【F1 2020】第5戦70周年記念GP「レッドブル・ホンダは速さで負けてもタイヤで勝つ」
2020.08.10 自動車ニュース![]() |
2020年8月9日、イギリスのシルバーストーン・サーキットで行われたF1世界選手権第5戦70周年記念GP。1週間前のイギリスGPと同様にタイヤに苦労するメルセデスを尻目に、レッドブルが華麗なる勝利を手にしたのだった。
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タイヤトラブルの原因 そしてレーシングポイントの違反
コロナ禍がなければ付けられなかったであろう、国名も地理的な名前も付かない「70周年記念GP」などという奇異な呼び名は、同時にF1誕生から70周年を祝える2020年だからこそ実現したもの。1950年5月13日、ここシルバーストーンから始まったF1の長い歴史の節目にふさわしいネーミングとなった。
今季2度目の3連戦、その2戦目を前にした短い期間にも話題は尽きなかった。まずは1週間前に同じコースで行われた前戦イギリスGPでは、レース終盤にメルセデスの2台をはじめとする数台が相次いで左フロントタイヤのトラブルに見舞われ、優勝したルイス・ハミルトンは3輪でチェッカードフラッグを受けるというドラマチックな終幕となっていた。レース後、タイヤサプライヤーのピレリは、「高速化著しい今季のF1マシンで、高速コースのシルバーストーンを予想以上に多く周回した結果」と分析し、今週末はタイヤの内圧を上げるよう通達。もともと70周年記念GPでは、前週より1ランクやわらかいタイヤとすることが決まっていたため、各陣営ともタイヤにより慎重になったうえでレースに臨まなければならなくなった。
コース外での話題は、またもレーシングポイントがさらった。先週、新型コロナウイルスで陽性反応が出て欠場せざるを得なかったセルジオ・ペレスが引き続き陽性となり、今回もニコ・ヒュルケンベルグが代役を務めることに。さらにルノーが抗議していたレーシングポイントのブレーキダクトの合法性について、FIA(国際自動車連盟)が設計に関するルールに違反があったとし、レーシングポイントにコンストラクターズポイント15点の剥奪(はくだつ)と40万ユーロ(約5000万円)の罰金を科したのだが、ライバルはこの裁定に納得しておらず、この問題はしばらく後を引きそうである。
今シーズンも他を圧倒する速さで4戦4連勝中だったメルセデスは、バルテリ・ボッタスとの契約を更新し2021年までとすることを発表した。今年の開幕戦で優勝、4戦終わってハミルトンに次ぐドライバーズランキング2位につけていたボッタス。常勝チームの安定感には十分寄与しているということが残留につながった。なおハミルトンの去就は決まっていないものの、来季もメルセデスに残ることはほぼ間違いないと見られている。
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ボッタスは僅差でポール ヒュルケンベルグが驚きの予選3位
この週末、各チームが頭を悩ませたのが、先週より1段やわらかくなったタイヤだ。もともとタイヤに厳しいコース特性に加え、気温も高めとなり、一番速いとされるソフトでは1周のアタックすらもたないかもしれないような状況。各陣営、レースを見据えたマネジメントに苦心した。
案の定、トップ10台のレース用スタートタイヤが決まる予選Q2では、多くがミディアムを選択。レッドブルのマックス・フェルスタッペンは果敢にもハードでアタックしベストタイムを記録するなど、ソフトは徹底的に嫌われた。Q3に入ると、トップランナーのメルセデスはまずソフトでタイムを出し、ハミルトンが暫定1位、0.116秒差でボッタス2位。これが2度目のアタックではミディアムでタイムアップを果たし、ボッタスが見事逆転して開幕戦に次ぐ今季2度目、通算13回目のポールポジションを奪った。
シルバーストーンを得意とするハミルトンは0.063秒という僅差で2位だった。メルセデスの最前列独占は珍しいものでもないが、3位に入ったのがレーシングポイントで2戦目のヒュルケンベルグだというのは驚きの結果。レッドブルはフェルスタッペンがポールから1.022秒離され4位、アレクサンダー・アルボンはさらに0.5秒ほど遅れての9位だった。
ルノーのダニエル・リカルドが今季ベストの予選5位。レーシングポイントのランス・ストロール6位、アルファタウリで好調のピエール・ガスリーは今季3度目のQ3進出で7位につけた。フェラーリは、シャルル・ルクレール8位、セバスチャン・ベッテルはQ2敗退の12位となるも、ルノーのエステバン・オコンが他車を邪魔したとして3グリッド降格したことで、11番グリッドに繰り上がった。そして10番グリッドには、マクラーレンのランド・ノリスがつけた。
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フェルスタッペンがメルセデス2台を抜き首位に
このレースの最大のポイントとなったのは、やはりタイヤだった。そして、上位10台中、唯一ハードタイヤを装着してスタートすることとなったフェルスタッペンがしっかりとタイヤマネジメントを遂行する一方、予選でライバルより1秒も速かったメルセデス勢がハードに手を焼いたことで、その展開はいよいよ面白みを増していったのだった。
気温26度、路面温度43度という暑さの中、52周のレースが幕を開けると、4番グリッドのフェルスタッペンはすぐさま3位に上がり、序盤から1位ボッタス、2位ハミルトンを視野に入れての周回が続いた。首位ボッタスには「(負荷のかかる)左フロントタイヤに気をつけろ」とチームから指示が出され、また2秒差でメルセデス勢の尻尾に食いつくフェルスタッペンにも「近づきすぎるとタイヤを傷める」とピットから注意が飛んだ。それほど、各陣営タイヤに神経をとがらせていたのだ。
14周目、上位陣で最初にピットに入ったのはボッタス。翌周ハミルトンもこの動きに倣い、ミディアムからハードに換装した。これで1位となったフェルスタッペンは、ハードのスタートタイヤをいたわりながら周回を重ねた。その後ろ、ニュータイヤで2位まで追い上げてきたボッタスと3位ハミルトンは、レッドブルとの差を縮められず、むしろギャップは1周につき1秒程度開いていった。メルセデスがハードで苦労していることは、伸び悩むタイムからも、タイヤのブリスター(火ぶくれ)の跡からも明らかだった。
26周目、2位ボッタスに対する首位フェルスタッペンのリードは19秒。このタイミングでレッドブルはフェルスタッペンにミディアムを与え、ボッタスの真後ろ、2位でコースに戻した。フェルスタッペンは、タイヤのコンディションが思わしくないボッタスをあっという間に抜き去り、再び1位の座に返り咲いた。
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今年もメルセデスの連勝を止めたレッドブル&フェルスタッペン
33周目、1位フェルスタッペンと2位ボッタスが同時にピットに入り、ともにハードを選択。これで2台は同条件となり、タイヤに優しいレッドブルは形勢有利を維持したまま終盤に入った。
一方ハミルトンは、大きなブリスターができたタイヤでトップを走り続けるも、42周目に2度目のタイヤ交換を行ったことで4位に後退してしまう。その後は王者らしい猛チャージで瞬く間にルクレールを抜き3位に上昇。メルセデスは2人のドライバーに「クリーンならレースをしていい」と許可を出し、残り3周でハミルトンがボッタスを抜き去り、2位でチェッカードフラッグを受けた。
こうしたメルセデス同士のつばぜり合いがあったとしても、今回の主役がフェルスタッペンであることに変わりはなかった。ハードタイヤでのスタート、タイヤをいたわっての長めの第1スティント、メルセデス&ボッタスを封じ込める2度目のタイヤ交換、そして快調に飛ばすことができたマシン。すべてが高次元でバランスされたうえでの勝利だった。
思い返せば2019年シーズンも、開幕から8連勝していたメルセデスを止めたのはレッドブル&フェルスタッペンだった。快進撃を続ける王者にも弱点があるということ、また一発の速さでかなわないからといって、レースをあきらめる必要はまったくないということを思い知らされた一戦だった。
3連戦の3戦目、第6戦スペインGP決勝は、8月16日に行われる。
(文=bg)