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ホンダはどこへ向かうのか? 「エンジンやめる宣言」の真意を探る

2021.08.06 デイリーコラム

投資家たちへのウケ狙い?

四輪部門における電気自動車(BEV)と燃料電池車(FCV)の販売比率を、2040年にはグローバルで100%にすることを目指す――

去る2021年4月23日に行われた就任会見で、ホンダの三部敏宏社長はまず2050年に向けたホンダの環境・安全にまつわるビジョンとして、全製品および企業活動を通じたカーボンニュートラル化、そして二輪・四輪が関与する交通事故死者をゼロにするという2大テーマを掲げた。前述の2040年目標は、2050年のビジョンを達成するために、その10年前にはCO2排出車両をゼロ化していなければならないというところからきている。

と、この発表が国内外に賛否の渦を巻き起こしたのはご存じの通りだ。挑戦も成長も、ホンダをそれたらしめていた原動力は内燃機にある。そう散々っぱら刷り込まれてきた僕のようなオッサン世代には衝撃が強すぎた。折しもその前週のエミリア・ロマーニャGPでは、レッドブル・ホンダがその後の快進撃の幕開けとなる今季初優勝を遂げたばかり。そしてこの会見と相前後して「S660」や「オデッセイ」等のディスコン発表もあり、ホンダは一体何を考えているんだという戸惑いは、それを英断とする声よりも大きかったようにうかがえた。

果たしてそれは、ステークホルダーに対する腹くくりの意思表示か。はたまた身内への覚悟の表明か。あるいはESGだの何だのの投資筋へのウケ狙いだったのか。なぜあのタイミングで、何を最も伝えたくて三部さんは会見に臨んだのか。グループインタビューの機会を得た僕は、何よりそこを真っ先にはっきりさせてから話を進めたいと質問の先陣を切った。

「まぁいろいろな狙いはあったにせよ、ひとつ大きなきっかけとなったのは、日本のカーボンニュートラル化に対しての具体的なアクションがちょっと遅いのではないかという意識があったことですね」

ホンダの関係者内では「栃木」と称されることの多い本田技術研究所の副社長および社長だった2、3年前から、三部さんは社内のしかるべき部署と議論を重ねて、環境分野での目標の到達への道程を考えていたという。

2021年4月、就任会見に臨む本田技研工業の三部敏宏社長。その場で発表された中長期的目標のうち、「先進国全体での電気自動車、燃料電池車の販売比率を上げ、2030年に40%、2035年に80%、2040年にはグローバルで100%になることを目指す」という一節は、ホンダの脱エンジン宣言として大きな衝撃を与えた。
2021年4月、就任会見に臨む本田技研工業の三部敏宏社長。その場で発表された中長期的目標のうち、「先進国全体での電気自動車、燃料電池車の販売比率を上げ、2030年に40%、2035年に80%、2040年にはグローバルで100%になることを目指す」という一節は、ホンダの脱エンジン宣言として大きな衝撃を与えた。拡大
世界最高峰レースであるF1からのホンダ撤退は、すでに決まっている。参戦最終年となる2021年シーズンは、レッドブル・ホンダが健闘。7月4日のオーストリアGPでは3戦連続となるポール・トゥ・ウィンをきめ、ファンを喜ばせた。
世界最高峰レースであるF1からのホンダ撤退は、すでに決まっている。参戦最終年となる2021年シーズンは、レッドブル・ホンダが健闘。7月4日のオーストリアGPでは3戦連続となるポール・トゥ・ウィンをきめ、ファンを喜ばせた。拡大

言うとしたら今しかない

ちなみにホンダには研究所としての未来の経営戦略をつくる専任部門が栃木から離れた東京都心にあり、世界の動向を情報収集しているほか「青山」と称される本田技研工業にも経営企画統括部内に環境企画部門があり、双方の意向を解釈しているうちに、内外の温度差や空気感の違いを感じていたという。

「欧州の一連の動きはもとより、政権交代となって以降の米国の動きがどうなるかなどと想定を立てながらプランを考えるほどに、日本の反応はちょっと鈍いんじゃないかという懸念は抱いていました。加えて予期せぬコロナ禍によって、変化のスピードに拍車がかかった。われわれ自動車業界というのは投資目線うんぬんなどとは関係なく、昔から一貫してSDGs(持続可能な開発目標)的なことは強く意識して企業活動をしてきたわけですけれども、エンジニアリング的に延長線上的な進歩で物事を考えられないくらいに社会環境が変化していることは、もう否定しようがない。そのなかで、ホンダはいつ未来に向けたビジョンを表明すべきかという、そのタイミングを1年くらい前からはかってきたわけです。八郷(前社長)がF1撤退を発表した2020年秋もカーボンニュートラルへの姿勢を明確化した一環でしたが、実際、数値的目標も含めてお話ができるタイミングが、私の就任会見と重なったという感じでしょうか」

「もうひとつの大きな意味合いは、社内へのアクションですね。エンジニアレベルでも未来にまつわるディスカッションは盛んに行っていますが、現実の劇的な変化に対して、やはり従来の延長線で考えることが多い。2050年の目標から逆算していくと、これ以上の時間的猶予はないということを皆に知ってもらう意味でも今回のタイミングは大事でした」

こうしてことの流れをうかがうと、F1撤退発表から4月23日に至る、ホンダ大丈夫? の流れに整合性がみえてくる。が、一方で「クラリティ」まで販売終了が決まる今、具体案が「ホンダe」しかない状況で、欧米に倣ってそれを言うのは危険じゃないかという外野の心配がバンバン湧いているのも確かだ。

「言うことに、もちろん経営リスクは伴います。が、企業としては言わない経営リスクというのもある。どちらも大きなリスクです。今回はこの2つをみながら、あえて言おうという判断をしました。そちらのほうがリソースを集中してこの先の戦いにしっかり挑める。目標達成までの時間を逆算すると、今しかないという感じです。例えばフォルクスワーゲン グループの腹のくくり方はもちろんですし、われわれと関係の深いゼネラルモーターズ(GM)も並ならぬ決意で電動化に臨んでいます。100年に一度の変革といわれるなかで自動車を取り巻くものを考えた時に、従来の延長線上には明るい未来はないぞと。われわれも議論を重ねてそういう結論に達しましたし、きっと彼らも同じようなことを経ての決意の表明だったんじゃないですかね。本当は一番初めに言えればカッコもついたのかもしれませんが」

2021年3月12日の「S660」終了宣言に続き、同年8月3日にはハイブリッドスーパースポーツ「NSX」の生産終了も告げられた。今後はBEVというかたちでスポーツカーが出るのか、どうか。
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発売されるや市場で大人気の新型「ヴェゼル」は、受注の9割がハイブリッドモデル。それもやがては電気自動車に置き替えられることになるだろう。
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「(カーボンニュートラル化を進めるのに)もはや一刻の猶予もない」と語る三部社長。社内で議論を重ね、このままでは明るい未来はないという結論に達したという。
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エンジン以外で勝てばいい

先のホンダの発表によれば、先進国では2030年に40%、2035年に80%をBEVやFCVに置き換え、そしてグローバルでは2040年に100%を達成、言い換えれば内燃機関搭載車両の販売終了を目標としている。現状でもハイブリッド比率の多い日本は、中間目標値に若干の差があるが2040年の目標はもちろん一緒だ。となると、もう内燃機関開発は早晩停止ということになるのだろうか。あるいは新燃料の開発などを見据えて潜伏化させるのだろうか。

「エンジンの開発はゼロにはしません。が、一時期の規模ではなくなることは間違いありません。内燃機は熱効率改善のためのコストと効果の関係が相当シビアな領域に達していて、今後劇的な伸びを果たすための投資価値が見いだせなくなっています。あと、代替燃料のようなゲームチェンジも難しい。eフューエルはF1はじめモータースポーツとの絡みもありますからわれわれもいろいろ研究していますが、そもそもつくるのにエネルギーを使いますし、最終コストも従来燃料の3倍程度までしか落ちないのではないかとみています。そうなるとすべての内燃機用燃料としてそれが使われる経済合理性がみえてこない。水素エンジンも量産にもっていくには点火制御やNOxの課題が大きいので、2009年に開発を停止しました。その段階で、水素を使うのはFCVが最適だろうという判断に至ったわけです」

今後、内燃機の新規開発にリソースを投じることは難しい。が、現在のエンジンラインナップをリファインしながら残りの十数年を戦える道筋はみえているという。また、現在の日本市場のラインナップにも見直しを入れ、廉価なスポーティーモデルの投入などに対しても積極的に検討していくという。

「ホンダはエンジンを捨てるのか! と内外からよく言われます。私自身もエンジン出身ですし、そもそもうちの勝ち技ですからね。でも、時代が電動化の方向に行くことが間違いないなかで、いつまでもその成功体験にしがみついているわけにはいかない。それにエンジニア目線で言えば、今、うちで燃料電池やってるのもバッテリーも自動運転も、みんなもともとはエンジン屋です。彼らは対象が何であっても燃えられるんです。今だって、次の場所でまた勝ちゃいいんでしょという負けん気でバリバリやってるわけで、われわれの財産である“人”については心配していません」

想像していたよりも入念で、でも潔いものだったホンダの決断。それでも僕には心配が完全に拭えたわけではない。が、今後登場するプロダクトを通して、その腹づもりはじわりじわりと世に伝わっていくのだろう。その時には、ぜひ新しいホンダの価値が携えられていてほしい。そしてもし、情勢の変化によって話が変わったなどという時には、臆(おく)せず手のひらを返してもらっても全然構わない。日本のメーカーもそろそろクルマのパフォーマンスだけでなく、経営の狡猾(こうかつ)さまで欧米に倣ってみてもバチは当たらないだろう。

(文=渡辺敏史/写真=本田技研工業、webCG/編集=関 顕也)

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