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ついに日本も脱エンジン!? 自動車の電動化へ向けた議論の問題点とEV社会のあるべき姿

2020.12.14 デイリーコラム 林 愛子

世界の新車市場から純エンジン車が消える?

GoToで経済対策か? ステイホームで感染症予防か? このやっかいな問題は、構造的に環境問題とよく似ている。経済優先で環境対策を後回しにするか、環境優先で経済失速を許容するかという議論だ。言うまでもなく、環境なぞどうでもいいという人も、経済なぞ知らんという人もいない。地球温暖化対策という大義のもとに、環境と経済をどうバランスさせるのか、社会のコンセンサスを模索するほかないのである。

いま話題の「脱ガソリン」も、やっかいな問題ど真ん中だ。近年、自動車業界はCASEやMaaSを合言葉に、経済側に寄った施策に取り組んできたが、ここへきて環境への揺り戻しが始まったようだ。

先日、日本でも「2030年代半ばにはすべての新車をハイブリッド車(HV)か電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)にする方向で調整中」との報道が出た。これは経済産業省が2020年12月10日に開催した、第3回「モビリティの構造変化と2030年以降に向けた自動車政策の方向性に関する検討会」の“前振り”だったわけだが、もっと言えば10月末に菅 義偉首相が行った所信表明演説にも、「2050年までに温室効果ガスの排出ゼロ実現」というさらなる“前振り”があった。

くだんの検討会は、安倍政権下の2020年3月に発足。そもそもの論点はポストコロナ時代のモビリティーのありようだったが、菅政権下での初開催となった第3回は、自動車電動化のための会合のように報じられた。目玉がないとされる菅政権にとって、「2030年代半ばの新車はHVとEV、FCVだけ!」という看板は分かりやすい。詳しくは後述するが、EV推進は世界の潮流で、日本は出遅れていると言われている。そのなかで菅政権がこの看板を下ろすとは考えにくい。第3回検討会の議論は、温室効果ガス排出ゼロに向けた国の施策に反映される予定だ。そうなると、ハイブリッド機構を持たないエンジンのみの新車は、これから15年前後で市場から消えることとなる。

ちなみに、東京都は同年12月8日に、国よりも一足早く2030年に都内で販売する新車を電動車(≒HVとEV、FCV)のみにする方針を表明した。都内のリミットはあと9年。制度次第では新古車や近県での購入などといった“抜け道”もありそうだが、詳細はまだ分からない。都の動向が国の施策に影響する可能性もあり、いずれも注視すべきだろう。

日産の新型電気自動車「アリア」。2021年中ごろの上市を予定している。
日産の新型電気自動車「アリア」。2021年中ごろの上市を予定している。拡大

本質からズレた電動化の議論に要注意

先述の通り、EV推進=純エンジンの排除は、世界の潮流である。既にイギリスやドイツ、フランス、中国、アメリカのカリフォルニア州やカナダのケベック州などが、2030年~2040年に電動化したクルマ以外の新車販売を禁止すると表明している。対象は新車のみなので、当面はエンジン車が市中を走るわけだが、徐々に台数は減っていくだろう。そうなると修理用のパーツはどうなるか。ガソリンスタンドや関連する事業者はどうなるのか。社会としてこの変化にどう対応すべきかコンセンサスは取れていないが、各国が歩を緩める気配はない。

むしろ、その反対だ。イギリスは当初2040年までにガソリン車やディーゼル車の新車販売を禁ずるとしていたが、目標年が2度にわたって前倒しされ、現在は2030年が目標。また、当初はHVやプラグインハイブリッド車(PHEV)に寛容だったが、これらも新車販売は2035年までとなった。さらには自動車大国ドイツも、2030年までにHVやPHEVを含めエンジンを持つクルマの新規販売を禁止する方針を打ち出し、フランスも同様に2040年を期限としている。

これに対して、日本はHVを生かそうとしている数少ない国だ。HVやPHEVの実質的な生みの親としては守って当然だが、HVやPHEVを排除した国々はそれが「環境のためだ」と主張する。このあたりが、日本は世界に出遅れていると言われるゆえんだ。

各国の電動化推進の背景には産業政策や政治的な思惑などが絡み合う。アンチHVが出てくるのも仕方ないだろう。しかし、そのために環境が犠牲になってはならない。いま明らかなことは、「新車をEVとFCVだけにしぼるほうが、HVやPHEVを併用するよりも環境によい」とは証明されていないということ、そして、「自動車由来の温室効果ガスを減らす」と言いながら、減らす対象すら厳密に議論されていないということだ。走行中のガスだけをみれば(Tank-to-Wheel:TtW)、EVやFCVが最適解だろうが、燃料や電力の製造段階も問うのなら(Well-to-Wheel:WtW)、バイオディーゼルなども問題ないことになる。

今回、経産省の検討会が議論しているのは車体製造から廃棄までを含めたライフサイクルコスト(LCC)であり、これにはWtWも含まれる。そもそも、経産省は新燃費基準でも世界に先駆けてWtWを採用している。これらは地続きの施策とみるべきだし、日本が本当に世界に対して遅れているのか、冷静な議論をするための材料ともなるものだろう。

ドイツは2030年までにエンジンを搭載するクルマの新規販売を禁止する方針だが、同国のアウディは、今でも「e-fuel」(電気を使い、大気中の二酸化炭素から生成した合成燃料)の研究を進めている。
ドイツは2030年までにエンジンを搭載するクルマの新規販売を禁止する方針だが、同国のアウディは、今でも「e-fuel」(電気を使い、大気中の二酸化炭素から生成した合成燃料)の研究を進めている。拡大
このままでは、バイオ燃料やe-fuelで走れるエンジン車まで淘汰(とうた)されることになるが、それは果たして“環境のため”になるのだろうか?
このままでは、バイオ燃料やe-fuelで走れるエンジン車まで淘汰(とうた)されることになるが、それは果たして“環境のため”になるのだろうか?拡大

再び考えてみたいバッテリー交換式EVの可能性

さて、実際に新車のEVシフトが進むとして、業界の内外では一体どういったことが起こるだろうか。最後に、少し大胆な予測をしてみたい。

一番の懸念材料はやはりバッテリーだ。全固体電池など、ポスト・リチウムイオン電池の研究は進んでいるが、各国のEVシフトの目標年は2030年からの10年間であり、現時点で実用化されていない電池が大量生産の域に達しているとは考えにくい。一部の高級車にポスト・リチウムイオン電池が使われる可能性は否定できないが、10年後の大衆車に搭載されているのは、やはりリチウムイオン電池だろう。

そのころにはリチウムイオン電池の投資回収が一服し、製造ラインもこなれてきて、いまよりは製造コストは下がっているはずだ。あとは市場との兼ね合いだが、仮にEVシフトによって需要が拡大し、材料の調達競争が熾烈(しれつ)になっている場合、バッテリーの劇的な低価格化は期待できない。車両価格も下がることはない。

そうなると、いま以上にリースという選択肢が重要になるのではないだろうか。車両ごとなのか、バッテリーのみなのか、そのどちらもあり得るだろう。メーカー側からみれば、中古バッテリーを確実に回収できることがメリットだ。モジュール単位で品質を評価し、再構成して市場に出すこともできる。健全な中古市場が立ち上がれば、一人ひとりのユーザーの費用負担が下がる可能性もあるだろう。

また、バッテリーと並んで悩ましいのが充電インフラの問題だ。急速充電の研究も進んでいるが、やはり10年やそこらで新技術が市場のスタンダードになるとは考えにくい。おそらく技術革新を待つよりも、ユーザーが自宅や職場で充電する生活習慣を身につけるほうが早いだろう。

ところで、アナタはかつてベタープレイスという会社があったことを覚えているだろうか。同社が提案していたのは、バッテリー交換式のEV。その提案は斬新だったが、ビジネスとして、あるいは社会インフラとして十分な支持を得るに至らず、アイデアは実証実験で終わった。しかし、いま電動バイクなどの小型モビリティーで、バッテリー交換式のモデルが出始めている。EVにそれが適用できるかどうかは分からない。しかし、選択肢として残しておくことは無意味ではないだろう。交換式バッテリーはリースというビジネスモデルとも相性がいい。

日本は2030年代半ばをターゲットにする。およそ15年後の未来、私たちはどんなかたちで、どんなクルマを買うことになるだろうか。それが地球環境に優しいものであることを願っている。

(文=林 愛子/写真=アウディ、Gogoro、webCG/編集=堀田剛資)

電動スクーターのリーディングカンパニーである台湾のGogoro(ゴゴロ)。同社のスクーターのバッテリーは脱着式で、台湾では既に、写真のようなバッテリーステーションが1000カ所以上設けられているという。EVの本格普及をもくろむなら、こうした施策も検討するべきだろう。
電動スクーターのリーディングカンパニーである台湾のGogoro(ゴゴロ)。同社のスクーターのバッテリーは脱着式で、台湾では既に、写真のようなバッテリーステーションが1000カ所以上設けられているという。EVの本格普及をもくろむなら、こうした施策も検討するべきだろう。拡大
林 愛子

林 愛子

技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。

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