代理店がなくても「ゴードン・マレーT.50」は買えた!? 夢のハイパーカー購入の手引き
2020.09.14 デイリーコラム“お店”もないのにどうやって買うの?
新車でも中古車でもいざ買うとなれば、ディーラーやショップで検討し、申し込み契約書にハンコをついて、さまざまな書類を用意し、ひどく面倒な手続きを踏まえてようやく納車という一大儀式に至る。クルマを買うということは日本に住まうわれわれにとってはなんとも大層な行為である。それゆえ、そんな“悪習”に慣れた人には、それ以外の買い方など想像もつかないことに違いない。
例えば、「日本に正規輸入代理店のない外国車が欲しい!」と思ったときだ。フォードやダッジといった名の通った有名ブランドなら得意とする並行輸入業者もあるし、外国のディーラーも想像できるからまだしも超えるべき壁は低い。けれども見たことも聞いたこともない新興メーカーのスーパー高額車両が相手となれば、たいていの人がもうその時点=輸入元がないという時点で、購入をギブアップしてしまうに違いない。
もちろん、新興ブランドには信用もなにもないわけで、現地のショールームだって機能しているのかどうか日本からじゃ分かりづらいことも確かだ。触らぬ神にたたりなし、で諦めるのが無難というもの。けれども、それじゃ人と全く違うクルマに巡り会うこともまた難し。虎穴に入らずんば虎児を得ず、とも言うではないか。
先日、かのゴードン・マレーが、スーパーカーマニアなら誰もが操ってみたいと思わせる内容の新型スーパースポーツ「T.50」を発表した。これなどは、「どうやって買えばいいのか、まるで見当もつかない」良い例だろう。けれども実際には、けっこうな数の日本人が既にオーダーしたというウワサだ。世界でも限定100台ぶんなど今年初めのコロナ騒動前、つまりは正式発表の随分前にはもう完売のメドがたっていたらしい。この手のハイパーカーでは発表即完売が“習わし”になっている。
では、いったいどうしてオーダーしたのだろう?
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知る人ぞ知るハイパーカー界の“顧客情報”
この手のスーパースポーツカーの場合、積極的に買う層はほとんど決まっている。どんなにお金持ちでも、過去にスーパースポーツを買った経験のない人が、一般的に知られていないブランドに手を出すことなど、まず考えられない。そもそもそういう情報を得ることもない。最初は誰しもフェラーリやランボルギーニのディーラーを訪問するもの。いきなりゴードンは、ない。
ということは、T.50を“あえて”買う可能性のある人たちは、既にある程度決まっていたと考えていい。日本だとそのリストは20名くらいだろうか。フェラーリやランボルギーニの限定車の新車オーダーは基本として、さらにブガッティやパガーニ、ケーニグセグといったクラスのオーダー経験もある、というスーパーカスタマーたち。そんなごく限られた顧客たちは、われわれが直接その名を知らないというだけで、高額車両販売のかいわいではなかなかの有名人だったりする。蛇の道は蛇、というわけだ。
特に今回のT.50の場合には、ゴードンがかつて設計し、今や世界で最も価値あるスーパーカーとなった「マクラーレンF1」を、実は新車時に日本人がよく買っていたという“実績”がある。その人たちの存在を、当然ゴードン側も無視するわけにはいかなかったはず。過去にF1を所有した人が今も全員スーパーカーに興味を持っているとは限らないが、現所有者や最近まで持っていた人ならば食指が十分に動いたはず。さらにはF1の価値の暴騰ぶりを見るにつけ、もう一度買っておこうという気になった元ユーザーも多かったのではないか。
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直接問い合わせるのも大いにあり
チャンスはF1ユーザーにとどまらなかったはずだ。マクラーレンがその後に出した限定車の「P1」や「セナ」といったスペシャルマシンを買った人のなかにも、ゴードンに連なる人脈を得たオーナーもいたことだろう。さらにはそのまわりにいるブガッティやフェラーリ、ランボルギーニ、アストンマーティンといったメジャーブランドの限定モデルの所有者、もしくはオーダーした人たち……。つまりは、実績のある者のところへしかその筋からの“おいしい話”はやってこないということだ。これはクラシック&ヴィンテージの世界でも同様だ。
では、ほかに全く手立てはないものだろうか? 世界にはまだまだ日本未輸入のスーパースポーツが何種類も存在している。それを手に入れるもっと一般的な方法はないものなのか?
結論から言うと、ある。なんとしても欲しいという情熱さえあればなんとかなる。その方法は極めてシンプル。ダイレクトに連絡してみることだ。
世界に向けて新型車を発表するようなメーカーであれば、たとえ新興ブランドで販売ディーラーがいまだなくとも、立派な公式サイトくらいはオープンさせている。そこから連絡先を得て、電話でもメールでも代理人からでも何でもいい、直接連絡すればいいのだ。相手にしっかりとしたビジネスをする気があるのなら、熱心な日本のポテンシャルカスタマーからのラブレターを無視するはずがない。その段階でなしのつぶてになるようなブランドなら、そもそも相手にしないほうがいい。先が危うい。
連絡が取れたならば、今度は実際にその会社を訪問してほしい。トップに会ってそのスーパーカー哲学に耳を傾け、自分の目でつくっている人間たちを観察しプロトタイプを吟味し、できれば試乗もしくは同乗させてもらって、それから購入を決断しても遅くない。
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夢のクルマを買うのだから
何度かそういう現場に同行した経験から言わせていただくと、トップの言動を見ていればたいていのことは分かるものだ。エンツォやフェルッチョにはもう会えないけれども、未来にそうなる可能性のある創始者とダイレクトに話せるチャンスなどそうあるものじゃない。それに、購入決定後の仕様決めもメーカーの担当者と直接したほうが早くて確実だし、いろんな可能性を引き出すことだってできる。
心底ほれた(=代理店がなくても買ってやると思うくらいに)なら、そのブランドの“ファミリー”になってしまったほうがいいに決まっている。実際、パガーニやケーニグセグがまだ無名のころから付き合った世界の超ロイヤルカスタマーたちは、今や彼らの家族も同然で、スペシャルモデルを優先的に購入できるという。
超高価なスーパースポーツを買うのだ。自分の理想に近づける努力を怠ってはいけない。それが相手にも伝わる熱意というもので、ゆめゆめパソコンのコンフィギュレーションで終わらせてオーダーボタンを押せばいい、などとは思わないことだ。
買った後はメーカーの担当者と相談して日本への輸出手続きを進めるのみ。日本での認証登録が難しい場合も多いと思われるが、そのあたりは日本の並行輸入業者にありとあらゆるノウハウがある。心配な購入後のメンテナンスも同様だ。それもまた蛇の道は蛇、というわけ。
まずは自身でメーカーに直接コンタクトを取って自分の存在をアピールすること。同時に、日本側で信頼のおける並行輸入に慣れた業者を見つけておくこと。日本でまだ誰も乗っていないスーパースポーツを買うことは確かに難しく、超えるべきハードルがいくつもあるけれども、できない相談では決してないと思う。
(文=西川 淳/写真=ゴードン・マレー・オートモーティブ、マクラーレン・オートモーティブ、webCG/編集=堀田剛資)
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西川 淳
永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。
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