SUVの「クラウン」はアリなのか? 絶滅危惧車の運命について考える
2020.11.23 デイリーコラムあまりにも多い難題
先ごろ、次期「トヨタ・クラウン」がセダンではなくSUVになるという趣旨の新聞報道があった。
セダンは販売が低調で、クラウンの売れ行きも下がった。現行型の発売から2年少々が経過したが、売れ行きは先代のモデル末期と同等まで落ち込んだ。クラウンは基本的に国内向けの製品だから、今後は成立すること自体、困難になりそうだ。
しかしクラウンは1955年に初代モデルが発売された、トヨタの根幹をなすとされる車種であり、廃止はできないらしい。そこでクラウンの車名と高級感を継承しながら、カテゴリーを従来のセダンから売れ筋のSUVに変更するというわけだ。
これはまさに苦肉の策で、成功する可能性は低い。クラウンは基本的に“セダンのカテゴリー”とセットで発展してきたからだ。SUVではブランドイメージが合わない。
またクラウンは高級車の代表であり、優れた走行安定性と乗り心地が不可欠だ。この2つの要素を高次元で両立させるには、低重心で、後席とトランクスペースの間に隔壁を備えた高剛性のセダンボディーが必要になる。クラウンがSUVになれば、外観の存在感が増して車内も広くなるだろうが、高級車にとって最も大切な静粛性や快適性の点で不利になる。
そしてかつての「日産レパード」のように、同じ車名でセダンやクーペなどカテゴリーを変えた車種は、販売面では成功していない。
10年たったら赤信号
クラウンのように生き残りをかけて変革を迫られる車種は、今では大幅に減った。日本のメーカーが海外市場を重視する姿勢に変わり、国内販売が衰退を開始してから、既に20年以上が経過するためだ。売れ行きが先細りの車種は、大半が廃止された。
例えば、比較的最近になって廃止された車種を見ても、ミニバンや3列シート車なら「トヨタ・エスティマ」「マツダ・プレマシー」「スバル・エクシーガ/クロスオーバー7」。コンパクトカーでは日産の「キューブ」「ティーダ」にトヨタの「bB」「ラクティス」。セダンなら「トヨタ・マークX」「ホンダ・シビックセダン」「レクサスGS」「三菱ランサーエボリューション」。ワゴンであれば「日産ウイングロード」と「トヨタ・アベンシス」。SUVなら「三菱パジェロ」「トヨタFJクルーザー」「日産スカイラインクロスオーバー」という具合だ。
リストラが進んだ結果、廃止を待つ車種も減った。それでも今後の動向が不明な車種はある。見分け方はデビュー後の経過年数だ。フルモデルチェンジの周期が長い少量生産の悪路向けSUVやスポーツカー、商用車を除けば、発売後10年以上経過した車種の刷新はないと考えていい。
例えば最後の世代のエスティマは、2006年に発売され、2016年にフルモデルチェンジではなく最後のマイナーチェンジを行い、3年後の2019年に廃止された。一方「ヴィッツ」は、2010年の登場から10年を経たものの、2020年のフルモデルチェンジで海外仕様車と同じ「ヤリス」名へと移行することにより、限界ギリギリで代替えを果たした。
今は2020年の終盤だから、2010年までに発売されながらフルモデルチェンジを受けていない車種は、残念な結果に終わる可能性が高い。ミニバンでは「日産エルグランド」や「三菱デリカD:5」。セダンなら「トヨタ・プレミオ/アリオン」や「日産フーガ」という具合だ。
販売強化がもたらした悲劇
ちなみに不人気でも、発売からあまり時間が経過していないと、廃止できない事情がある。
車両の開発などに投入した費用は、発売後に償却されるからだ。売れ行きが低調でも短期間しか製造販売しないと、損失をこうむってしまう。そのために不人気車については、売れていないのにほそぼそと長期間にわたって製造販売を続け、一定の台数に達してから終了することもある。
それでもフルモデルチェンジを行って次期型へと継続させるなら、モデルライフは前述の10年が限界だ。それを超えると乗り換えを希望していたユーザーが他メーカーに移るなどの顧客離れも生じる。この後にフルモデルチェンジしても、乗り換え需要は望めず、新規投入車種と同じ苦労を強いられる。ゆえに、10年を超えたら継続は諦めるわけだ。
クラウンに話を戻すと、いまやトヨタの販売店全店が、系列の分け隔てなく全車を売る体制に移っている。そのためにかつてクラウンを専門に販売していたトヨタ店でも、新たに取り扱いを開始した「アルファード」や「ハリアー」の販売が好調だ。クラウンからこの2車種に乗り換えるユーザーも増えて、アルファードやハリアーが増える代わりに、クラウンは一層落ち込んでいる。
この全店/全車併売によって生じた影響は、車種と販売網のリストラを自動的に進めるため、トヨタが自ら望んだ結果だ。そのため「ルーミー」を残して「タンク」を廃止するなど、リストラが円滑に進んでいる。「ヴェルファイア」の売れ行き(2020年10月は1261台)も、兄弟車であるアルファード(同1万0093台)の12%程度にまで落ち込んでおり、前者は廃止される可能性が高い。全店が全車を得る体制は、リストラをするには有利だが、とても残酷だ。
それなのにクラウンは残したいというのは、気持ちは理解できるが、ご都合主義がすぎる。一度判断したならば、クラウンを切り捨てるか、全店/全車併売に弊害が生じたことを認めて、セダンのままで生き残れるようトヨタ店の協力を仰ぐべきだ。クラウンをSUVに変更して、車名だけ残すという方法は、何とも見苦しい。ユーザー、販売店、メーカーを問わず、クラウンを愛した人たちからも喜ばれることはないだろう。
(文=渡辺陽一郎/写真=トヨタ自動車/編集=関 顕也)

渡辺 陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。 1985年に出版社に入社して、担当した雑誌が自動車の購入ガイド誌であった。そのために、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、車買取、カーリースなどの取材・編集経験は、約40年間に及ぶ。また編集長を約10年間務めた自動車雑誌も、購入ガイド誌であった。その過程では新車販売店、中古車販売店などの取材も行っており、新車、中古車を問わず、自動車販売に関する沿革も把握している。 クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。
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