ホンダ・フィット ネス(FF/CVT)
猟犬ならば二兎を追え 2020.08.20 試乗記 数字では表せない人間が持つ感性価値、すなわち“心地よさ”を開発のテーマとしたという新型「ホンダ・フィット」。ガソリンエンジン搭載のFF車を郊外に連れ出し、開発陣が目指したものやライバル車との違いを確かめてみた。ホンダは豹変す
ミラーに映るクリッとした目とその下のアイラインのようなドライビングライトで新しいフィットであるとすぐわかる。特別に凝った表情ではなく、むしろ簡潔なデザインなのに、それが際立っているのは、世の中に細い目をつり上げた、尖(とが)った顔つきのクルマばかりがあふれているからに違いない。
人懐っこさを感じさせるルックスは、ヒット作である軽自動車の「N-BOX」シリーズから得た経験を生かしたデザインといえるだろう。多くの有名デザイナーが言うように、自動車は街の景観を変えるのである。
それにしてもスポーティーさと汗臭ささが良くも悪くも売りだったホンダにしては、驚くほどのイメージチェンジである。もっとも、モデルチェンジするたびに、それまでの特徴を真っ向から否定するように、背が高くなったり低くなったりガラリと模様替えするのはホンダの得意技のようなものだったから、この豹変(ひょうへん)ぶりもホンダらしいといえばそうかもしれない。
先代では1モーターだ、いやいや2モーターだなどと、ハイブリッドモデルに特別なグレードを用意してまでモード燃費の数値を争っていたことなど、まったくなかったように「機能的価値よりも心地よさです」などとサラリと言われても、本当かな? 次世代モデルではまたもまるで違うことを主張するのではないか、と意地の悪いことを言いたくもなるが、朝令暮改は臨機応変ということでもある。必ずしも悪いことだけではない。
ただし、世代ごとにころころ基本コンセプトを変えるようでは強固なブランドを築くことは難しいのも事実。そのあんばいが悩みどころだが、少なくとも4代目フィットは、「ああ、あの柴犬フィットね」と記憶されるのは間違いない。
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戸惑うほどルーミー
ご存じのように新型フィットは5種類のグレードが設定されている。それも従来の「G」や「X」、あるいは「RS」といったアルファベットではなく、「ベーシック」や「ホーム」、「リュクス」など直感的に中身を想像できるような呼び方に変わった。この「ネス」(もちろんフィットネスの語呂合わせだろう)は、軽快でファッショナブルなトリムラインらしく、ライムグリーンの差し色が内外装に加えられている。各車種の間に機能的な優劣はなく、それぞれの違いは洋服のコーディネートのようなものだというのがメーカーの説明だが、ネスは価格から見るとちょうど真ん中に位置する。
もう既に代名詞のようになったが、新型フィットの室内はクリーンでルーミーだ。タイトで囲まれ感の強いコックピット仕立ての新型「トヨタ・ヤリス」とはまさに対照的である。まるで現代的なLDKの出窓のように広くフラットなダッシュボードは何だかもったいないぐらいだが、何も設けずにスッキリそのままにとどめたおかげで、開放感は抜群である。ただし、ウインドシールドを支えるための細い疑似Aピラーではなく、荷重を支える本当のAピラーは左折などの際に多少気になる。
わずかに楕円(だえん)形の2本スポークステアリングホイールは、なかなか小粋でちょっと昔のジャガーのような雰囲気もある。スポーク上のACCのスイッチなどもできるだけ簡潔にまとめようとしていることがうかがえるし、実際にインストゥルメントパネルは見やすく使いやすい。ステアリングホイール上にごちゃごちゃと目いっぱいスイッチを配置するものが多い中、実に新鮮である。
細かい点だがそれ以上に歓迎できるのは、空調などの操作頻度の高い主要コントロールのスイッチが、独立して設けられていることだ。近年のホンダ車はセンターディスプレイ上のタッチパネル式を採用していたが、非常に使いにくかった。
カーナビを操作しようとして、いつの間にかほかの指がパネルに触れて温度調整を目いっぱい押し上げ、熱風が噴き出してしまう、なんてことが度々あった。揺れるクルマの中で、ピンポイントでタッチするのは難しいし、視線もその“的”を狙っていなければならない。タッチパネル式は見栄えはいいかもしれないが(そしてコストも安いのかもしれないが)、自動車の操作系は簡潔で扱いやすいのが一番。安全性を考えても当然の改良といえるだろう。
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可もなく不可もなし
パワートレインは1.5リッター4気筒エンジンにモーター2基を組み合わせた「i-MMD」改め「e:HEV」と称するハイブリッドユニットと、1.3リッター4気筒DOHCエンジンの2本立てで、全グレードに設定されている。
今回の試乗車に搭載されるのは後者。アトキンソンサイクルの自然吸気4気筒は従来型のキャリーオーバーで、98PS(72kW)/6000rpmの最高出力と118N・m(12.0kgf・m)/5000rpmの最大トルクを発生する。健康的かつ軽快に回るが、特段パワフルとかトルクが太いというエンジンではない。新開発のCVTは確かに以前のものよりはレスポンスがいいようだが、わずかにスピードをコントロールしたいという場合の繊細な操作に応えてくれるかという点ではやはり限界がある。
メリハリのある操作の際には気にならなくても、ジワリと加速したい、あるいは一定速をキープしたいという時には、隔靴搔痒(そうよう)のもどかしさがある。こんな時にはやはりMTがあればと思うが、新型はすべてCVTのみである。
飛ばし屋のためのMTではなく、CVTが嫌いな人のために残してくれないだろうか、とないものねだりを言いたくなるが、そういう向きは格段に滑らかで余裕があるハイブリッドをどうぞということなのだろう。
もっと貪欲に
荷室を含めた室内スペースの広さはこれまで通りずぬけており、これだけで指名買いする人がいて当然というほどのフィット最大の特徴である。シートは見た目も手触りもいいが、実際に走るとソフトな印象は薄い。
新型ヤリスほど落ち着きがない乗り心地ではないものの、路面の状態によってはボコボコした突き上げ感がはっきり伝わり、見た目の雰囲気との落差が大きい。後席は特に顕著である。路面が滑らかな高速道路に乗って速度が上がるとまずまず気にならなくなるが、ひたひたと路面を舐(な)めるようなしなやかさはない。
これはハイブリッドモデルも基本的に同様で、せいぜい60km/hぐらいまでの一般道を最も苦手としているようだ。といって、以前のホンダ車のように姿勢変化を抑えてキビキビと敏しょうな反応を目指したものでもないようで、正直なところいささか中途半端な感じがする。
ユーザーの現実的なメリットをそっちのけにして、微小な燃費争いにまい進するなど論外だが、「機能を追わない」と最初から断言されてしまうのもちょっと寂しい。意地でも世界一、何が何でも世界初という熱血ホンダの時代ではないのかもしれないが、最初からナンバーワンを追わなくてもいいなどという雰囲気があるのだとしたら、それは実に残念だ。堂々と貪欲に、二兎(にと)を追ってほしいと思うのである。
(文=高平高輝/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ホンダ・フィット ネス
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3995×1695×1540mm
ホイールベース:2530mm
車重:1090kg
駆動方式:FF
エンジン:1.3リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:98PS(72kW)/6000rpm
最大トルク:118N・m(12.0kgf・m)/5000rpm
タイヤ:(前)185/55R16 83V/(後)185/55R16 83V(ヨコハマ・ブルーアースA)
燃費:22.2km/リッター(JC08モード)/19.6km/リッター(WLTCモード)
価格:187万7700円/テスト車=228万7164円
オプション装備:アクセント2トーン<シャイニンググレー・メタリック×ライムグリーン>(5万5000円)/コンフォートビューパッケージ(3万3000円) ※以下、販売店オプション 9インチナビ<VXU-205FTi>(19万8000円)/ナビ取り付けアタッチメント(4400円)/ドライブレコーダー<DRH-197SM>(2万7500円)/ETC2.0車載器 ナビ連動タイプ(2万7500円)/ETC車載器取り付けアタッチメント(6600円)/フロアカーペットマット プレミアム<エクステンションマット付き>ブラック(2万8600円)/工賃(2万8864円)
テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:2966km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:263.6km
使用燃料:17.7リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:14.9km/リッター(満タン法)/16.0km/リッター(車載燃費計計測値)

高平 高輝
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