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BEVになったらいいことずくめ!? ロールス・ロイスにみるハイエンドブランドの電動化

2021.10.11 デイリーコラム 西川 淳
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大きいのと小さいのから始めよ

去る2021年9月末に英国の老舗ハイエンドブランド、というよりも世界一の高級車ブランド、ロールス・ロイスが「2023年にBEVのシリーズ生産モデルを市場投入する」と発表した。

BEV化を加速させる一方の欧州自動車界にあって、「ロールスよ、ついにお前もか」と思われたクルマ好きも多かったに違いない。もっとも、筆者にしてみればロールス・ロイスこそ真っ先に全車BEV化を達成すべきブランドであって、2030年までに全ラインナップを電動化などというのは「ちょいと遅すぎやしませんか」とも思った。

BEV化は両極から始めるべし。それがここ20年来の持論だ。ボリュームゾーンの性急なBEV化はさまざまなあつれきを生む。大所的なエネルギー供給を持ち出すまでもなく、それ以前の問題として、バッテリー供給とリサイクルという“ボトルネック”が解決されない限り、大量生産のゼネラルブランドがBEV化をなりふり構わず目指すことは、自分で自分(の地域の人々)の首を絞めることになりかねない。それよりも両極=とても小さいモビリティーととても大きなクルマ(高級車)から始めるほうが合理的であろう。なぜなら、小さいモビリティーであればバッテリーも小さくて済むし、高級車であれば台数を絞ることができるからである。

そのうえ、そもそもロールス・ロイスのような巨大リムジン(&今ではSUVも)は、BEVが現在抱えるさまざまな問題点(ほぼバッテリー関連だと思っていい)を“初めから”クリアしている。

英国時間の2021年9月29日にイメージが公開された、ロールス・ロイスの電気自動車(BEV)「スペクター」。
英国時間の2021年9月29日にイメージが公開された、ロールス・ロイスの電気自動車(BEV)「スペクター」。拡大
「スペクター」のディテールは現時点では明らかにされていないが、車体の基本骨格にはロールス・ロイス独自のスペースフレームアーキテクチャーが採用されている。
「スペクター」のディテールは現時点では明らかにされていないが、車体の基本骨格にはロールス・ロイス独自のスペースフレームアーキテクチャーが採用されている。拡大
公開された写真からは、「スペクター」のボディータイプは2ドアクーペのように見える。
公開された写真からは、「スペクター」のボディータイプは2ドアクーペのように見える。拡大
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重さもコストも関係ない

まずはバッテリーの重量問題だ。BEVにおいてなじみのエンジンに相当するのが実は電気モーターではなくバッテリーであることは、読者諸兄なら承知のことだろう。当然、高性能や航続距離を求めると現在のバッテリー技術ではその容量を大きくするほかない。なにせ「日産リーフ」でも約300kgのリチウムイオンバッテリーを積む。「ポルシェ・タイカン」に至っては700kg近い。車両重量の2、3割をバッテリーが占める。余談だが、スーパーカー界がミドシップ化を推し進めている(アストンマーティンやマセラティのスポーツカーや「シボレー・コルベット」)のは、将来的に重いバッテリーを重心近くに置きたいがためである。いわゆる全固体電池の登場までは、バッテリーの重量問題は軽さが正義の自動車設計にとって難問であり続ける。

ロールス・ロイスの各モデルであれば、そもそもエンジン単体の重量が300kg近くあり、車両重量も2.5tを超えてくる。仮にもう500kg増えたところでさほどの問題はない(そうはならないだろうけれど)。機敏な運動性能を要求しない車両キャラクターだから、重量的に余裕があることは間違いない。高価な軽量化素材や技術だってふんだんに使うことができる。

次に価格だ。リチウムイオンバッテリーの価格は劇的に下がっていくと予想されていた。事実、単位出力あたりの価格は6分の1から10分の1程度にまで下がっている。けれども車載バッテリーそのものの価格は思ったほど下がっていない。主要な自動車メーカーが独自にバッテリー生産技術を高めようとしている背景には、供給確保とともに車載バッテリーの生産性向上をもくろんでいるからだ。

けれども車両価格が5000万円レベルのロールス・ロイスであれば、500万円分の電池を積んだところで全体の10分の1でしかない。それに軽量化技術と同様に顧客へのさらなるアピール材料として使えるのであれば、ロールス・ロイス社は喜んで車両価格を引き上げることだろう。かの世界の顧客は、さらに高価なモデルの登場を待ち望んでいるのだから!

かつてロールス・ロイスは、「ファントム」ベースのEV「102EX」を開発したことがある。同モデルは既存のエンジンやトランスミッションに代わるパワートレインを模索する目的でつくられ、2011年3月のジュネーブモーターショーに出展された。
かつてロールス・ロイスは、「ファントム」ベースのEV「102EX」を開発したことがある。同モデルは既存のエンジンやトランスミッションに代わるパワートレインを模索する目的でつくられ、2011年3月のジュネーブモーターショーに出展された。拡大
「102EX」の給電口。ソケットそのものは他ブランドのBEVと変わらないが、高級ブランドらしい“見せ方”が印象的だ。
「102EX」の給電口。ソケットそのものは他ブランドのBEVと変わらないが、高級ブランドらしい“見せ方”が印象的だ。拡大
「102EX」のフロントには、12気筒エンジンに代えてリチウムイオンバッテリーが搭載される。駆動用モーターやインバーターは、車体後方にレイアウトされていた。
「102EX」のフロントには、12気筒エンジンに代えてリチウムイオンバッテリーが搭載される。駆動用モーターやインバーターは、車体後方にレイアウトされていた。拡大
全長5.3m以上、車重は2.7tを超える大型SUV「ロールス・ロイス・カリナン」。こうしたクルマでは、数百kgの重量増や数百万円のコストアップは、致命的なマイナス要因にはならないものだ。
全長5.3m以上、車重は2.7tを超える大型SUV「ロールス・ロイス・カリナン」。こうしたクルマでは、数百kgの重量増や数百万円のコストアップは、致命的なマイナス要因にはならないものだ。拡大

一流ブランドはBEVでも生かせる

最後に充電インフラ(航続距離)とバッテリー性能維持の問題がある。これまたロールス・ロイスのオーナーであれば気にすることはない。立派なガレージにはブランド専用の充電設備が備わっているだろうし、何よりロールス・ロイスに日ごろから乗るライフスタイルの人にとって、プライベートなクルマ移動はそう長いものではない。数百kmの旅ともなれば別の手段を考えることだろう! また、ショーファーを雇っている人もいるだろうし、クルマまわりの専属スタッフを雇っている場合も多い。庶民が気にするような細事を気にする必要などないのだ。

ロールス・ロイスのような高級ブランドにとって、電動化は百利あって一害なし、というわけだ。

ハイエンドブランドのBEV化は今後、一層進むとみていい。あの驚くほどスムーズで精緻な燃焼回転フィールをもつBMWの12気筒を味わえなくなると思うとなんとも寂しい限りだけれども、電気モーターでよどみなくウルトラ静かに走るロールスも悪くない。なにしろ静けさこそかのブランド最高の魅力だったのだから。

では、すべてのハイエンドブランドがBEV化を達成した時、顧客は何を基準に一つのブランドを選ぶのだろうか。高級モデルにおけるコモディティー化は進まないだろうか。

心配無用だ。そこがブランドビジネスの肝というもので、人々は今でもブランドとデザインで超高級車を買っている。より一層デザインに特化するであろうことは、例えばロールス・ロイスが“ポスト・オピュレンス(今あるぜいたくの先に)”と言い出したことでもわかるだろう。そこには一層の静粛性と、ロールス・ロイス車らしいドライバビリティーの追求も含まれているに違いない。それはたとえ心臓部がバッテリー+電気モーターになっても変わらない。

最近のスーパーカーに乗っていても同じようなことを感じる。エンジン性能特性の穏やかなドライブモードで運転していても、十分にその価格に見合った、そのブランドらしい走りを堪能できることが多いからだ。

ハイエンドブランドは、たとえエンジンのない世界になっても対応できるよう、それ以外の魅力、デザインやドライブフィールに磨きをかけている。あえてもう一つ、高級車ブランドビジネスの未来を提示するなら、それはクルマ単体でなくカスタマーのライフスタイル支援(例えばエンジン車にはサーキットで乗ってもらう、とか)に向かうと筆者は予想している。

(文=西川 淳/写真=ロールス・ロイス・モーター・カーズ/編集=関 顕也)

BEVには、純エンジン車に比べて時間のかかる充電の手間がつきまとうもの。その点についても、ショーファー付きで使われることの多いロールス・ロイスのオーナーには、大きな影響はないといえる。
BEVには、純エンジン車に比べて時間のかかる充電の手間がつきまとうもの。その点についても、ショーファー付きで使われることの多いロールス・ロイスのオーナーには、大きな影響はないといえる。拡大
こちらは、“次の100年”を見据え、2016年にコードネーム「103EX」の名で製作された電動のコンセプトカー。ショーファーすら無用の、完全自動運転車でもある。
こちらは、“次の100年”を見据え、2016年にコードネーム「103EX」の名で製作された電動のコンセプトカー。ショーファーすら無用の、完全自動運転車でもある。拡大
「103EX」のインテリア。驚くほどシンプルだが、その空間はロールス・ロイスならではのクオリティーで構成されている。
「103EX」のインテリア。驚くほどシンプルだが、その空間はロールス・ロイスならではのクオリティーで構成されている。拡大
「スペクター」という車名は、幽霊や亡霊を意味する。現実に世に現れたのち、このハイエンドブランドに何をもたらすのか興味深いところだ。
「スペクター」という車名は、幽霊や亡霊を意味する。現実に世に現れたのち、このハイエンドブランドに何をもたらすのか興味深いところだ。拡大
西川 淳

西川 淳

永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。

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