ドアクーペの走りを、クローズドコースから報告する。 -
第926回:フィアット初の電動三輪多目的車 その客を大切にせよ
2025.9.4マッキナ あらモーダ!ステランティスが新しい電動三輪車「フィアット・トリス」を発表。イタリアでデザインされ、モロッコで生産される新しいモビリティーが狙う、マーケットと顧客とは? イタリア在住の大矢アキオが、地中海の向こう側にある成長市場の重要性を語る。 -
ロータス・エメヤR(後編)
2025.9.4あの多田哲哉の自動車放談長年にわたりトヨタで車両開発に取り組んできた多田哲哉さんをして「あまりにも衝撃的な一台」といわしめる「ロータス・エメヤR」。その存在意義について、ベテランエンジニアが熱く語る。