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スーパーカーフリークの夢! ゴードン・マレーの新作「T.33」が僕らの胸を焦がす理由

2022.02.11 デイリーコラム 西川 淳

恒例というか案の定というか……

実を言うと、ゴードン・マレー・オートモーティブ(以下、GMA)の放つ新型スーパーカー「T.33」について、『webCG』にて速報こそ打ったものの、詳細をこれからあらためて記すことに少なからずためらいがある。なぜなら、「もう買えないから」だ。

もちろんスーパーカーのリポートたるものは、多くの場合、クルマ好きの興味に応えたり、夢の実現へのステップとなったりするもので、そういう意味ではそもそも“買う・買わない”は別次元の話だと思うこともできる。けれども筆者のまわりには、真剣に購入を検討するリアルカスタマーも少なからずいらっしゃって、スーパーカーについて記す際には常に彼らの顔を思い浮かべ、どういった情報なら役に立つかを考えて書くことを心がけている。だから、ハナから買えないクルマの紹介記事を書くことは、ためらわれるのだ。いっそ試乗リポートなら注文した人への予備知識にもなるというものだけれども……。

とはいえ、昨今のスーパーカー界では新型モデルの紹介をする時点で“売り切れご免”はよくあるハナシ。特に少量生産車や限定モデルの場合に、それは顕著だ。むしろ、「売り切れていないモデルは慌てて買ってはいけない」とも言える。

GMAのニューモデルの場合、先に登場した100台限定の「T.50」がワールドプレミア後わずか48時間(2日)で完売した。それゆえ次のステップとなったT.33も発表後にあっという間に売り切れとなることなど容易に想像できたわけだが、案の定、5日で限定100台がソールドアウトした。おそらくはT.50カスタマーのほとんどが手を挙げたのではないだろうか。

2022年1月27日に発表された「ゴードン・マレーT.33」。GMAにとって2台目の市販ハイパーカーである。
2022年1月27日に発表された「ゴードン・マレーT.33」。GMAにとって2台目の市販ハイパーカーである。拡大
ゴードン・マレー・オートモーティブを率いるカーデザイナーのゴードン・マレー。斬新なアイデアを実現する鬼才として知られ、1970~1980年代に活躍したブラバムやマクラーレンのF1マシンに加え、「マクラーレンF1」「SLRマクラーレン」などのロードカーも手がけている。
ゴードン・マレー・オートモーティブを率いるカーデザイナーのゴードン・マレー。斬新なアイデアを実現する鬼才として知られ、1970~1980年代に活躍したブラバムやマクラーレンのF1マシンに加え、「マクラーレンF1」「SLRマクラーレン」などのロードカーも手がけている。拡大
2020年8月4日に世界初公開された「T.50」だが、その後わずか2日間で完売となった。デリバリー開始は2022年1月とされていたので、幸運なオーナーのなかには、今ごろこのクルマをガレージで眺めている人もいることだろう。
2020年8月4日に世界初公開された「T.50」だが、その後わずか2日間で完売となった。デリバリー開始は2022年1月とされていたので、幸運なオーナーのなかには、今ごろこのクルマをガレージで眺めている人もいることだろう。拡大

純内燃機関モデルはこれが最後

ところで、T.50やT.33に見られる“100台”という数量は、エクスクルーシブ性を保つために定められたGMAの原則(1モデル100台)であると同時に、彼らの年間生産規模の制限でもある。発表時にも明らかにされたように、T.33には今回のクーペ以外にも派生モデルが2種類用意されるようなのだが、この原則と制約からして、それらがいずれも100台以下であることは確実だ。この手のスーパーカーにおいて派生モデルとは、大抵スパイダーと高性能グレードを指す。GMAは「ご想像のとおり」としかアナウンスしなかったが、これら2車種がどんなモデルになるかが気になって、クーペのオーダーを逡巡(しゅんじゅん)した方もいたはず。それが完売までT.50より3日余分にかかった理由のひとつかもしれない。

いずれにしても、次のバリエーションを必ず手に入れたいという人は、今すぐにでも手つけを打つ覚悟で臨まないと、すでにオーダーを入れたGMAのVIPカスタマーに3たび先を越されることになるだろう。ゴードン信者はおそらく全モデルを買うからだ。

ちなみにGMAは、これらT.50およびT.33シリーズの合わせて400台(かそれ以下)が、自身の手になるピュアな内燃機関モデルのすべてになると言っている。ゴードン・マレーの考える次世代電動パワートレインも気になるところだ……。

「T.50」と同様、「T.33」の生産台数は100台のみとなっている。
「T.50」と同様、「T.33」の生産台数は100台のみとなっている。拡大
ハイパーカーやスーパーカーには、派生モデルとしてオープン仕様や高性能バージョンが設定されるのが通例。「T.50」にもサーキット専用の高性能モデル「T.50sニキ・ラウダ」が25台限定で設定された。
ハイパーカーやスーパーカーには、派生モデルとしてオープン仕様や高性能バージョンが設定されるのが通例。「T.50」にもサーキット専用の高性能モデル「T.50sニキ・ラウダ」が25台限定で設定された。拡大
「T.33」に搭載される、コスワース製の4リッターV12自然吸気エンジン。「T.50」に搭載されるものをベースに、各部を設計し直したものだ。。
「T.33」に搭載される、コスワース製の4リッターV12自然吸気エンジン。「T.50」に搭載されるものをベースに、各部を設計し直したものだ。。拡大

ファンの目を引く優雅なイタリアンデザイン

そろそろ本題、T.33クーペの詳細解説に入ろう。速報の繰り返しとなるが、T.50との大きな違いは以下の8点だ。

  • (センターシーターの3人乗りではなく)左/右ハンドルのチョイスが可能な2シータースタイルとしたこと。
  • 空力ファンを装備しないこと(より簡便で画期的な新システムを採用する)。
  • ISG付き4リッターV12エンジンは再設計され、「GMA.2」(カムカバーカラーがオレンジからイエローに変わった)となったこと。カムシャフト、吸排気システム、バルブタイミング、キャリブレーションを専用設計とし、最高許容回転数を1000回転落として1万1100rpmとした。最高出力も615PS/1万0500rpmとわずかに落としている。
  • トランスミッションは同じXトラック製だがT.50とは別設計で、6段MTのほかパドルシフト仕様も用意したこと。
  • ホイールベースをT.50より35mm延長したこと。
  • シャシー&サスペンションの設計を変更したこと。
  • 車両重量はわずかに増えて1090kgとなったこと。それでも現代のスーパーカーとしては十分に軽く、T.33より軽いプロダクションハイパーカーは事実上T.50しかない。パワーウェイトレシオは1.77kg/PS!!!
  • 価格はT.50から100 万ポンド近く下げられ、137万ポンドになったこと。

とはいえ、最も違う点はデザイン、特にスタイリングだ。「美しさへの回帰」と彼らはうたうが、エクステリアデザインのピュアでシンプルな造形は、1960年代のイタリアンクラシックにその原点を見いだすことができるだろう。事実、T.33発表の公式動画では、GMAの敷地内に「デ・トマソ・バレルンガ」が止められていて、その脇をT.50プロトタイプが走り去るさまが映された。

カムカバーの色は、「T.50」がオレンジなのに対し、「T.33」ではイエローとなっている。
カムカバーの色は、「T.50」がオレンジなのに対し、「T.33」ではイエローとなっている。拡大
「T.50」のシートレイアウトは中央に運転席を据えた3座式。一方「T.33」はコンベンショナルな2シーターである。
「T.50」のシートレイアウトは中央に運転席を据えた3座式。一方「T.33」はコンベンショナルな2シーターである。拡大
「T.33」のホイールベースは「T.50」より35mm長い2735mm。車重も重くなっているというが、その数値はわずかに1090kgと、このジャンルのモデルとしては驚異的な軽さだ。
「T.33」のホイールベースは「T.50」より35mm長い2735mm。車重も重くなっているというが、その数値はわずかに1090kgと、このジャンルのモデルとしては驚異的な軽さだ。拡大
「マクラーレンF1」を思わせるウエッジシェイプの「T.50」に対し、「T.33」は往年のイタリアンスパーカーをほうふつさせる、クラシックなデザインとなっている。
「マクラーレンF1」を思わせるウエッジシェイプの「T.50」に対し、「T.33」は往年のイタリアンスパーカーをほうふつさせる、クラシックなデザインとなっている。拡大

新しいデバイスで空力性能とデザインを両立

よく知られているように、ゴードン・マレーは例えば「アバルトOT1300ペリスコピオ」を所有しているし、「アルファ・ロメオ・ティーポ33ストラダーレ」の大ファンでもある。T.33とはもちろん彼自身のデザイン発案順につけられた名前(つまりT.33のアイデアそのものは随分と前からあった)だが、33番目に60年代イタリアンクラシックをヒントにしたベルリネッタを描いたとは、なんとも意味深ではないか!

アーモンド形のヘッドライトに、はにかんだようなフロントグリル、グラマラスな前後のフェンダーライン、マニア垂涎(すいぜん)のルーフラインとエンジンからそびえるラムインダクションスクープ、そして丸型2灯のテールランプと、現代のモデルとして生まれたことが奇跡のようなスタイリングである。筆者は特に丸型のリアランプとともに眺めるリアフェンダーの峰が好み。ファンカーではないぶん、全体的な雰囲気もよりエンスー好みのバランスに仕上がった。

ファンが装備されないとはいえ、T.33も完全なるグラウンドエフェクトカーである。特にファンの代わりに導入された新たな空力システム「PBLC(パッシブ・バウンダリー・レイヤー)」が、ファンカーに近いグラウンドエフェクト作用を生み出す。これは、キャビン直後の床下から取り入れた空気を、リアディフューザーの上と下から2層に分けて後方へと流し、強力なダウンフォースを得るというものだ。

1967年から18台のみが生産された「アルファ・ロメオ・ティーポ33ストラダーレ」。
1967年から18台のみが生産された「アルファ・ロメオ・ティーポ33ストラダーレ」。拡大
フロントまわりのデザインは、タテ目のヘッドランプとやや“口角”の上がったグリルが特徴。
フロントまわりのデザインは、タテ目のヘッドランプとやや“口角”の上がったグリルが特徴。拡大
「T.33」のリアビュー。グラウンドエフェクト効果を生み出す新しい空力デバイスの採用により、「T.50」に装備される巨大なファンは廃されている。
「T.33」のリアビュー。グラウンドエフェクト効果を生み出す新しい空力デバイスの採用により、「T.50」に装備される巨大なファンは廃されている。拡大

鬼才の手になる究極のドライビングマシン

インテリアはさらに奇跡だろう。なにしろ無粋なセンターディスプレイの類いがない(Apple CarPlayやAndroid Autoは使用できる)。カーボンステアリングホイールの向こう側、クラスターの中央には大きなエンジン回転計が据え置かれ、1万2000回転まで目盛りが刻まれている。操作計はすべてアナログダイヤル式で、アルミニウム削り出し品である。軽量であることが第一義のモデルゆえ、どんなに小さな部品でも裏側を見ればぜい肉が落とされている。たとえ小さなネームプレートであっても、だ。

ゴードン・マレー・デザイン(GMD)が特許を持つ「マルチアジャスタブルiStreamカーボンシート」もインテリアに独特の雰囲気を与えている。

そしてなにより、中央に屹立(きつりつ)するマニュアルシフトレバー! T.33に関して言えば、パドルシフト仕様のチョイスも可能というが、もし筆者がT.50を買い損ねてT.33を幸運にもオーダーできたとしたならば、1万回転以上回るV12自然吸気エンジンを3ペダルマニュアルで操る機会を逃したくはない。逆に言うと、T.50オーナーであればパドルシフト仕様を選ぶ理由もあるというものだろう。

T.50さえまだ見たことも触ったことも乗ったこともないというのに、早くも心は一日でも早くT.33を試したい気持ちでいっぱいだ。資料を読めば読むほどに乗ってみたくなる。ゴードンの考える究極のドライビングマシン。オーダーできた人がうらやましくて仕方ない。おそらく、T.33シリーズは「20世紀的なスーパーカー」の締めくくりとなるだろう。

そして、T.50とT.33でスーパーカーのルールブックを書き換えたGMAが、次に繰り出す一手はどうなるのか。明日のスーパーカー=未来への期待もふくらむばかりである。

(文=西川 淳/写真=ゴードン・マレー・オートモーティブ、ステランティス/編集=堀田剛資)

「T.33」の運転席まわり。最近はやりのタッチパッドなどはなく、操作は基本的に機械式のスイッチ類で行う。
「T.33」の運転席まわり。最近はやりのタッチパッドなどはなく、操作は基本的に機械式のスイッチ類で行う。拡大
カーボンステアリングホイールのリムは、控えめなフラットボトム形状となっている。メータークラスターの中央に据えられたエンジン回転計には、1万2000rpmまで目盛りが振られている。
カーボンステアリングホイールのリムは、控えめなフラットボトム形状となっている。メータークラスターの中央に据えられたエンジン回転計には、1万2000rpmまで目盛りが振られている。拡大
センターコンソールまわりの意匠はシンプルそのもの。シフトベースには「Gordon Murray」のサインが書かれている。
センターコンソールまわりの意匠はシンプルそのもの。シフトベースには「Gordon Murray」のサインが書かれている。拡大
ゴードン・マレーの考えるドライビングの喜びを具現した「T.33」(写真)と「T.50」。ぜひとも早く実車に触れてみたい。
ゴードン・マレーの考えるドライビングの喜びを具現した「T.33」(写真)と「T.50」。ぜひとも早く実車に触れてみたい。拡大
西川 淳

西川 淳

永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。

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