「トヨタGR 86」と新型「スバルBRZ」 新しいスポーツカーの誕生から協業の成果を思う
2021.04.16 デイリーコラム「GR 86/BRZ」の“お披露目会”を共同開催
2021年4月5日、日本はもちろん海の向こうのクルマ好きからも熱い視線が注がれるメイド・イン・ジャパンのスポーツカーが、ネットで大いに盛り上がった。「トヨタGR 86」の世界初公開と、新型「スバルBRZ」の日本仕様公開である。トヨタとスバルのアライアンスにより誕生したFRスポーツの第2世代だ。
それにしても、このオンライン発表会は実にユニークなものだった。簡単に説明するなら、「第2世代の86/BRZができました!」という話がメインではなく、「トヨタとスバルが腹を割って一緒に頑張って、もっといいスポーツカーができました」という報告が趣旨だったからだ。BRZはすでに北米仕様のプロトによって“ワールドプレミア”されていたが、GR 86については、このときにGRブランドの扱いとなることを正式発表。車両の披露もこれが初という、特別な機会だった。これまでの例なら、それぞれが独自にお披露目会を開き、両社による共同開発車であることは強調しつつも、その独自性をアピールすることに力を入れてくるはず。それを“トークイベント”と銘打ちながらも共同で行ったのだ。
このオンラインイベントには、GAZOO Racing Companyプレジデントの佐藤恒治氏とスバル執行役員CTO(最高技術責任者)技術統括本部長兼技術研究所長の藤貫哲郎氏に加え、トヨタとスバルから開発メンバーが参加。その雰囲気はとてもポジティブなもので、新型車の開発が納得できる方向で進み、発売前の大きなハードルを乗り越えたことを感じさせた。
よりよいクルマづくりに遠慮はいらない
そもそも、トヨタとスバルの業務提携がスタートしたのは2005年のこと。最初の取り組みは、スバル米国工場での「トヨタ・カムリ」の受託生産だった。その次の事業が、新型FRスポーツカーの共同開発であり、これがトヨタ86と初代スバルBRZとして、2012年に市販された。
イベントの冒頭で、初代の開発にも携わったスバル技術部トップの藤貫哲郎氏は、「ある冬の暮れに技術開発部長に呼び出され、『極秘だが、トヨタとスポーツカーを共同開発することになった』と告げられ、その実験車を製作。そのテスト走行を行いながら、これはいいクルマができると実感した」と当時を振り返った。この実験車は、86/BRZファンにはおなじみの「レガシィ台車」と呼ばれるものだ。通常は開発終了とともに処分される実験車だが、このクルマに限ってはスバルで大切に保管されている。同社初のFR市販車の開発が、多くの刺激や発見を与えたことを物語るエピソードだ。
アライアンス強化のため、トヨタとスバルは2019年9月に新たな業務資本提携を締結。両社の強みを持ち寄った新型4WD車と、次期型86/BRZの共同開発、そして協業範囲の拡大として、スバル車へのトヨタハイブリッドシステムの採用やコネクテッド領域での協業、自動運転分野での技術連携を行うことが公表された。この際、トヨタの豊田章男社長とスバルの中村知美社長はともに、「もっといいクルマを一緒につくろう」と両社の社員たちに呼びかけている。
初代86/BRZの開発が、企業風土もモノづくりへのアプローチも異なる両社の、協業に関する環境を整えたのは確かだろう。それでも次期型86/BRZ開発の現場には、よくも悪くも遠慮があった。それを打ち破るため、前述の新資本提携の機会に豊田社長はスバルをたずね、「私もスバルのクルマが好き」「一緒にいいクルマをつくっていこう」と伝え、中村社長とともに「仲良くケンカもしよう」と両社の開発者に発破をかけたのだ。互いのトップがより風通しのいい環境をつくり上げたことで、次世代86/BRZの開発は新たなステージに到達したのだと思う。
クルマの出来栄えと並んで伝えたかったもの
トークイベントの舞台裏を探るべくスバル広報部に話を聞くと、今回の取り組みはスバルからの発案で実現したものだという。これをトヨタ側も快諾し、両社の協力で急ピッチに準備が進められた。イベントの趣旨は「GR 86/新型BRZがいいクルマになりますよ」というアピールだが、「トヨタとスバルのアライアンスが、互いを高め合う二人三脚の取り組みであることを理解してほしい」というメッセージも込められている。
確かに会社の規模で言えば、両社の差はあまりにも大きい。いつかスバルはトヨタの子会社となってしまうのではと危惧する見方もある。しかしながら、豊田社長の「仲良くケンカしよう」という言葉は、スバルに対する敬意がなければ出ない言葉だろう。互いに認め合うからこそケンカもできる。
実際、トヨタ/GAZOO Racingのマスタードライバーであり、“世界一の86ファン”を自負するモリゾウこと豊田社長は、GR 86の開発車両に乗って「86ならいい。ただこれはGR 86だぞ」と厳しく評価を下した。その声に応え、開発を主導するスバル側も、開発完了の見通しがついた段階で再チューニングに取り組んでいる。これがトヨタとスバルで発売タイミングが異なる理由だ。今回のトークイベントでは、技術者たちのGR 86/BRZへの思い、そして2台の違いについても語られているので、ぜひ視聴してほしい。
自動車文化の未来を思えばこそ
今、自動車が大きな変革期を迎えるなかにあって、日本のメーカーは電動化を含むその未来に二の足を踏んでいるという。そうした報道や批判を見るにつけ、ハイブリッドカーでも電気自動車でも燃料電池車でも、世界に先駆けて量産化したのは日本であることを忘れてはいまいかと思う。そもそも、未来へ向けた準備が何もできていなければ、このご時世にスポーツカーの開発など行ってはいないだろう。
そうした批判に触れてもうひとつ思うのが、「エコカーだけが未来ですか?」ということだ。自動車の未来を真剣に考えるからこそ、GR 86やBRZのような、数は出ないかもしれないがオーナーが精いっぱいの愛情を注げるスポーツカーをつくるのではないか。その志が、異なるメーカーが肩を組んでのクルマづくりを実現したのだと思う。
そもそも世界広しといえど、最新技術を投入した“手が届く”FRスポーツカーを送り出すメーカーが、よそにあるだろうか? だからこそ、新たなピュアスポーツカーを送り出すトヨタとスバルを応援したくなるのだ。初代・2代目と続いた86/BRZ共同開発の経験は、将来現れるに違いない電動スポーツカーづくりにも大きく生きてくることだろう。
なにはともあれ、GR 86とBRZと触れる機会が待ち遠しい。そして誰かと「どちらが好み?」なんて楽しい会話を交わしてみたい。
(文=大音安弘/写真=スバル、トヨタ自動車/編集=堀田剛資)
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大音 安弘
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