【F1 2020】“中堅ドライバーのかがみ”ペレスがつかんだ大金星
2020.12.07 自動車ニュース![]() |
2020年12月6日、バーレーン・インターナショナル・サーキットで行われたF1世界選手権第16戦サキールGP。新型コロナウイルス感染で欠場した王者ルイス・ハミルトンのいない間に、ひとりの若手が奮起し、そして、ひとりのベテランが勝利した。
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陽性のハミルトン欠場 代役はラッセル
バーレーンGPで起きた、ロメ・グロジャンのショッキングな炎上事故から1週間もたたないうちに、F1サーカスにはさまざまな出来事が起きた。
まずグロジャンは、病院を退院して水曜日にサーキットを訪れ、チームメンバーや救助してくれたマーシャルらに感謝を伝えた。幸い軽いやけどで済んだとはいえ、両手には包帯が巻かれたまま。最終戦アブダビGPまでの完治は難しいと判断し、グロジャンはF1キャリア最後の2戦を欠場するという決断を下した。
ハースは、リザーブドライバーであり、元F1王者エマーソンを祖父に持つピエトロ・フィッティパルディを代役に立てた。また時を同じくして、2021年シーズンのドライバーラインナップを確定させ、ミハエル・シューマッハーの息子ミックと、ロシア人ニキータ・マゼピンという、今季F2選手権で上位につける2人の有望株をデビューさせることを決めた。
欠場となったのはグロジャンだけではない。ルイス・ハミルトンがバーレーンGP後の月曜日に、新型コロナウイルス検査で陽性と判定されてしまったのだ。メルセデスが選んだピンチヒッターは、ジョージ・ラッセル。所属するウィリアムズの承諾を得て実現した、チャンピオンチームによる若手実力派筆頭の大抜てきは、この週一番のトピックとなった。一方で空きが出たウィリアムズは、リザーブのジャック・エイトケンを起用した。
今季最後のトリプルヘッダーの2戦目は、場所は前戦と同じバーレーンながら、コースレイアウトを一部変え“オーバル”のように仕立てた意欲的な試み。通常のコースで第2セクターにあたるインフィールドをショートカットし、高速S字でつないだもので、オーバルというよりも台形に近く、上辺がS字部分にあたる。5.4kmから3.5kmと、モナコに次ぐ今季最短距離のサーキットとなったため、ラップタイムは1分を切り、史上最速記録が生まれるのは確実だろうとみられていた。
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ボッタスがポール ラッセル僅差で2位
金曜日の2回のフリー走行ともラッセルがトップタイムをマークし周囲を驚かせたが、土曜日の予選になると先輩格のバルテリ・ボッタスが面目を保つ一発を決め、F1キャリア2年目のチームメイトを凌駕(りょうが)した。予選Q3でボッタスが記録したポールタイムは53秒377。1974年のフランスGP、ディジョン・プレノワ(1周3.2km)でフェラーリのニキ・ラウダが記録した58秒79を5秒以上更新するポールタイムレコードとなった。
予選2位となったラッセルは、デビューから続いたチームメイトとの予選勝敗成績が「36連勝」でストップしたものの、ボッタス相手に0.026秒差まで迫ったことは立派だった。たったの0.056秒差で3位だったのはレッドブルのマックス・フェルスタッペン。僚友アレクサンダー・アルボンはQ3に進めず12位だった。
フェラーリのシャルル・ルクレールは、1回だけのアタックで本人も驚く4番手タイムを記録。レーシングポイントのセルジオ・ペレスは先週と同じ5番グリッドを得た。最後のアタックで6位まで順位を上げたのはアルファタウリのダニール・クビアトで、チームメイトのピエール・ガスリーは9位。ルノーのダニエル・リカルド7位、マクラーレンのカルロス・サインツJr.8位、レーシングポイントのランス・ストロールは10位からレースに臨むこととなった。
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ラッセルが堂々のトップ フェルスタッペンは早々にリタイア
短いコースゆえにトラフィックの処理が難しく、さらに87周という今季最多周回数のレースが、果たしてどんな展開となるかは未知数だった。
そして未知といえば、ラッセルのレースでの“真の実力”もそうだった。何しろテールエンダーのウィリアムズで36戦ノーポイント。GP3、F2とそれぞれ1年目でチャンピオンとなった逸材ながら、F1ではしっかりしたリザルトを残していなかったのだ。
そんなプレッシャーのかかる一戦で、ラッセルは見事なスタートを切る。ボッタスをかわしトップでターン1に飛び込むと、優勝経験のあるボッタスを従えて堂々とトップを快走するのであった。
スタート直後のターン4では、ペレスとそのインにつけたルクレールが接触。2台はコースオフし、ペレスは最後尾でレースに復帰するも、ルクレールと、この接触を避けようとしてウォールに突っ込んだフェルスタッペンがリタイアとなり、セーフティーカーが出た。
ラッセル1位、ボッタス2位、8位から大きくジャンプアップしたサインツJr.3位、リカルド4位、クビアト5位、ストロール6位といった順位で7周目にレース再開。フェルスタッペンという強敵がいなくなったことで、メルセデスとしては楽なレースになったのは事実で、15周して首位ラッセルはファステストラップを更新しながら2位ボッタスに2.3秒のギャップを築く一方、3位サインツJr.はトップから8秒後方と遅れていた。
レースは折り返しを過ぎ、3秒のリードを保っていた1位ラッセルは46周目にミディアムタイヤからハードに換装。50周目にボッタスがミディアムからハードに替えると、首位に返り咲いたラッセルと2位ボッタスのギャップは8.5秒に広がっていた。
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メルセデス タイヤ交換ミスで1-2をフイに
タイヤ交換が一巡すると、1位ラッセル、2位ボッタス、3位サインツJr.、4位クビアト、5位リカルド、6位オコン、7位ストロール。ハミルトン不在でもメルセデスが1-2を取るかと思われたが、終盤に相次いだバーチャルセーフティーカー(VSC)とセーフティーカーで、レースの局面がガラリと変わる。
まずは55周目にニコラス・ラティフィのウィリアムズがコース脇にストップしVSC。これでサインツJr.やリカルドがピットインし、ペレスが3位、オコン4位、ストロールは5位に上がった。
ここまで盤石だったメルセデス勢の牙城に亀裂が入ったのは61周目。今度はエイトケンのウィリアムズが最終コーナーでスピン、コース上にノーズを落としたことで再びVSCが出たのだが、ここでチャンピオンチームがらしからぬ失態を演じることになる。
VSCを機に新しいタイヤに履き替えようと、メルセデスは2台を同時にピットに呼び込む。しかし無線指示がチーム内で行き渡らず、ピットクルーは慌ててしまい、ラッセルのマシンに誤ってボッタスのフロントタイヤを装着してしまったのだ。真後ろに控えていたボッタスには替えるべきタイヤがなく、結局古いタイヤを再び付けられて、28秒もの時間の後にコースに戻された。
ラッセルは正しいタイヤに再交換せねばならず、もう一度ピットイン。コース上はVSCからセーフティーカーへと変わっており、1位ペレス、2位オコン、3位ストロール、4位ボッタス、5位ラッセルで69周目に再開となった。
5位にポジションを落したラッセルはまだ諦めようとせず、早々にボッタス、ストロール、さらにオコンもかわして2位まで挽回。3秒前方にいる1位ペレスに照準を合わせたのだが、不運にもスローパンクチャーが起きピットへ入らざるを得ず、結果9位でチェッカードフラッグを受けた。
ファステストラップの1点を含め自身初得点となったが、勝利を逃した悔しさは察するに余りある。中古タイヤのボッタスも8位と、メルセデスは散々な結果でレースを終えることとなった。
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ペレス キャリア10年目の初勝利
結局レースは、オープニングラップの接触で18位まで落ちたペレスが、87周を終えてトップでゴール。レーシングポイントが1-3フィニッシュで、前戦で失ったコンストラクターズランキング3位を奪還。そしてルノーで苦戦していたオコンが自身初表彰台の2位と、未知数といわれたレースは、トップチーム不在の予想外のポディウムとなった。
ペレスにとっては、2011年にザウバーでデビューして以来、キャリア10年目、190レースという長旅の末にようやくたどり着いた勝利だった。
2013年にマクラーレンに抜てきされるも1年で放出され、以降はフォースインディア、つまり現在のレーシングポイント一筋でやってきた。競争力の劣るマシンを駆りながら着実にポイントを稼ぐ姿は、“中堅ドライバーのかがみ”ともいうべきもの。今シーズンもまた、コロナ感染で2戦欠場しながらも125点を稼ぎランキング4位につけている。
財政難のフォースインディアを破産させ、レーシングポイントとしての再生を手伝ったのも彼だったが、今年はそのチームから、契約途中に別れを告げられるというつらい経験をした。
優勝後、「夢じゃないことを願うよ」とまだ現実を飲み込みきれないような表情で語っていた30歳のメキシコ人ドライバー。その手でつかんだ大金星に、しばし酔いしれていた。
次はいよいよ2020年シーズン最終戦。アブダビGP決勝は12月13日に行われる。
(文=bg)