第47回:用意周到な計画に脱帽 新型「クラウン クロスオーバー」に見るトヨタの“クルマづくり”戦略
2022.08.09 カーテク未来招来 拡大 |
2022年7月15日に、トヨタ自動車は新型「クラウン」を世界初公開した。その中身をつぶさに見れば見るほど、そこにはトヨタの周到な戦略を読み取ることができる。当連載では今回と次回の2回にわたり、新型クラウンに込められた戦略を読み解いていきたい。
拡大 |
拡大 |
まさか4車種同時に発表するとは……
正式な発表前から、ネット上には新型トヨタ・クラウンの予想イラストが出回っていたので、今回発表されたうちの「クラウン クロスオーバー」には驚かなかった。しかし、まさか4車種をクラウンの名のもとに展開するとは思わなかったし、そのすべてを同時に発表するとは、思ってもみなかった。トヨタには、2021年12月のEV(電気自動車)戦略の発表会でも、その物量に圧倒された記憶があるが(参照)、今回の新型クラウンの発表会も、トヨタの開発力を見せつけられた思いだ。
新型クラウンについての筆者の感想は、実によく練られた戦略だなあ、ということだ。とても合理的というかまっとうで、それでいて経営者の決断がなければできない戦略であり、まったく感心している。豊田章男社長をよく知る人からは、とてもここでは書けないような話も聞こえてくるのだが、これだけの大きな組織を大きく方向転換していくためには、ある種の狂気じみたところがどうしても必要なのだろうと思う。
気が早いかもしれないが、現在のトヨタを見ていて心配なのは、ポスト章男体制がどうなるのか? ということだ。
自然な流れだったFFプラットフォームの採用
話を新型クラウンに戻そう。今回、詳細が発表されたのは今秋発売予定のクラウン クロスオーバーのみだが、その大きな特徴は、これまでのFR(フロントエンジン・リアドライブ)プラットフォームから、FF(フロントエンジン・フロントドライブ)のプラットフォームへと切り替えられたことだ。
トヨタ車で最も伝統のある車種だけに、クラウンにはいくつも不文律のようなものがあった。例えば9代目から10代目への切り替えでは、ペリメーターフレーム付きの車体構造から、独立したフレームのないモノコック構造への転換が話題となった。当時はすでにフレーム付きの乗用車はほとんどなくなっていたから、ごく当然の判断だと思ったのだが、当時乗ったタクシーの運転手が「もうすぐクラウンがフレーム付きじゃなくなるらしいから、あわてて現行車を買った」と話すのを聞いて、「クラウンユーザーというのはずいぶん保守的なのだな」と思った記憶がある。
今回の新型にしても、乗用車のほとんどがFFとなった今となっては、クラウンがFFプラットフォームとなるのもそれほど特別なことではない。しかしトヨタも気にしているようで、新型クラウンのクロスオーバーは、全車が後輪をモーターで駆動するAWD(全輪駆動)なのが特徴だ。いやでも「クラウンがFFになった」とは言われたくないのだろう。
クルマの“成り立ち”は「レクサスRX」に近い
加えて、このプラットフォームの切り替え自体は、トヨタグループ全体から見たら合理的な選択だといえる。
そもそも先代クラウンのプラットフォームは、言い方は悪いが妥協の産物だった。車体の前半分はトヨタの新世代プラットフォーム「TNGA」に切り替わったものの、後半は従来のプラットフォームを継承した、いわば“キメラ”のような成り立ちだったからだ。キメラとは生物学の用語で、同一の個体内に異なる遺伝情報を持つ細胞が混じっている状態を指す。先代クラウンも、既存のユーザーに受け入れられるよう全幅を1800mm以内に抑えるため、無理やり(といっては失礼かもしれないが)2つのプラットフォームをつなぎ合わせたクルマとなったようだ。
これに対して、新型クラウンのプラットフォームは2022年6月に公開された新型「レクサスRX」に近い。クラウン クロスオーバーのホイールベースは新型RXと同じ2850mmだし、リアの足まわりも、レクサスRXで初めて採用された5リンクのマルチリンクサスペンションで、後輪を駆動するモーターやそれをマウントするサブフレームも含めてすべて共通だ。
また、新型クラウンの「RS」で採用された1モーター式のハイブリッドシステム「デュアルブーストハイブリッドシステム」は、排気量2.4リッターの直列4気筒直噴ターボエンジンとモーターを内蔵した6段自動変速機(6段AT)を組み合わせたものだが、このハイブリッドシステム自体も、新型RXで初めてその存在が明らかにされたものだ。
見え隠れするしたたかで合理的な戦略
面白いのは、このモーター内蔵6段AT=「1モーターハイブリッドトランスミッション」を共同開発したデンソー、アイシン、BluE Nexusの3社が、クラウンのお披露目後にこの技術の詳細を発表したことだ(参照)。RXの発表後ではなく、クラウンの発表まで待つところに、トヨタがクラウンというブランドを大事にする気持ちが表れていると思うのはうがった見方だろうか。ちなみにこのモーター内蔵6段ATは、モーターの内側に2つのクラッチ(エンジンとモーターを切り離すクラッチと、モーターと変速機を切り離すクラッチ)を内蔵していて、非常にコンパクトに設計されているのが特徴だ。
また新型クラウンと新型RXは、ともにトヨタの「GA-K」プラットフォームを採用する。以前このコラムで紹介したように(参照)、GA-Kプラットフォームはトヨタの「カムリ」や「RAV4」、レクサスの「ES」や「NX」といった車種に使われており、トヨタ/レクサスの中核を支える存在だ。一方で、新型RXおよび新型クラウンへの採用にあたっては、走行中の車体姿勢の変化を抑えるために、リアサスペンションまわりをフロア構造やサブフレームも含めて新設計した。
つまり新型クラウンは、既存のモデルに見られたようなクラウン専用の特殊なプラットフォームから、トヨタの量販プラットフォームに切り替えることでコストを抑制。同時に新型RXから導入された最新のリアサスペンションやパワートレインを流用することで、トヨタブランドのフラッグシップにふさわしい性能を実現したといえる。用意周到な計画にそって開発された、非常に合理的なクルマといえるだろう。
次回は、新型クラウンの国際戦略について考える。
(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=トヨタ自動車/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |

鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。
-
第50回:歴代モデルに一気乗り! 「シビック」の歴史は日本のカーテクの歴史だった(後編) 2022.9.20 今年で誕生50周年を迎える「ホンダ・シビック」の歴代モデルに一挙試乗! クルマの端々に見られる、自動車技術の進化の歴史と世相の変化の“しるし”とは? 半世紀の伝統を誇る大衆車の足跡を、技術ジャーナリストが語る。
-
第49回:歴代モデルに一気乗り! 「シビック」の歴史は日本のカーテクの歴史だった(前編) 2022.9.6 今年で誕生50周年を迎える「ホンダ・シビック」の歴代モデルに試乗! 各車のドライブフィールからは、半世紀にわたる進化の歴史が感じられた。私生活でもシビックに縁のあった技術ジャーナリストが、シビックのメカニズムの変遷をたどる。
-
第48回:その恩恵は価格にも! 新型「トヨタ・クラウン」が国際商品に変貌した必然 2022.8.23 プラットフォームの共有と大胆なグローバル展開により、先代比で77万円もの値下げを実現!? 新型「トヨタ・クラウン」の大変身がもたらす恩恵とは? “合理的でまっとう”な経営判断を実践できる、トヨタならではの強みを探った。
-
第46回:“走る喜び”も電気でブースト 「シビックe:HEV」が示した新しい体験と価値 2022.7.26 スポーティーな走りとエンジンサウンドでドライバーを高揚させるハイブリッド車(HV)。「ホンダ・シビックe:HEV」には、既存のHVにはない新しい提案が、多数盛り込まれていた。若者にも好評だというシビックに追加されたHVを、技術ジャーナリストが試す。
-
第45回:お隣から黒船来航!? 「ヒョンデ・アイオニック5」を日本のライバルと比較する 2022.7.12 最新のEV「アイオニック5」を引っさげ、日本市場に再参入した韓国ヒョンデ・モーター。アイオニック5は車体サイズ、価格帯などさまざまな点で「トヨタbZ4X」「スバル・ソルテラ」「日産アリア」とぶつかる。今回はこの韓国製最新EVを、日本のライバルと比較してみた。
-
NEW
ベントレー・コンチネンタルGTアズール(4WD/8AT)【試乗記】
2026.1.19試乗記ベントレーのラグジュアリークーペ「コンチネンタルGT」のなかでも、ウェルビーイングにこだわったという「アズール」に試乗。控えめ(?)な680PSのハイブリッドがかなえる走りは、快適で満ち足りていて、ラグジュアリーカーの本分を感じさせるものだった。 -
NEW
第327回:髪もクルマもナイスファイト!
2026.1.19カーマニア人間国宝への道清水草一の話題の連載。日産の新型「ルークス」で夜の首都高に出撃した。しっかりしたシャシーとターボエンジンのパワフルな走りに感心していると、前方にスーパーカーの姿を発見。今夜の獲物は「フェラーリ・ローマ」だ! -
NEW
日本で売れるクルマはあるのか!? 最新の“アメリカ産ニホンシャ”を清水草一が検証する!
2026.1.19デイリーコラムアメリカからの外圧による制度変更で、北米生産モデルの国内導入を決めたトヨタ。同様に、今後日本での販売が期待できる「海外生産の日本車」には、どんなものがあるだろうか? 清水草一が検証してみた。 -
フェラーリ12チリンドリ(後編)
2026.1.18思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が「フェラーリ12チリンドリ」に試乗。前編では伝家の宝刀であるV12エンジンを絶賛した山野。後編ではコンビを組むシャシーの印象を余すところなく聞いてみた。 -
BYDシールAWD(4WD)【試乗記】
2026.1.17試乗記BYDのBEVサルーン「シール」の機能アップデートモデルが登場。強化のポイント自体はそれほど多くないが、4WDモデルの「シールAWD」は新たに電子制御式の可変ダンパーを装備したというから見逃せない。さまざまなシーンでの乗り心地をチェックした。 -
新生ノートンがいよいよ始動! 名門の復活を担う次世代モーターサイクルの姿に迫る
2026.1.16デイリーコラム英国のモーターサイクル史にあまたの逸話を残してきた名門、ノートンが、いよいよ再始動! その数奇な歴史を振り返るとともに、ミラノで発表された4台の次世代モデルを通して、彼らが思い描く未来像に迫った。











































