変わらなきゃ! の国内トップフォーミュラは人気のモータースポーツに生まれ変わるか?
2021.11.22 デイリーコラム「レーシングドライバーはカッコイイ」か?
全日本スーパーフォーミュラ選手権(SF)を開催する日本レースプロモーション(JRP)は2021年10月25日、「SUPER FORMULA NEXT 50」プロジェクトを発表した。NEXT 50は「ネクスト・ゴー」と読ませる(以下、SFネクスト・ゴー)。全日本F2000選手権として始まった国内トップフォーミュラは、2022年に50シーズン目を迎える。大きな節目を迎えるにあたり、次の50年を生き抜いていくための行動指針を示したというわけだ。
SFネクスト・ゴーは、「ドライバーファースト」と「技術開発」、「デジタルシフト」の3つの柱で成り立っている。ドライバーファーストとは、世界中のドライバーが参戦したくなるような魅力を保ち、一方で、世界中の子供たちがドライバーに憧れを抱くような魅力を備えることを意味する。
会見では登壇者から「昔のレーシングドライバーはカッコよく見えた」という旨の発言があった。「SFに参戦しているドライバーはカッコイイんだ」と積極的に発信していく方針とも受け取れたが、発信の仕方に気をつけないとイタイことになると思う。昔のドライバーがカッコよく見えたのは、いい大人が自分の好きなことに熱中していたからだ。人より速く走る、ただそれだけのことに熱中している姿を見て、外野が勝手にカッコイイと感じただけの話である。
ドライバーだけでなくメカニックもエンジニアも、昔も今も「オレってカッコイイだろ」とは思っていないはずだ。とてつもなく速く走るクルマで真剣に遊び、思い切り楽しんで、真剣に悔しがる姿を見せてくれればそれでいい。過剰な演出は無用。2022年からは一部のレースで「土日2レース制」を導入するという。レースの数が増えるからドライバーのカッコよさを披露する機会も増える、という発想だろうか。ドライバーファーストを増強する具体策は段階的に発表し進化させていくというから、二の矢、三の矢にも注目したい。
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技術のアピールで盛り上げよう
「技術開発」は個人的には好物だ。エンジンは現在、SUPER GT GT500クラスと基本コンセプトを共有する2リッター直4直噴ターボのガソリンエンジンを搭載する。市販車でトレンドになって久しい過給ダウンサイジングのコンセプトを取り入れたものだ。燃料流量を規制して熱効率を向上させる開発を促すなど、量産車のCO2排出量削減につながる技術に取り組んではいる。だが、情報発信が十分だったかというと、疑義を呈さざるを得ない。
SFネクスト・ゴーでは、SFにエンジンを供給するホンダやトヨタとともに、積極的にカーボンニュートラルに結びつく技術開発に取り組み、取り組んでいる姿を公開していくという。すでに、e-Fuel(再生可能エネルギーを利用して生成した水素を用いた合成燃料)やバイオフューエル、植物由来の天然素材であるバイオコンポジットのテスト(レースウイークに走らせる)を2022年から開始すると発表している。欲を言えば、日本の技術力を世界に広く知らしめるためにも、シャシーの国産化にも期待したいところだ。
トヨタが水素エンジンを積んだ「カローラ スポーツ」をスーパー耐久シリーズに持ち込むことで、カーボンニュートラルに向かう選択肢のひとつとして水素に注目が集まると同時に、シリーズそれ自体にも注目が集まるようになった(と感じている)。同様の効果をSFネクスト・ゴーの取り組みにも期待したい。
“デジタルのエンタメ”に期待
3つ目の柱であるデジタルシフトは、「映像、音楽、データ、通信、AI、ゲーム、アニメーションなど、さまざまな切り口からエンターテインメントの技術開発にチャレンジし、日本から世界に発信する新しいモータースポーツカルチャーの創造を目指す」とする。2022年から始める具体策は、スマートフォンに最適化したプラットフォームの立ち上げだ。そのプラットフォームでは、全ドライバーのオンボード映像や車両データ(車速や位置情報、オーバーテイクシステムの残量など)、ドライバー無線の音声を見聞きすることができるようになるという。
オンボード映像と4輪のタイヤの温度を照らし合わせて確認することで、ドライバーがコックピットで格闘している理由が、手に取るようにわかるようになるだろう。逃げるドライバーと追い上げるドライバーの映像とデータを比較することで、彼らが直面している状況の違いを推察することができ、リアルに展開するバトルを見守る興奮が増す。それこそ、モータースポーツだけが発信できる特有のエンターテインメントというものだ。上手に楽しむには、さまざまな情報を活用する楽しみ方指南も欠かせない。
SFネクスト・ゴーの取り組みは、「現状のままでは国内トップフォーミュラの未来がない」とする危機感から生まれたのだろう。変えようとする姿勢には全面的に賛同するし、微力ながらサポートしていきたいとも思う。「変わりつつある」ことをわかりやすく世間に浸透させるには、最初の一歩が肝心。「変わるって言っていたのに、これかよぉ」とがっかりさせることのないような、ワクワクする具体策の発表を心待ちにしたい。
(文=世良耕太/写真=webCG/編集=関 顕也)
