第46回:“走る喜び”も電気でブースト 「シビックe:HEV」が示した新しい体験と価値
2022.07.26 カーテク未来招来 拡大 |
最近、ホンダが日本での販売に再び力を入れ始めている。「シビック」もかつては国内での取り扱いが途切れたり、選べる仕様が限られたりといった時代もあったが、現行の11代目は大事に扱われているようだ。2021年9月にまず1.5リッターターボ仕様が発売され、そしてこの7月にはハイブリッド仕様の「シビックe:HEV」が追加された。今回、このハイブリッド仕様の実力を公道で試してみた。
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“トルクが出ていて燃費もいい”領域を拡大
すでにそこかしこで語られていることだが、今年2022年は、ホンダ・シビックが誕生して50周年の記念すべき年にあたるそうだ。筆者も1代目、2代目、4代目シビックが実家にあったり、あるいは自分で所有していたことがあったりするから、シビックというブランドには愛着がある。と同時に、自分のなかでシビックというと、あまりにも「コンパクトなハッチバック車」というイメージが強いため、最近のシビックの“成長ぶり”にはやや戸惑いを隠せないのも正直なところだ。
今回、シビックe:HEVに搭載された2リッターエンジン+2モーターのハイブリッドシステムは、ぱっと見ると、すでに「ステップワゴン」などに搭載されているパワートレインと同じような印象を受けるが、実際にはシビックへの搭載にあたり、大きな改良が施されている。
最も大きな違いは、組み合わされる2リッターエンジンが直噴化されていることだ。ポート噴射のステップワゴン用エンジンと比べると、最高出力は145PS(107kW)から141PS(104kW)に低下しているものの、最大トルクは175N・mから182N・mに向上している。またアトキンソンサイクルの導入や、圧縮比を13.9にアップしていること(ポート噴射エンジンでは13.5)などによって、最高効率は世界トップレベルの41%を実現。しかも、従来のポート噴射エンジンより燃費のよい領域を、特に大トルクが得られる領域と重なる方向で広げているため、実用燃費が大幅に向上しているという。
ハイブリッドなのにハイブリッドらしくない
ハイブリッド仕様というと燃費を追求したモデル、というように考えがちだが、新型シビックe:HEVは、既存の1.5リッターターボエンジン搭載車より、むしろ運動性能が向上しているところが特徴だ。実際の走りについては試乗記をご覧いただきたいが、面白いのはe:HEV化がスポーティーな走りにも有利に働いているという点だ。後席下にバッテリーを搭載することで、重心高がエンジン仕様より10mm下がったほか、バッテリーケースを車体と結合することで、リアボディーのねじり剛性も3%向上している。バッテリーやモーターの搭載によるばね上重量の増加も、高速走行時や荒れた路面での走行安定性向上に寄与しているという。
さらに面白いのが、「ANC(アクティブノイズコントロール)」に「ASC(アクティブサウンドコントロール)」を組み合わせて、加速時に軽快なサウンドを聞かせるようにしていることだ。これはANCによって騒音レベルを引き下げたうえで、ASCによってもとのエンジン音を生かした4次、6次、8次の倍音を付加することで、澄んだサウンドをドライバーに聞かせるというものだ。この効果についても後で触れよう。
アクセルを踏み込んですぐに気づくのは、このクルマがハイブリッド“らしく”ないことだ。通常のハイブリッド車では、最初にモーターで発進し、エンジンをかけるときも、なるべくドライバーに気づかせないよう静かに始動させるモデルが多い。ところがシビックe:HEVでは、発進直後からASCの効果を生かした澄んだエンジン音が耳に入り、加速時にはそれがリニアに高まる。乗っている感じからは、軽快に回るエンジン車であるかのような印象を受ける。
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全方位的にガソリン車を上回る出来栄え
一方で、高速道路への進入時などにアクセルを目いっぱい踏み込んでみると、先述したエンジン音を響かせつつ、明らかにエンジン車とは違う力強い加速で流れに追いつく。この、エンジン車のようなそうでないような、不思議な乗り味がシビックe:HEVの強い個性になっている。それでいて燃費はハイブリッド車らしく良好だ。今回の試乗コースとなった山梨・八ヶ岳周辺を、一般道のワインディングコースや高速道路も交えて遠慮なくアクセルを踏んで走り回った結果の燃費は、車載計の読みで19.3km/リッターを記録した。普通に運転すれば20km/リッターは確実に上回るだろう。
車体剛性や足まわりのセッティングには先代から定評があったが、新型シビックはそれに磨きがかかっている。この世代から採用が始まったホンダの新世代プラットフォーム「ホンダアーキテクチャー」は、先代シビックのプラットフォームをベースに改良を加えたものだが、実際のところ隅々まで手が入っている。そのかいあって、剛性感は欧州の同クラス車と同等以上だし、シビックでは硬めにセッティングされた足まわりもあって、ステアリング操作に対する反応も俊敏だ。硬めといっても同乗者が不愉快になるほどではなく、このあたりは好みの範疇(はんちゅう)だろう。
比較のために1.5リッターターボを積むエンジン車のMT(手動変速)仕様とCVT(無段変速機)仕様にも乗ったが、まず違いを感じるのがエンジン音だ。ASCを搭載していないため、e:HEVよりもだいぶ粗削りなサウンドを聞かせる。走っていてよりスパルタンなイメージを受ける。それでいて、絶対的な加速自体はモーターの威力でe:HEVのほうが速い。つまり、e:HEVのほうがより洗練されていて、それでいて速い、というキャラクターが与えられている。ちなみにエンジン車の燃費はMT、CVTとも車載計読みで13km/リッター程度だったので、e:HEVよりも約33%下回る結果となった。
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今の若者は高くても欲しいものを買う
このように新型シビックe:HEVは、Cセグメントのクルマとしてハードウエアにはほとんど文句をつけようがない。一方で、気になるのは約394万円という値づけだ。これは「トヨタ・カローラ スポーツ」のハイブリッド車や「マツダ3」の1.8リッターディーゼルターボ車といった、国内競合車種の上級仕様と比べても100万円ほど高い。海外のモデルと比較しても、「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のディーゼル車とはほぼ同等。「アウディA3」の中間グレードや、あるいは「BMW 1シリーズ」にも近い価格設定になる。クルマの出来がこれらの車種に負けているとは思わないが、一般消費者としてこの価格を見ると、うーんと考え込んでしまう。
もうひとつ気になったのはデザインテイストだ。新型シビックは最近のホンダ車らしく、シンプル、クリーンで水平基調のすっきりした外観・内装に仕上げられている。これはこれでもちろん悪くないのだけれど、先代のちょっと“ガンダム調”な主張の強いデザインに比べると、物足りない印象を受けてしまう。
しかし、である。ホンダによれば新型シビック(エンジン仕様)を購入した年齢層で最も多いのは20代で、約4分の1を占めるという。エンジン仕様もベース価格は約319万円からと決して安くはないのだが、それでも残価設定ローンを組むと、月々の支払いは上級車種(=シビック)でもそれほど差が大きくないということで、こちらを選ぶユーザーが多いのだそうだ。
もうひとつデザインについて付け加えると、新型シビックが顧客ターゲットとして想定した、Z世代ど真ん中にあたる筆者の息子(25歳)に新旧シビックの写真を見せたら、圧倒的に新型シビックのほうがいいという。先代のシビックはどうもごてごてしているように見えるらしい。われわれの若い頃とはクルマの買い方も変わっているし、自分のものさしでデザインを判断してはいけないのだと感じ入った今回の取材だった。
(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=本田技研工業、鶴原吉郎<オートインサイト>/編集=堀田剛資)
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鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。
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