【F1 2020】今季2勝目を飾ったボッタスが叫んだ「ネバーギブアップ」の意味
2020.09.28 自動車ニュース![]() |
2020年9月27日、ロシアのソチ・オートドロームで行われたF1世界選手権第10戦ロシアGP。スタート前にメルセデスとルイス・ハミルトンが犯した違反により、レースは大きく様変わりした。
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元フェラーリ代表 F1の新しいボスに
ロシアGP初日の9月25日、F1は、チェイス・キャリーCEOに替わり、ステファノ・ドメニカリを新しいボスとすることを正式に発表した。
ドメニカリといえば、2008年から2014年途中までスクーデリア・フェラーリの代表を務めた人物である。1991年からマラネロに籍を置き、チームマネジャー、スポーティングディレクター、そしてチーム代表とステップアップ。2000年代にはミハエル・シューマッハーの5連覇&チーム6連覇達成に貢献した。代表に就任する頃にはシューマッハーを含めキーメンバーが去り、新しいマラネロの象徴として歴史あるチームをけん引。2008年にコンストラクターズタイトルを獲得するも以降は頂点に手が届かず。ターボハイブリッド規定が始まった2014年シーズン途中に不振の責任を取り辞任した。その後はアウディを経てランボルギーニのCEOに就任。市販車の世界に身を投じていたが、今回晴れてF1の長としてレースシーンに復帰することとなった。
一方のキャリーは、ドメニカリにバトンを渡し非常勤の会長に退く。アメリカのメディア企業リバティ・メディアがF1のオーナーとなったのは2016年のこと。翌年、それまで長年にわたりGP界を牛耳ってきたバーニー・エクレストンから、リバティの息がかかったキャリーにCEOの座が移ると、史上初となる予算上限ルールの設定や大幅なレギュレーション変更、新しいコンコルド協定の締結といった難題をクリア。チーム間の不均衡問題、そしてコース内外でのエンターテインメント性向上など、エクレストン時代の“負の遺産”の解消に努めた。
2022年には新レギュレーションが施行され、大きく様変わりすることになるF1。モータースポーツの表と裏を熟知し、また自動車メーカーの立場も心得る55歳のイタリアン、ドメニカリは、新時代のかじ取り役としてふさわしい、そう判断されたということだろう。くしくもレースを統括するFIA(国際自動車連盟)のジャン・トッド会長、F1モータースポーツ部門のマネージングディレクターを務めるロス・ブラウンは、かつてフェラーリ黄金期を築いた仲間。今度はF1に全盛期をもたらすべく、それぞれのポストで尽力することになる。
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ハミルトン「最悪の予選」でポールポジション
新型コロナウイルスのパンデミックで全17戦の変則的なスケジュールとなった2020年のF1も、前戦トスカーナGPで前半戦を終えた。9戦して6勝、55点もの大量リードで折り返したのはルイス・ハミルトン。同じく7勝して152点ものギャップを築いたメルセデスとともに、それぞれのタイトルに向けてまっしぐらといった様相を呈していた。
ハミルトンもメルセデスも大本命とはいえ、ここまで独走されてはライバルも立つ瀬がない。同じメルセデスのバルテリ・ボッタスはそんなドライバーの筆頭ともいうべきで、2017年に初優勝した得意のソチで、開幕戦オーストリアGPに次ぐ今季2勝目を狙いたかった。
ボッタスはいつも通りフリー走行まで順調な仕上がりをみせるも、予選になるとハミルトンに形勢逆転を許すことに。ハミルトンは今季8回目、通算96回目、ソチで2度目のポールポジションを獲得したのだが、Q2セッションではコースをはみ出しタイム無効、アタック中に赤旗中断となり、危うくQ2落ちを喫するところだったのだ。「最悪の予選」と本人も苦笑い。それでも後続に0.563秒もの大差をつけた圧巻のポールを決めたのはさすがだった。
予選2位はマックス・フェルスタッペン。レッドブルのクリスチャン・ホーナー代表をして「信じられないラップ」と言わしめたほど。これまで2戦連続リタイア、さらにロシアGP初日にはセットアップが決まらず苦しんでいただけに、会心の一発にチームの士気も高まった。
3位ボッタスはポールから0.652秒遅れとなったが、それ以降は1秒以上離され、レーシングポイントのセルジオ・ペレス4位、ルノーのダニエル・リカルド5位、マクラーレンのカルロス・サインツJr.6位、ルノーのエステバン・オコン7位、マクラーレンのランド・ノリス8位と中団チームが0.5秒の間にひしめき合った。5列目には、アルファタウリのピエール・ガスリー9位、レッドブルのアレクサンダー・アルボン10位とホンダのパワーユニット勢が並んだのだが、アルボンはギアボックス交換で5グリッド降格、フェラーリのシャルル・ルクレールが繰り上がった。
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ハミルトン スタート練習違反で10秒のペナルティー
Q3に進んだドライバーが履くレースのスタートタイヤは、Q2でベストタイムを記録したタイヤと決まっている。ハミルトンは、ギリギリでQ3進出を果たしたためにレースでは不利なソフトタイヤを装着しなければならず、ミディアムの2位フェルスタッペン、3位ボッタスと異なる戦い方を余儀なくされた。
しかし、そんなレース戦略の前に、ハミルトンとメルセデスは手痛いミスを犯す。通常、ドライバーはダミーグリッドにつく前にスタート練習を行うものだが、ハミルトンは路面のラバーの状況から、ピットレーンの出口でやりたいとチームに相談、メルセデスはそれをよしとした。だがそこは、練習が許可された場所ではなかったのだ。
最初のブレーキングポイントであるターン2まで長いストレートが続くソチでは、スリップストリームを使い後続が前に出るチャンスが大きいとされる。53周レースのシグナルが消えると、ハミルトンはなんとか踏ん張ってトップを死守するも、ボッタスが2位に上がり、フェルスタッペンは3位に落ちてしまった。その後ろでは、マクラーレンのサインツJr.やレーシングポイントのランス・ストロールがクラッシュし、セーフティーカーが出動した。
1位ハミルトン、2位ボッタス、3位フェルスタッペン、4位オコン、5位リカルド、6位ペレス、7位ガスリー、8位ルクレールといったオーダーで6周目にレース再開。今回は混乱はなかったものの、ここで先のスタート練習の違反により、首位ハミルトンに違反2つ分で5秒ペナルティー×2=合計10秒ペナルティーが科されることが決まった。
16周目、そのハミルトンがピットに入り、10秒間の静止の後にハードタイヤに交換、11位でコースに戻った。これでトップに立ったボッタスは、2位フェルスタッペンを4秒後方に従えて、ファステストラップを更新しながら快調なラップを刻むこととなった。
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ボッタスは自信を取り戻す今季2勝目
26周目、ボッタスに10秒差をつけられていた2位フェルスタッペンがピットストップ。次の周にボッタスがハードに履き替え、首位を譲ることなくコースに戻った。
30周を終えてタイヤ交換が一巡すると、1位ボッタス、13秒後方に2位フェルスタッペン、そこから8秒離れて3位ハミルトン。同じハードでもより長く走らなければならないハミルトンは、タイヤをセーブする必要があり、フェルスタッペンとのギャップはなかなか縮まらなかった。また2位フェルスタッペンも、ストレートだけで0.6秒遅れるペースではメルセデスに歯が立たず、自らのレースに徹するしかなかった。
こうしてボッタスは、開幕戦に次ぐ今季2勝目を労せずしてせしめることとなった。チェッカードフラッグを受けて歓喜の声を上げるウィナーは、「俺のことを悪く言うやつ、見たか!」とたけだけしい言葉を無線で叫んだ。そしてコックピットから降りていつもの落ち着きを取り戻すと、「ネバーギブアップ。久々の勝利は気分がいいものだ。この勢いをキープしていきたい」と前向きなコメントを口にした。
世界屈指のトップドライバーが集結するF1にあって、ハミルトンやフェルスタッペンといった、チャンピオンを狙えるひときわ秀でたドライバーをチームメイトに持つことには、レースに勝つこととは別の難しさがある。メルセデス在籍4年目、勝ち続ける僚友の姿を間近で見続けてきたボッタスの「ネバーギブアップ」という言葉には、彼がF1で戦い続ける意味、すなわち「自分だってタイトルを取るつもりなんだ」という、ドライバーとしての矜持(きょうじ)が宿っているようだった。
2戦連続でトラブルからリタイアを喫していたフェルスタッペンとレッドブルも、2位フィニッシュで自信を取り戻すことができた様子。一方、トップのスタートから3位と不本意な結果に終わったハミルトンは、レース後「あのペナルティーはばかげている」と憤まんやる方なしだった。
F1の参加資格たるスーパーライセンスには「ペナルティーポイント」という制度があり、ドライバーは12カ月間にこのポイントが12点に達すると1レース出場停止という重い罰を受けることになっている。FIAは当初、今回の違反でハミルトンに2点を追加し、ハミルトンは累積10点となり出場停止にリーチがかかった状態となってしまったが、レース後の調査の結果、今回の2点追加を撤回。代わりにチームに2万5000ユーロ(約307万円)の罰金を科すこととした。だからといって、ロシアでの勝利、それもミハエル・シューマッハーの最多91勝に肩を並べることのできる特別な1勝は戻ってこないが……。
次戦はドイツ・ニュルブルクリンクでのアイフェルGP。決勝は10月11日に行われる。
(文=bg)