FCEVも設定! 1955年以来の歴史を守る革新と伝統の4ドアセダン
【徹底解説】新型トヨタ・クラウン セダン 2024.01.29 ニューモデルSHOWCASE SUV系のモデルを含め、4車種で構成される新しい「トヨタ・クラウン」シリーズ。そのなかでも、伝統の4ドアセダンの車形を採るのが「クラウン セダン」だ。ショーファーカーにも使えるフォーマルな一台を、価格や燃費、装備、デザインと、多角的な視点で解説する。じつは断絶の危機にあった伝統の車形
今回のテーマは、4車種が用意される現行16代目クラウンのうちの、セダンである(参照)。
国産乗用車最長の歴史をもつクラウンが、通算16代目にして大変身を遂げたことはご承知のとおりだ。これまでのクラウンは、世代によってはクーペやステーションワゴンもあったが、あくまで4ドアセダン、もしくは4ドアハードトップを基本としてきた。しかし、ここ数世代の販売実績を見ると、横ばいから下降線をたどっていることは明らかだった。
そんななか、2022年7月15日デビューとなった16代目クラウンは、4ドアクーペスタイルに大きめの地上高を与えた、その名も「クラウン クロスオーバー」として登場。しかも、それは初代以来のエンジン縦置きFRレイアウトではなく、エンジンを横置きするFFレイアウト(ベースの4WD)に変えられていたのだ。クラウンの転身はそれにとどまらない。16代目クラウンはクロスオーバーを含めて全4種類あり、しかもグローバル商品として積極的に海外展開される(先代まではほぼ国内専用車)ことも同時に発表された(参照)。
16代目クラウンの開発中、「次期クラウンはSUVになる」と一部で報じられたのも、最初に発売されるクラウンがクロスオーバーだったからだ。実際、開発陣にうかがうと、抜本的変革が迫られたクラウンが当初クロスオーバーのみで企画されたのは事実のようである。
しかし、クロスオーバーの姿が具体化してくると、トヨタ内部ではその成功を確信すると同時に、多様なバリエーションによるファミリー戦略が創案されて、追加開発が決まったという。そうなるとセダン……とくにショーファードリブンのセダンの需要は(少ないながらも)根強いものがあり、結局はセダンもあらためて新開発されることになったわけだ。
もちろん、「カムリ」の例もあるように、新型クラウン セダンもクロスオーバーとスポーツ同様に、FFベースの「GA-K」プラットフォームで構築する選択肢もあった。しかし、日本だけでなく中国などの海外市場でも、カムリのさらに上をいく「トヨタブランドの“FLAGSHIP”(広報資料より)」として、あえてクラウンの伝統を受け継ぐ上級のFRレイアウトが選ばれたという。
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【ラインナップ】
グレードは豪華仕様の「Z」のみという潔さ
4種類の車形を用意するクラウンは、シリーズ全体としては選択肢がそれなりに豊富だが、計7グレードを用意するクロスオーバー以外、すなわち今回のセダンやスポーツでは、装備グレードは上級の「Z」一択。あくまでセダン前提のクラウン選びなら、選べる余地はパワートレインのみとなる。そのパワートレインは、日本での売れ筋となるであろう2.5リッターハイブリッドと、ミライゆずりの燃料電池がある。車両の本体価格は前者が730万円、後者が830万円だ。
前記のように装備グレードは共通なので、ハイブリッド車(HEV)でも燃料電池車(FCEV)でも装備内容は基本的に同じで、タイヤサイズやホイールデザインも変わりはない。ちがいといえば、メーターの表示機能や外部給電アウトレット(FCEVのみ)といった、パワートレインに由来する部分だけで、あとは「HEV」「FCEV」というバッジぐらいである。
このようにグレードの選択肢はないクラウン セダンだが、外観の雰囲気を変えられるメーカーオプションとして「ブラックパッケージ」が用意される。これはホイールがブラックスパッタリング塗装の20インチになるほか、ヘッドランプ、ロアグリル、フェンダー、サイドベルト、リアバンパーなどのモール類が漆黒メッキ仕上げとなる。
【主要諸元】
グレード名 | Z (ハイブリッド車) |
Z (燃料電池車) |
|
基本情報 | 新車価格 | 730万円 | 830万円 |
駆動方式 | FR | RWD | |
動力分類 | ハイブリッド | 燃料電池車 | |
トランスミッション | CVT | ー | |
乗車定員 | 5名 | 5名 | |
WLTCモード燃費 | 18.0km/リッター | 148km/kg | |
充電走行距離 | 820km | ||
最小回転半径 | 5.7m | 5.9m | |
エンジン | 形式 | 直列4気筒DOHC | ー |
排気量 | 2487cc | ー | |
最高出力 (kW[PS]/rpm) | 136[185]/6000 | ー | |
最高トルク (N・m[kgf・m]/rpm) | 225[22.9]/4200-5000 | ー | |
過給機 | なし | ー | |
燃料 | レギュラー | 水素 | |
モーター | 最高出力 (kW[PS]/rpm) | 132[180] | 134[182]/6940 |
最高トルク (N・m[kgf・m]/rpm) | 300[30.6] | 300[30.6]/0-3267 | |
寸法・重量 | 全長 | 5030mm | 5030mm |
全幅 | 1890mm | 1890mm | |
全高 | 1475mm | 1475mm | |
ホイールベース | 3000mm | 3000mm | |
車両重量 | 2020kg | 2000kg | |
タイヤ | 前輪サイズ | 235/55R19 | 235/55R19 |
後輪サイズ | 235/55R19 | 235/55R19 |
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【パワートレイン/ドライブトレイン】
おなじみのHEV、革新のFCEV
既述のとおり、クラウン セダンのプラットフォームは現行クラウンシリーズで唯一、縦置きエンジンのFRレイアウトとなる。駆動方式はHEV、FCEVともに後輪駆動。4WDの用意はない。
そのプラットフォームは先代クラウンや「ミライ」と同様の「GA-L」だが、電子制御連続可変ダンパーの「NAVI・AI-AVS」を標準で備えるのが新型クラウン セダンの新しさだ。ドライブモードの用意もあり、「エコ」「ノーマル」「スポーツ」「カスタム」などのおなじみの選択肢のほかに、「リアコンフォート」も設定されるのが興味深い。同モードは後席での快適性を最大限に高めるもので、低速ではダンパーをもっとも柔らかい領域に固定して、前後ダンパーの減衰をコントロールしてピッチングを減らす制御もするという。
パワートレインに話を移すと、ハイブリッドは2.5リッターの自然吸気ガソリンエンジンに2つの電動モーターを組み合わせたものだ。中心となる「A25A-FXS」型エンジンは、ほかのクラウンの2.5リッターハイブリッド車と同じもので、最高出力185PS、最大トルク225N・mというピーク性能値も変わりない。しかし、それ以外の機構は異なっており、このセダンのみエンジン縦置きプラットフォーム用の「マルチステージハイブリッド」となる。これは先代クラウンでいうと3.5リッターHEVや、レクサスの現行「LS500h」「LC500h」に使われているものだ。おなじみのシリーズパラレル式に4段自動変速機を追加することで、より高い速度域まで高効率な走りを可能とした上級のハイブリッドシステムである。搭載される駆動用モーターのピーク性能値は132PS、300N・mで、システム最高出力は245PS、WLTCモード燃費は18.0km/リッターとされる。
もうひとつのモデルが、FCEVである。水素をエネルギー源として、フロントに搭載した燃料電池(FC)で発電しながら、リアのモーターで走る。走行中に排出されるのは水蒸気(H2O)だけだ。
クラウンに搭載される燃料電池システムは、すべてミライと共通だ。最高出力128kW(174PS)のFCスタック、最高出力182PS、最大トルク300N・mの駆動モーター、3本で合計141リッターの高圧水素タンク、ハイブリッド制御用のリチウムイオン電池なども、細かいスペックまで同じである。水素消費率は148km/kg、一充てん航続距離は約820km(ともにWLTCモード)。これらの性能もミライと同等といっていい。
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【ボディーサイズ/デザイン】
全長5m超えの堂々としたファストバックスタイル
クラウン セダンの寸法を見ると、同じGA-Lプラットフォームを土台とする先代クラウンやミライより、ホイールベースが80mm長く、全長も先代より120mm、ミライより55mm長い5030mmとなっている。全幅も先代やミライよりワイドな1890mmで、どちらもトヨタ製セダンとしては「トヨタ・センチュリー」「レクサスLS」に続いて3番目に大きいものとなる。
このサイズはクラウンシリーズでも最大で、とくに全長はクロスオーバーより100mm、スポーツより310mmも長い。ただし、逆に1475mmという全高は、当然だがもっとも低い。
外観デザインはリアクオーターピラーに窓を埋め込んだ“6ライト”のファストバックスタイルが目を引くが、このモチーフは先代クラウンやミライにも採用されているもので、近年におけるトヨタブランドのセダンの“お約束”でもある。ただ、ウィンドウ下のベルトラインが後端まで完全な水平基調になっているのは新型クラウンだけの特徴。このデザインでは必然的にベルトラインとリアホイールハウス間の距離が短くなるため、実現するにはリアサスペンションに対する給油口の位置や経路を見直す必要があり、じつは技術的に簡単ではなかったとか。
またエンジンを縦置きするセダンは、それを横置きするクロスオーバーやスポーツと比べると、前輪とキャビンの間に一定の距離があるロングノーズなプロポーションも独特だ。いっぽうで、台形形状の大型フロントバンパーグリルと、前後とも横一線の細型ランプなどの意匠をシリーズで統一することで、新クラウンファミリーの一員であることを表現している。
外板色はセダンらしく、よくも悪くもホワイト、ブラック、シルバー、グレー……とシックなカラーが主流。もっとも色味があるのは銅色の「プレシャスブロンズ」で、クロスオーバーやスポーツにあるような、鮮やかなレッドやオレンジ、イエローなどは用意されない。
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【インテリア/荷室/装備】
リアシートは至れり尽くせり
左右非対称のダッシュボード、運転席と中央に配された2枚の12.3インチTFTカラーディスプレイなど、インストゥルメントパネルまわりの基本デザインはほかのクラウンと酷似するが、プラットフォームが異なるために、厳密には同じではない。とくに分かりやすく異なっているのがセンターコンソールで、センタートンネルを抱えるためにセダンのそれは明らかに大きい。
そのうえで、伝統的な高級サルーンということで、専用の杢目(もくめ)調パネルをインパネやセンターコンソール、ドアパネルなどにあしらう。さらにシート表皮も、クラウンではセダン専用となる最上級のプレミアムナッパ本革を標準で採用。内装色はオーソドックスな「ブラック」のほか、個性的な「ミッドブラウン」が外板色を問わずに選択可能だ。
すでに何度も書いているが、この新型クラウン セダンは、SUV全盛の時代にあえて新開発された高級セダンとして、オーナーが後席に座る“ショーファードリブン”の用途を明確に意識している。実際、後席は豪華そのもので、HEV、FCEVともに左右独立パワーシートやサンシェード(リアは電動、左右は手動)、リフレッシュシート(=エアプラダー式マッサージ機能)、リアマルチオペレーションパネル(エアコンやオーディオ、サンシェード、マッサージ機能などを操作するタッチ式パネル)などなどが、すべて標準装備となる。
乗車定員は後席3人がけの5人乗りとなるが、後ろの中央席はあくまで非常用。ちょっと無理してそこに座ると、足もとのセンタートンネルがやけに高く、幅広いことに気づくだろう。これは、センタートンネルに64リッターという大容量の水素タンクを抱えるFCEVの宿命である。いっぽうで、この巨大トンネルの副産物としてフロア周辺が高剛性化して、結果として走行性能にも好影響を与えている。なので、今回のクラウン セダンでは後席空間への影響にあえて目をつむり、水素タンクを積まないHEVでもFCEVと共通のセンタートンネルになっているそうだ。
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【バイヤーズガイド】
セダンオーナーは水素自動車の夢を見るか?
クラウン セダンに用意される装備グレードは、先述のとおりHEV、FCEVともにZのみ。装備・機能の内容も、「アクティブノイズコントロール」やパドルシフトの有無(ともにHEVのみに装備される)、液晶メーターの表示内容など、パワートレインのちがいに起因するもの以外、明確な差別化は図られていない。HEVとFCEVのどちらを選ぶかは、純粋に自分の使用環境で決めるしかないと思われる。
メーカーオプションの設定もいたってシンプル。いちばんの大物は外装の各所が漆黒メッキとなるブラックパッケージ(19万8000円)で、じつはカタログやオフィシャルサイトを飾る写真も、その多くはこれの装着車だ。大径のタイヤ&ホイールはクラウンシリーズ全体に共通するデザイン上のコンセプトだが、背の低い車形ということもあってか、21インチを売りにするクロスオーバー(は一部グレードに19インチも用意)やスポーツに対し、セダンのそれは19インチが標準。既述のとおりブラックパッケージを装着すると20インチとなる。あとは、11万円の「パノラルーフ」、そしてスマホをキーがわりにできる3万3000円の「デジタルキー」という、合わせて3つのメーカーオプションを好みに応じて追加すればいい。
最後に、いちばんの悩みどころ(?)である2つのパワートレインを比較すると、静粛性や動力性能、操縦安定性のすべてにおいて、走りについてはFCEVのほうが好印象。じつは購入コストもこちらのほうがお得で、本体価格こそHEVより100万円高いものの、FCEVを買うと国から出るCEV補助金の136万3000円に加えて、場所によっては自治体からの助成金(たとえば東京都では最大110万円)も支給される。唯一にして最大のハードルは、水素で走るクルマを日常に迎え入れるという“水素生活”の覚悟ができるか否かだろう。
(文=佐野弘宗/写真=トヨタ自動車、向後一宏、山本佳吾、webCG/編集=堀田剛資)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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