第711回:【Movie】「ミッレミリア2021」をリポート 会長もハンドル握ってやってきた!
2021.06.24 マッキナ あらモーダ!意外なセレブ登場から得た予感
ヒストリックカーラリー「ミッレミリア2021」が2021年6月16~19日にイタリアで開催された。
2021年度はスタート/ゴールが北部ブレシア、折り返し地点がローマということこそ例年どおりだったが、途中のルートが大幅に変更された。
例年は初夏に催されてきたこのイベントだが、昨2020年は新型コロナウイルスの影響による各種規制のため、延期のうえで10月に開催された。そのため今回は1年をあけずに行われることになった。
その背景には、通過する自治体の協力が得られにくいことに加え、前回と似たルートだと魅力が薄くなり、訴求力が低下すること――なにしろ参加費は円換算にして2人1台で約160万円である――があったと考えられる。
筆者が住むシエナは本格的なレースだった時代からのルートであり、区間速度を計測するチェックポイント(CP)でもあった。さらに近年は参加者の昼食会場にもなっていたが、今回は通過しないことになった。
そこで調べてみると、代わりにわが家から43km北にあるラッダ・イン・キャンティ村を通過することが分かった。名前から想像できるようにワイナリーに囲まれた、人口1570人余りの小さな自治体である。
当日の午後に赴いてみると、昼食を終えた村の人々は参加車が到着し始めるはるか前から、家から椅子を持ち出して路肩に座っていた。そしてオーガナイザーから配られた旗を両手に待ち構えている。聞けば、ミッレミリアが村を通過するのは初めてということだ。
やがてクルマがやってきたときの歓迎ぶりも、都市部に負けぬものだった。中世の市壁に囲まれた村独特の閉そく感は、感激を共鳴させる作用を起こす。
動画では、各車のエンジン音と排気音、人々の歓声、そして鐘の音によるアンサンブルをお楽しみいただきたい。
夕刻、そろそろ帰ろうと思っていると、1台の赤いアルファ・ロメオが石畳の上に滑り込んできた。「1900スーパースプリント」(1956年)のステアリングを操っているのは、ステランティス会長で、フィアット創業家出身のジョン・エルカン氏であった。パッセンジャーシートには、名門ボロメオ家出身の夫人ラヴィーニャさんもいる。
丹念な整備が施されたアルファ・ロメオ博物館の所蔵車とはいえ、やはりモダンカーとは違う。短い停車時間に「シフトやクラッチの操作はいかがですか」と聞くと、「今は完璧です」とラヴィーニャさんが答えてくれた。そのニュアンスからして、途中に要整備状態になったのかもしれない。もしくは旧車特有の操作感に比較的早く慣れることができたということかもしれない。そう答える彼女に「あなたも運転するのですか」と聞くと、「Sì(はい)!」と笑顔が返ってきた。
ミッレミリアには毎回さまざまなセレブリティーが参加する。だが、時に彼らは晴れ舞台となる大きな街の前後だけ乗り、あとの区間は他のドライバー/コドライバーに任せる場合がある。
いっぽうでエルカン夫妻は、イタリアのメディアでさえ報道しないようなローカル区間も自ら操縦していた。
北米と欧州という大西洋をまたぐブランド群を擁し、世界第4位の自動車グループとして発足したステランティスは、より多国籍になると同時に無国籍になってゆくかもしれない。だがそうした潮流だからこそ、彼らの内なるイタリアニタ(イタリア性)に火がともったに違いない。なかなか面白くなってきた。
【ミッレミリア2021 inラッダ・イン・キャンティ】
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/動画=Akio Lorenzo OYA、大矢麻里<Mari OYA>/編集=藤沢 勝)
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大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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