スズキGSX-S1000(6MT)
包容力がすごい 2021.11.20 試乗記 スーパースポーツゆずりのエンジンを搭載する、スズキの“ストリートファイター”「GSX-S1000」。その最新型を走らせた筆者は、強大なパワーはもちろんのこと、乗り手にとことん優しい性格に感銘を受けたのだった。ハイパフォーマンスはそのままに
集合場所でスズキGSX-S1000を見て、「オッ!」と思った。「意外にオシャレかも……」。ブルーメタリック(トリトンブルーメタリック)のイメージが強い同車だが、試乗バイクのボディーカラーはシックなつや消しグレー(グラスマットメカニカルグレー)。なんだかヨーロピアンなテイストで、外観デザインのメカメカしさをうまく中和している。先代モデルでは、カウル付きの「S1000F」のほうが日本での人気が高かったが、欧州では逆だったと聞く。そんな嗜好(しこう)が、新しいS1000にも反映しているのかもしれない。
登場から6年がたちブラシュアップされたGSX-S1000のキャッチコピーは、「むき出しの攻撃性の美しさ(The Beauty of Naked Aggression)」。なるほど、いわゆるネイキッドとストリートファイターの違いをわかりやすく示している。
シート高は従来と変わらず810mm。リッター級スポーツバイクとしては優しいほうで、身長165cm昭和体形のライダー(←ワタシです)でも、両足親指の腹が接地する。バーハンドルのグリップ位置は以前より23mm広げられているそうで、やや肩を張って軽く前傾したファイティングポーズをとることになる。
これまで同様、レーシーなアルミツインスパーのフレームに、吸排気系にファインチューニングを施した998cc直列4気筒を搭載。言うまでもなくスーパーバイクたる「GSX-R1000」ゆずりの強心臓で、2005年のK5にオリジンを求められる。スポーツユニットとしての牙を残しつつ、熟成を重ねて使いやすいパワーソースに仕立てられてきた。今回、ピークパワー発生ポイントを1000rpm引き上げ、1万1000rpmで5PSアップの最高出力150PSを、最大トルクは250rpm低い9250rpmで2N・m細い105N・mを得る。
エンジンスペックの変更以上に注目されるのが、スロットル操作とバタフライ開度を電気的につないだライド・バイ・ワイヤ方式の採用である。具体的なユーザーメリットとして、3種類の走りから選択できる、新開発のドライブモード「SDMS(スズキドライブモードセレクター)」が装備された。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
1台3役のおもしろさ
シートにまたがって走りだしてみれば、SDMSの効用は圧倒的だ。感覚のにぶさでは人後に落ちない自分でも、それぞれのモードの性格がハッキリとわかる。1台のバイクに、ミドル級スポーツ、日常使いできるリッターバイク、そしてホットでレーシーなマシンがみごとに同居している。
コンフォートを意味するCモードは、パワーの上昇カーブが抑えられた穏やかな特性。排気量なりの太いトルクを享受しながら、街なかライドを気軽に楽しめる。Bモードはベーシックといえど、もう十二分に速い。右手の動きに214kgの物体が素直に従って、乗り手を喜ばせる。混雑した都市部を抜けたなら、常時Bモードでリッターバイクを堪能したい。
アグレッシブファイターの本領を発揮するのがAモード。不用意にスロットルを開けると、乗り手をその場に残したままバイクだけスッ飛んでいきかねない、そんな鋭く骨太な加速に度肝を抜かれる。クラッチ操作することなく、ギアのアップダウンができるクイックシフターとの相性は抜群で、曲がりが続く道ではスロットルを開けたまま、またはブレーキをかけながらパン、パン! と左足だけでシフトを決めてその気になることも可能だが、当初の興奮が冷めると……ちょっと疲れるね。モードセレクターは走行中の切り替えも受け付けるから、Aモードは「いざ!」というときのためにとっておきたい。
見かけ通りのハイパフォーマンスさとは裏腹に、ユーザーに親切なスズキのバイクらしく、S1000はスターターボタンをワンタッチするだけで確実にエンジンが始動するし、低速域では「ローRPMアシスト」機能がエンジン回転数を管理して、エンストしにくくしてくれる。さらに5段階+オフモードを持つトラクションコントロールを使って、好みの強度でエンジンアウトプットの角を丸めることも可能だ。
価格は143万円。戦略的な価格設定が話題になった旧型ほどではないけれど、リッターバイクとしてはリーズナブル。一度に3台のバイクを手に入れられると考えれば、むしろバーゲンかも!?
(文=青木禎之/写真=郡大二郎/編集=関 顕也)
![]() |
![]() |
![]() |
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2115×810×1080mm
ホイールベース:1460mm
シート高:810mm
重量:214kg
エンジン:998cc 水冷4ストローク直列4気筒DOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:150PS(110kW)/1万1000rpm
最大トルク:105N・m(10.7kgf・m)/9250rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:16.6km/リッター(WMTCモード)/21.2km/リッター(国土交通省届出値)
価格:143万円

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。
-
スズキ・エブリイJリミテッド(MR/CVT)【試乗記】 2025.10.18 「スズキ・エブリイ」にアウトドアテイストをグッと高めた特別仕様車「Jリミテッド」が登場。ボディーカラーとデカールで“フツーの軽バン”ではないことは伝わると思うが、果たしてその内部はどうなっているのだろうか。400km余りをドライブした印象をお届けする。
-
ホンダN-ONE e:L(FWD)【試乗記】 2025.10.17 「N-VAN e:」に続き登場したホンダのフル電動軽自動車「N-ONE e:」。ガソリン車の「N-ONE」をベースにしつつも電気自動車ならではのクリーンなイメージを強調した内外装や、ライバルをしのぐ295kmの一充電走行距離が特徴だ。その走りやいかに。
-
スバル・ソルテラET-HS プロトタイプ(4WD)/ソルテラET-SS プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2025.10.15 スバルとトヨタの協業によって生まれた電気自動車「ソルテラ」と「bZ4X」が、デビューから3年を機に大幅改良。スバル版であるソルテラに試乗し、パワーにドライバビリティー、快適性……と、全方位的に進化したという走りを確かめた。
-
トヨタ・スープラRZ(FR/6MT)【試乗記】 2025.10.14 2019年の熱狂がつい先日のことのようだが、5代目「トヨタ・スープラ」が間もなく生産終了を迎える。寂しさはあるものの、最後の最後まできっちり改良の手を入れ、“完成形”に仕上げて送り出すのが今のトヨタらしいところだ。「RZ」の6段MTモデルを試す。
-
BMW R1300GS(6MT)/F900GS(6MT)【試乗記】 2025.10.13 BMWが擁するビッグオフローダー「R1300GS」と「F900GS」に、本領であるオフロードコースで試乗。豪快なジャンプを繰り返し、テールスライドで土ぼこりを巻き上げ、大型アドベンチャーバイクのパイオニアである、BMWの本気に感じ入った。
-
NEW
2025-2026 Winter webCGタイヤセレクション
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>2025-2026 Winterシーズンに注目のタイヤをwebCGが独自にリポート。一年を通して履き替えいらずのオールシーズンタイヤか、それともスノー/アイス性能に磨きをかけ、より進化したスタッドレスタイヤか。最新ラインナップを詳しく紹介する。 -
NEW
進化したオールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2」の走りを体感
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>欧州・北米に続き、ネクセンの最新オールシーズンタイヤ「N-BLUE 4Season 2(エヌブルー4シーズン2)」が日本にも上陸。進化したその性能は、いかなるものなのか。「ルノー・カングー」に装着したオーナーのロングドライブに同行し、リアルな評価を聞いた。 -
NEW
ウインターライフが変わる・広がる ダンロップ「シンクロウェザー」の真価
2025.10.202025-2026 Winter webCGタイヤセレクション<AD>あらゆる路面にシンクロし、四季を通して高い性能を発揮する、ダンロップのオールシーズンタイヤ「シンクロウェザー」。そのウインター性能はどれほどのものか? 横浜、河口湖、八ヶ岳の3拠点生活を送る自動車ヘビーユーザーが、冬の八ヶ岳でその真価に触れた。 -
NEW
第321回:私の名前を覚えていますか
2025.10.20カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。24年ぶりに復活したホンダの新型「プレリュード」がリバイバルヒットを飛ばすなか、その陰でひっそりと消えていく2ドアクーペがある。今回はスペシャリティークーペについて、カーマニア的に考察した。 -
NEW
トヨタ車はすべて“この顔”に!? 新定番「ハンマーヘッドデザイン」を考える
2025.10.20デイリーコラム“ハンマーヘッド”と呼ばれる特徴的なフロントデザインのトヨタ車が増えている。どうしてこのカタチが選ばれたのか? いずれはトヨタの全車種がこの顔になってしまうのか? 衝撃を受けた識者が、新たな定番デザインについて語る! -
NEW
BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ(FR/8AT)【試乗記】
2025.10.20試乗記「BMW 525LiエクスクルーシブMスポーツ」と聞いて「ほほう」と思われた方はかなりのカーマニアに違いない。その正体は「5シリーズ セダン」のロングホイールベースモデル。ニッチなこと極まりない商品なのだ。期待と不安の両方を胸にドライブした。