第32回:その機能に制約はないのか? 「トヨタC+pod」の走りに感じた超小型EVの実態
2022.01.11 カーテク未来招来![]() |
トヨタ自動車が、超小型EV(電気自動車)「C+pod(シーポッド)」の一般向けリース販売を2021年12月23日に開始した。一部の法人や自治体向けには1年ほど前から提供されているが、その門戸がいよいよ一般消費者にも開かれた格好だ。一足先に体験したその実力を紹介する。
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軽自動車よりさらに小さな2人乗りのモビリティー
筆者がC+podを体験したのは、神奈川県オールトヨタ販売店とトヨタレンタリース神奈川、トヨタレンタリース横浜が2021年7月22日に開始したショートタイムレンタカーサービス「C+podヨコハマ」である。横浜市内のベイエリアに位置するトヨタレンタカー7店舗で実施されているもので、利用料金は1時間まで800円、12時間まで4800円となっている。
ここであらためてC+podについて紹介しておこう。このクルマは2人乗りの超小型EVで、全長×全幅×全高=2490×1290×1550mmという、軽自動車より900mm短く、190mm細い車体に、大人2人が横並びで乗車できるスペースを有している。モーターのアウトプットは定格出力2.6kW(3.5PS)、最高出力9.2kW(12.5PS)。電池容量は9.06kWhで、航続距離はWLTCモードで150km。最高速度は約60km/hである。価格は165万円からとなっているが、現在は冒頭でも触れたように、一般消費者向けのリース販売が開始された段階。“非リース”の一般販売が開始されるのは2022年中とされているが、その時期は未発表だ。
筆者がこのタイミングでC+podを体験してみようと思ったのは、もちろん冒頭で触れたように一般消費者へのリース販売が開始され、読者の皆さんが購入を検討できる条件が整ってきたというのもあるが、あと2つ理由がある。そのひとつは、トヨタが初めて本気でつくった超小型EVの実力を知りたかったからだ。
今日における超小型EVの実力を確かめたい
筆者は、かつて日産自動車の超小型2人乗りEV「ニューモビリティコンセプト」を体験したことがある。ボディーサイズは全長×全幅×全高=2340×1230×1450mm。最高速は約80km/h。モーターの定格出力は8kW(10.9PS)、 最高出力は15kW(20.4PS)。航続距離は約100km……と、車体がひと回り小さく、航続距離も短い一方で、より高出力のモーターを積むのが特徴だった。一応、定員は2人ということになっていたが、実際には自動二輪車に2人乗りするような格好で乗車する必要があり、よほど親しい間柄でないと2人乗りは難しいと感じた。
その乗り心地だが、シートが薄いうえにサスペンションのばねが硬く、正直に言ってとても長時間乗れる代物ではなかった。電池容量が限られているのでそもそも長くは走れないのだが、それでも相当に移動距離が短くないと、また乗りたいとは思えないというのが率直な感想だった。
実はこれは日産製ではなく、仏ルノーが開発した「トゥイジー」を日産が試験的に導入したものである。今回の試乗では、およそ10年前にルノーが手がけた超小型EVと比べ、今日におけるトヨタ製の実力が知りたかったのだ。
そしてもうひとつの理由が、中国で超低価格EVが雨後のたけのこのように続々と誕生していることだ。その火付け役となった中国・上汽通用五菱汽車の「宏光 MINI」は、ベース車種の価格が日本円換算で約50万円と格安なことから人気を呼び、発売が2020年7月末だったのにもかかわらず、同年の中国EV販売台数ランキングで「テスラ・モデル3」に次ぐ2位にランクイン。2021年には販売台数第1位となっている。
この宏光MINIは、建前上は4人乗りだが、後席スペースはかなり狭く、事実上の2人乗りだ。加えてベースグレードの電池容量は9.3kWh、航続距離は120kmと、C+podのそれに近い。価格はC+podのほうがだいぶ高いが、そうした超低価格EVの使い勝手を疑似体験してみたいと思ったのだ。
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一般道を走るのはかなりつらい
トヨタが初めて本気でつくった超小型EVであり、しかも製造を担うのは関連子会社などではなく、本社の元町工場である。いやがうえにも期待は高まるというものだが、レンタカー会社でキーを受け取り、走りだした直後から「……ちょっと期待しすぎたかな?」という思いが強くなってきた。
まずドライバビリティーだが、アクセルの踏み込みと加速が比例しておらず、あるところから急に速度が増すのでコントロールが難しい。またモーター駆動にもかかわらずあまり滑らかに回っている感触がなく、騒音も結構ある。
動力性能に関しても、軽いとはいえ車両重量は670kg(「X」グレード)あるわけで、最高出力9.2kWのモーターはかなり非力と言わざるを得ない。市街地でも、交通の流れについていくには一生懸命アクセルペダルを踏み込む必要がある。しかも最高速は60km/hということになっているが、実際にこの速度で走り続けると騒音が大きく、乗り心地もかなりドタバタしたものになる。実用上の最高速度はせいぜい50km/hくらいと考えたほうがよく、場所によっては周囲のクルマに迷惑をかけながら走ることになる。
航続距離150kmを“うのみ”にするべからず
前項でドタバタした乗り心地と書いたが、その大きな原因となっているのがボディー剛性の低さだ。試乗の後、YouTubeで公開されている元町工場でのC+podの組み立て工程の動画を見て合点がいったのだが、このクルマはルーフ付きの構造ではあるものの、車体剛性のほとんどをフロアが受け持ち、ピラーやルーフはほとんどそこに寄与していない。このため、サスペンションに入った衝撃がかなりだらしなくフロアを振動させる。先に触れた日産の「ニューモビリティコンセプト」に比べると多少はマシなものの、それほど大差はないというのが実感だった。
加えて言うと、150kmという航続距離も最初は「日常使いでは十分か」と思ったものの、実際にはかなり心もとなく感じられた。エアコンを動作させると、いきなり航続距離が半分の75km程度になってしまうからだ。この数字が30……20……という具合に下がっていくのを見ながら走るのは、決して精神衛生上よいものではない。
このように、トヨタC+podに対する評価はいささか辛口なものになってしまった。しかし、一般消費者が通常のエンジン車から乗り換えたら、かなりの落差を経験することは間違いなく、それが超小型EVの現在の姿と言っても差し支えないだろう。一方で、今年は日産自動車と三菱自動車から軽規格のEVがデビューする予定となっており、その性能は電池容量が20kWh、航続距離は170km程度といわれている。恐らく、乗り心地や車体剛性、ドライバビリティーに関しては、かなり通常の軽自動車に近いものに仕上げてくるはずだ。あとは170kmという航続距離である。これが、エアコンの作動などでどの程度悪化するか。それにより、実用性に関するユーザーの印象は大きく左右されることだろう。
(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=鶴原吉郎<オートインサイト>、トヨタ自動車、日産自動車、webCG/編集=堀田剛資)
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鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。