「スカイアクティブX」は搭載しないんですか? 「マツダMX-30」の開発陣に話を聞いた
2020.10.16 デイリーコラム開発スタートはマツダ3と同時
すでに各所で報じられている通り、マツダではこれまでチャレンジングなモデルに「MX」の名称を使ってきた。そのMXを冠する新型車「MX-30」はどこがチャレンジングなのかというと、これまでマツダ車にそれほど興味がなかった人たちに振り向いてもらうための、ある種の実験的なモデルなのだという。そのあたりの事情を開発主査の竹内都美子氏とチーフデザイナーの松田陽一氏に聞いてきたので報告したい。
実はMX-30の開発は、マツダの新世代商品群の第1弾である「マツダ3」と同時にスタートしている……が、実際には「CX-30」よりも遅れた第3弾としてデビューした。これについて竹内主査は「袋小路に入り込んでしまって」と笑顔で説明してくれた。
マツダの上層部から竹内氏に下されたミッションは「全く新しい価値観のクルマをつくりたまえ」だったという。聞くだけだと驚きは少ないものだが、自動車の誕生から百数十年を経た現代において、全く新しいモノを生み出せというのは、なかなか乱暴な指令である。松田氏は「ドツボにはまりました」と述懐する。
一般的に自動車は人々の生活を便利に、豊かにするためにつくられている。そのため前方視界やキャビンの広さ、荷室の広さといった他のクルマと同じポイントを重視していくと、どうしても新しい価値観を付与することが難しくなる。というか、どこかで見たことのあるクルマが出来上がってしまう。ここでの停滞がマツダ3との1年5カ月ほどのデビュー時期の差につながっている。
自由な空間への入り口
こうした状況を打破したのが「フリースタイルドア」だ。マツダ車の先輩である「RX-8」から受け継いだこのセンターオープン式ドアは、MX-30のキラー装備になるとともに、デザインの自由度を飛躍的に高めた。写真を見てもらえればよく分かるが、MX-30のルーフラインは前後ドアの合わせ目付近からリアに向かって少しずつ太くなり、リアピラーが前方に大きく傾斜している。これがMX-30のどっしりとした塊感を生み出しているのだという。松田氏は「あえてデザインの文法から外した」と、ルーフラインをなでながら教えてくれた。
こうしてエクステリアデザインのために採用されたフリースタイルドアについて竹内氏が「リアドアではなく自由な空間への入り口」と説明してくれたことには少々戸惑ったが、一応機能的なメリットも説明されている。当たり前だが開口幅が大きく取れるので、後席に置いたチャイルドシートに子どもを乗せやすく、降ろしたときも前後をドアにガードされているので安全なのだという。あえてバラしてしまうと、リアドアは窓が開かないし、フロントドアが閉まっていると開かないので、後席に座っている人は自分で降りることができない。そういう点も含めて後席に子どもが乗った場合の安心感は絶大だと思う。
室内空間は居心地のいい、落ち着く空間としてデザインや素材選びに配慮が行き届いている。マツダの原点であるコルクやリサイクル素材を使ったファブリック、さらに革の代用品であることを否定した人工皮革などは、モノ選びにこだわりのある人に、上質感だけでなく素材のストーリーも含めて楽しんでほしいそうだ。ちなみに竹内主査のお気に入りポイントは白内装シートの布の部分。クルマ選びで迷っている人には「グレーのカラーリングとデニムのような風合いの部分を触っていただければ」とのこと。
運転を忘れてほしい?
勘のいい読者はすでにお気づきかもしれないが、MX-30は走りに関しての発信が非常に少ない。シャシー技術「スカイアクティブビークルアーキテクチャー」へのこだわりとか、「G-ベクタリングコントロールプラス」によるニュートラルなコーナリング性能とか、4WDシステム「i-アクティブAWD」の高効率性などはほとんどアピールされていない。もちろん、これらのテクノロジーはすべてMX-30にも採用されているのだが、「速いとか広いとかではなく、心地よさを感じてほしい」という理由であえて抑えているのだという。このあたりも既存のマツダ車とは大きく異なる部分だ。
というのも、MX-30ではこれまでマツダが追い求めてきた「運転」が主張することを避けたいという考えがあるようだ。居心地のいい空間たるMX-30では、運転=操作を意識することなく、なるべくゆるりと過ごしてほしい……。こうした考えが基本にあるため、MX-30にはマニュアルトランスミッションが設定されていない(3列SUVの「CX-8」にもあるのに)。また、マツダ3とCX-30では火花点火制御圧縮着火エンジンの「スカイアクティブX 2.0」に24Vのマイルドハイブリッドを組み合わせていたが、MX-30は「スカイアクティブG 2.0」とマイルドハイブリッドの組み合わせとなっている。この点についても竹内主査は「Xだと走りの主張が強すぎるので」と教えてくれた。冒頭に書いた通りMX-30には既存のマツダファン以外を取り込みたいという狙いがあるので、価格抑制の意味合いもあるだろう。
竹内主査と同じく「ロジカルに考えるのではなく感じてほしい」と松田チーフデザイナーも口をそろえるMX-30。マツダ側から「ここがこうなっているからよく曲がる」という具合に押し付けるのではなく、走りのよさもユーザーが自由に感じ取ってほしいということなのかもしれない。また、ウワサによると2021年1月に発売される電気自動車バージョンの走りは“モノスゴイ”らしいので、走りのアピールはそっちで! ということかもしれない。いずれにしても楽しみな新型クロスオーバーSUVがデビューした。
(文と写真と編集=藤沢 勝)

藤沢 勝
webCG編集部。会社員人生の振り出しはタバコの煙が立ち込める競馬専門紙の編集部。30代半ばにwebCG編集部へ。思い出の競走馬は2000年の皐月賞4着だったジョウテンブレーヴと、2011年、2012年と読売マイラーズカップを連覇したシルポート。
-
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える 2025.10.20 “ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る!
-
スバルのBEV戦略を大解剖! 4台の次世代モデルの全容と日本導入予定を解説する 2025.10.17 改良型「ソルテラ」に新型車「トレイルシーカー」と、ジャパンモビリティショーに2台の電気自動車(BEV)を出展すると発表したスバル。しかし、彼らの次世代BEVはこれだけではない。4台を数える将来のラインナップと、日本導入予定モデルの概要を解説する。
-
ミシュランもオールシーズンタイヤに本腰 全天候型タイヤは次代のスタンダードになるか? 2025.10.16 季節や天候を問わず、多くの道を走れるオールシーズンタイヤ。かつての「雪道も走れる」から、いまや快適性や低燃費性能がセリングポイントになるほどに進化を遂げている。注目のニューフェイスとオールシーズンタイヤの最新トレンドをリポートする。
-
マイルドハイブリッドとストロングハイブリッドはどこが違うのか? 2025.10.15 ハイブリッド車の多様化が進んでいる。システムは大きく「ストロングハイブリッド」と「マイルドハイブリッド」に分けられるわけだが、具体的にどんな違いがあり、機能的にはどんな差があるのだろうか。線引きできるポイントを考える。
-
ただいま鋭意開発中!? 次期「ダイハツ・コペン」を予想する 2025.10.13 ダイハツが軽スポーツカー「コペン」の生産終了を宣言。しかしその一方で、新たなコペンの開発にも取り組んでいるという。実現した際には、どんなクルマになるだろうか? 同モデルに詳しい工藤貴宏は、こう考える。
-
NEW
トヨタ・カローラ クロスGRスポーツ(4WD/CVT)【試乗記】
2025.10.21試乗記「トヨタ・カローラ クロス」のマイナーチェンジに合わせて追加設定された、初のスポーティーグレード「GRスポーツ」に試乗。排気量をアップしたハイブリッドパワートレインや強化されたボディー、そして専用セッティングのリアサスが織りなす走りの印象を報告する。 -
NEW
SUVやミニバンに備わるリアワイパーがセダンに少ないのはなぜ?
2025.10.21あの多田哲哉のクルマQ&ASUVやミニバンではリアウィンドウにワイパーが装着されているのが一般的なのに、セダンでの装着例は非常に少ない。その理由は? トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。