【F1 2021】孤軍奮闘のフェルスタッペン、メルセデスの揺さぶりにも動じず完勝
2021.09.06 自動車ニュース![]() |
2021年9月5日、オランダのザントフールト・サーキットで行われたF1世界選手権第13戦オランダGP。ポールポジションからスタートしたマックス・フェルスタッペンと、メルセデス2台による1対2の戦いは、孤軍奮闘を強いられたレッドブルのエースに軍配が上がった。
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フェルスタッペン応援団の本拠地へ
36年ぶりに復活したF1オランダGPの歴史は古く、世界選手権としての初開催は1952年。フェラーリのアルベルト・アスカリ優勝、同じくジュゼッペ・ファリーナが2位と、F1黎明(れいめい)期に名をはせたドライバーが初戦を飾っている。これ以降、ヨーロッパではなじみの一戦として計30回開かれ、そのすべてがザントフールト・サーキットを舞台としていた。
北海を目の前に臨む砂丘に横たわるこのコースでは、数々の名勝負が繰り広げられたが、首都アムステルダム近郊の観光地というロケーションからトラックの拡張にも限度があり、また騒音問題が度々持ち上がってはサーキット廃止論にまで発展するほどだった。さらに関係者からも施設の老朽化が指摘されるようになり、1985年が最後のF1レースとなった。この年のレースは、マクラーレン駆るニキ・ラウダが通算25勝目、自身最後の優勝を遂げている。36年もの時の隔たりを感じずにはいられない、記録と記憶である。
21世紀に入り、マックス・フェルスタッペンという新進気鋭のドライバーの八面六臂(ろっぴ)の大活躍でF1再誘致の機運が高まり、晴れて再開されることとなったオランダGP。近代的にリニューアルされた一周4.2kmのショートサーキットの目玉は、コースの狭さを補うべく導入されたバンク付きコーナーだ。メインストレートは700m弱と短くF1には不向きとされたため、最終のターン14にはバンク角18度、またターン3の外側にも19度の傾きがつけられた。かつてF1も開かれたインディアナポリスのオーバル部分でもバンク角は9度程度であることからも、異例の傾斜角であることが分かる。
ザントフールトといえば、同サーキットのマネジャーを務めたジョン・フーゲンホルツを忘れてはならない。コース設計者としても知られており、ベルギーのゾルダーやドイツのホッケンハイムなどで彼の手腕が発揮されたが、日本では鈴鹿サーキットのデザインアドバイザーとしてのほうが有名だろう。ザントフールトは彼のデザインではないというが、それでも心なしか鈴鹿に似ていなくもなく、実際、フェルスタッペンもそうコメントしている。コース幅が狭く、一瞬のミスでグラベルに足をすくわれてしまうようなオールドコース的な性格も鈴鹿と同じである。
いまや各国に大挙して押しかける「オレンジ・アーミー」ことフェルスタッペン応援団の本拠地。再び開かれた歴史の1ページに、どんな戦いがつづられたのか。
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フェルスタッペンがポール、ハミルトン僅差の2位
初日こそ赤旗でアタックがつぶされるなどし、目立ったタイムを出せなかったレッドブルのフェルスタッペンだったが、予選直前の3回目のプラクティスでは、後続を0.5秒も突き放すトップタイムをマーク。予選でも盤石の走りを披露し、最後のラップではDRSに問題が起きていたにもかかわらず、2戦連続、今シーズン7回目、通算10回目のポールポジションをかっさらった。オレンジ色に染まった約7万の群衆が狂喜乱舞したことは言うまでもないだろう。
だが、敵もなかなかの抗戦を見せた。Q3最後のアタックで0.038秒差とポールタイムに肉薄したのは、フェルスタッペンとタイトルを争うルイス・ハミルトン。バルテリ・ボッタスも3位につけ、メルセデス勢が包囲網を敷いてきた。一方レッドブルのもう1台、セルジオ・ペレスは、Q1で前車に行く手を阻まれるなどし16位。戦略的に4基目のパワーユニットに交換したことでピットレーンスタートとなった。
予選4位と善戦したのはアルファタウリのピエール・ガスリー。フェラーリは、シャルル・ルクレール5位、カルロス・サインツJr.6位と好位置を得た。アルファ・ロメオは、アントニオ・ジョビナッツィがキャリアベストタイの7位と健闘するも、僚友キミ・ライコネンは今季限りでの引退を発表した直後、新型コロナウイルスで陽性と診断され欠場。代役のロバート・クビサは18位だった。
アルピーヌは2台そろってQ3に進み、エステバン・オコン8位、フェルナンド・アロンソは9位。そしてトップ10最後は、マクラーレンのダニエル・リカルドだった。またアルファタウリの角田裕毅は、Q2に進出するも赤旗でタイミングを逸し15位、前車の降格ペナルティーで14番グリッドからスタートすることとなった。
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フェルスタッペン対2台のメルセデスの攻防戦
ザントフールトは狭いゆえにオーバーテイクが難しい。レースでは、トラックポジションを重視した1ストップか、あるいはタイヤへの負荷を考慮し2ストップとするかの選択肢があったが、上位に2台が並んだメルセデスは、いずれの組み合わせも可能な点が有利だった。
72周レースのスタートでは、フェルスタッペンを先頭に、ハミルトン、ボッタス、ガスリーらが順当に続いた。フェルスタッペンはオープニングラップで1秒半のリードを築くと、10周もするとその差を3秒にまで拡大。これに対抗する術(すべ)がなかったメルセデス勢は、アンダーカットを狙って20周目にハミルトンをピットに呼び、ソフトタイヤからミディアムに換装した。
しかし、レッドブルもライバルのもくろみは先刻承知。すかさずフェルスタッペンもソフトからミディアムに変更すると、ハミルトンの前でコースに戻った。ミディアムではゴールまでもたないことから、ハミルトン、フェルスタッペンとも2ストップ作戦としたことがはっきりした。
次なるメルセデスの策は、ボッタスに暫定1位をキープさせ、フェルスタッペンの前に居座らせてハミルトンを援護しようというもの。フェルスタッペンは、29周目にはボッタスに追いつき、その後ろにハミルトンが迫ってきたものの、31周目のメインストレートでボッタスを追い抜き1位を奪還。ハミルトンは差こそ詰めたが抜くには至らず2位のまま。チームプレイを終えたボッタスは、使い果たしたタイヤを替えにピットへと入っていった。
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メルセデスの誤算、フェルスタッペンはホームで完勝
2度目のタイヤ交換は40周目。やはりハミルトンが先に動き、再びミディアムを選択したのだが、戻った先が渋滞の中だったのがよくなかった。さらにメルセデスを驚かせたのが、翌周ピットに入ったフェルスタッペンがミディアムではなく、ライフの長いハードタイヤを選んだこと。メルセデスとしては、フェルスタッペンにプレッシャーをかけ続け、タイヤを使わせて3度目のタイヤ交換に追い込むということもできなくなったわけだ。
レース終盤、しびれを切らしたハミルトンがハイペースで飛ばし始め、3秒あった差が1.8秒まで縮まるも、リーダーは微動だにせず。メルセデスはボッタスに2度目の、ハミルトンに3度目のタイヤ交換をさせ、ハミルトンにファステストラップの1点を取らせるのが関の山だった。
オレンジ一色の大観衆が待ち望んだ、母国のヒーローの勝利。「まわりの期待がこんなに高いなかで戦うのは簡単ではなかったね」とレース後に語ったフェルスタッペンは、今季13戦して7勝目を飾り、このレースを2位で終えたハミルトンからチャンピオンシップ首位の座を奪還した。人口1700万人あまりの小国、オランダの期待を一身に背負った彼には、オランダ人初のワールドチャンピオン誕生という希望が託されている。
3連戦の最後は、2回目のスプリント予選が予定されるイタリアGP。決勝は9月12日に行われる。
(文=bg)
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