ホンダイズムはだてじゃない! ホンダが秘めた未来への可能性と乗り越えるべき課題
2020.11.30 デイリーコラム誕生30周年を祝いたいところだが……
ホンダのフラッグシップスポーツ「NSX」が、今年(2020年)誕生30周年を迎えた。このクルマが生まれた1990年といえば、時代はバブル真っただ中。まだ小学生だった私に好景気の記憶はないが、「ホンダがフェラーリに挑むスーパーカーを出す」や「納車は数年待ち」などのNSXの情報が、背伸びして熟読していた自動車雑誌の誌面をにぎわせていたことは覚えている。あの頃、“即納”をうたい、中古車誌を飾っていたアキュラNSXはどこに行ったのだろう……?
日本初の量産スーパーカーという偉業を成し遂げた初代は、2005年にモデルライフを終了。7年にわたる沈黙を破ったのは、2012年の北米国際自動車ショーで発表された「NSXコンセプト」だった。ホンダはこのクルマを通し、新型NSXがV6ミドシップの伝統を受け継ぎながら、ハイブリッド4WDの「Sport Hybrid SH-AWD」を搭載した次世代スーパーカーとなることを予告。2016年より量産車の販売が開始された。
元来、NSXは米国市場を強く意識したモデルであったが、現行型は生産拠点も米国に移すなど、よりアメリカ寄りとなっている。もちろん、これはネガティブなことではない。今日では日欧問わず多くのメーカーが米国に生産拠点を構えているし、そもそも現代のスーパーカーのビッグマーケットは米国市場だ。日米の開発拠点と人材を活用して、フラッグシップモデルにふさわしい内容を実現するうえでも、あるいはユーザーフォローを充実させるという観点でも、米国に供給拠点を置くことは合理的な選択だったのだろう。
しかし、このようにベストを尽くしたはずのNSXが、なぜか米国で振るわない。2020年10月に発表された同市場での最新年間販売台数(2019年11月~2020年10月)は、コロナウイルスによる影響もあり、前年の同期間の約半分となる105台にとどまった。逆に言うと、2019年も217台と寂しいものだったのだ。
ホンダを支えてきた真の立役者
NSXの名誉のために付け加えておけば、NSXは高性能なクルマだ。しかも環境性能も高く、日常での利便性の高さも備えている。まさに完璧主義のスーパーカーといえるだろう。ただ、現行型の不振については「その美徳がアダとなっている部分もあるのではないか」という指摘もある。すきのない美人とは近寄り難いもの、ということなのだろう。
こうした不人気美人論や先述のアメリカ寄りのスタンスなど、NSXの不振について、プロダクトやメーカーの姿勢に理由を求める意見は多い。しかし、そもそもユーザーがホンダに求める価値が変化しているという面もあるのではないだろうか?
ホンダの今の姿を知るべく、2019年の車種別年間販売台数を振り返ってみると、世界的にSUVブームが続くこともあり、1位は「CR-V」で82万4708台を販売した。そして2位が「シビック」、3位が「ヴェゼル(HR-V)」、4位が「アコード」、5位が「フィット(ジャズ)」と続く。アコードは上級車種に位置するが、それを除くと若年層やファミリーに人気のある実用車が占めているのだ。ちなみに、日本でのトップは軽スーパーハイトワゴン「N-BOX」で、25万3500台を記録している。もちろん、世界中に販売網を持つフルラインメーカーであるために、このランキングは当然の結果といえる。しかしこのラインナップを見ると、どれもホンダが独自の世界観をつくり上げ、ファンを広げてきた車種であることに気がつく。
日本車華やかなりし頃の1990年代を思い出しても、ホンダをホンダたらしめていたのはスポーツカーだけではなかった。当時のホンダはNSXのようなスーパーカーを送り出す一方で、自社製RVを持たないことが弱みとなって厳しい経営状況に置かれた。そこで起死回生の一撃として、“ホンダ流RVシリーズ”ともいうべき「クリエイティブムーバー」の第1弾「オデッセイ」(1994年)を投入。これがセダン感覚で使えるミニバンの先駆けとなった。クリエイティブムーバーは、第2弾のCR-V、第3弾の「ステップワゴン」と続き、そのいずれもが大ヒット。ホンダの経営を支えた。個性派トールワゴン「S-MX」も同シリーズの一台で、後続車こそ生まれなかったが、そのマイルーム感覚はNシリーズの軽ワゴンたちに受け継がれていると思う。
「ホンダイズム=スポーツ」という“誤解”
この頃からホンダは「ミニバン屋」とやゆされるようになるが、実際には「インテグラ」とシビックに国内FF最強を自負する「タイプR」を設定するなど、クルマ好きが言うところの「ホンダらしいクルマ」もしっかりリリース。そして2000年には、ホンダの創立50周年を記念して「S2000」も発売している。いずれも今なお多くのファンに走る喜びを提供しているクルマだが、クリエイティブムーバーたちの稼ぎなくして、これらのモデルが誕生することはなかっただろう。
ついわれわれは、「ホンダイズム=スポーツ」と考えてしまいがちだが、それはホンダの魅力のひとつにすぎない。本来のホンダイズムとは、世の中にないものを生み出し、ユーザーに新しい喜びを感じさせることではないだろうか。
今年、ホンダは2つのコンパクトカーを世に送り出した。新型フィットと電気自動車の「ホンダe」である。フィットは、「人のためのスペースは最大に。メカニズムは最小に。」というホンダ伝統の“MM思想”を今日に受け継ぐクルマだ。ビジュアルやメカニズムは最新だが、広いスペースと燃費の追求、質実剛健を基本とするところは初代フィットの再定義ともいえる。一方、デジタルミラーやディスプレイパネルを中心としたダッシュボード、フル電動車であることなど目新しさ満載のホンダeは、挑戦の塊のような存在である。考え方はもちろんだが、乗ってみても、どちらも極めてホンダらしいクルマだと思った。これこそがホンダイズムであり、いずれも走ることの楽しさも忘れていない。
そして、ホンダイズムは何もクルマだけの話ではない。人型ロボットの「ASIMO(アシモ)」や小型ジェット機「ホンダジェット」は、まさにその代表例だろう。
NSXもロボットも飛行機もつくるメーカーはほかにない
いつの時代も、ホンダはホンダらしくあろうとしてきた。そして同時に、独自路線が強いがゆえに何度も経営危機を経験してきた。
今日も状況が厳しいのは同じだ。自動車は環境の変化による大変革期を迎えており、電動化や自動運転などの研究開発費もかさむ。膨大なコストの割に収益に結びつかないF1からの撤退も、経営判断としてはやむなしということなのだろう。クルマ好きのなかには、それをクルマの魅力を軽視する流れと見る向きもある。しかし、近年のホンダ車を見ていると、人気を博すクルマの多くは、キャラが立ち、機能や走りにホンダらしさがあふれている。まだホンダがホンダであろうとしていることを感じさせる。
一方で、ホンダという企業や製品ラインナップを俯瞰(ふかん)してみると、一枚岩になれていない、オールホンダになりきれない部分があるのも事実。ホンダジェットの成功やASIMOというオリジナルなキャラクターのイメージを、他の製品(例えば市販車)に活用しきれていない面がある。例えばホンダeには、独自の“ゆるキャラ”がインフォテインメントシステムに搭載されているが、このビジュアルをASIMOにしてもよかったと思う。販促キャンペーンとして、ホンダジェットの搭乗体験会を開催すれば大いに盛り上がるに違いない。いろいろな顔と製品を持つことは、販売現場に刺激をもたらし、その活力にもつながるだろう。
スピード感ある経営判断も確かに大事だが、自分たちがどれほどの資産を持っているか、今は足元を見つめ直すタイミングでもあるのではないか。今も昔もホンダを見守り続けるファンの存在を忘れず、自分たちが生み出してきた多くの価値をフル活用して、新たな飛躍をみせてほしい。
(文=大音安弘/写真=本田技研工業/編集=堀田剛資)

大音 安弘
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