ジドーシャで再生可能エネルギーの活用を推進! EVと電力網をつなぐVGI普及の条件
2022.01.31 デイリーコラム不使用時のEVを蓄電池として活用
日産自動車が、福島県浪江町で電気自動車(EV)を使ったエネルギーマネジメントシステム(EMS)の実用化検証を開始した。EVの充放電を自律的に行う制御システムを用いて、再生可能エネルギーに由来する電力の効率的な活用を実現するというものだ。
脱炭素社会を目指すうえで再エネの利用拡大は大命題だが、太陽光や風力を用いた発電では、電力供給が安定しない。そのため、発電量が多いときに電気をためおける蓄電システムが必須であり、その蓄電池としてEVが注目されていた。EVは移動体だが、ある調査では「ならせば一日の95%は駐車場にいる」という。そこで、不使用時のEVを定置型蓄電システムのように活用するべく、いくつもの実証実験が行われてきた。
EVと電力系統(Grid)をつないで電力を融通し合う「V2G」(Vehicle to Grid)や、EVから家庭内に電力を供給する「V2H」(Vehicle to Home)などの用語は、そろそろ市民権を得たと言ってよさそうだ。また、電力の流れを需要と供給の双方向で制御する「スマートグリッド」(Smart Grid、次世代電力網)も、さまざまなメディアで取り上げられている。こちらは自動車ではなく、電力の文脈で頻繁に登場する用語だ。
本稿で紹介する日産と浪江町の取り組みは「VGI」(Vehicle Grid Integration)だ。VGIはV2GとV1G(系統電力からEVへの充電)を包含する単語で、車両と電力網を統合的に扱うという意味では、スマートグリッドにも近い。このVGIについて、米カリフォルニア州ではEPRI(米国電力中央研究所)を交えたVGIプラットフォームの構築が検討され、欧州でも話題に上っているが、日本ではVGIと銘打った取り組みは多くない。ただ、先述したV2Gも含めれば相当数のプロジェクトが動いていることになり、決して出遅れているわけではない。
日産と浪江町の実用化検証では、町の商業施設「道の駅なみえ」が保有する再エネ用発電設備、日産の充放電制御システムを搭載したPCS(パワーコントロールシステム)、そして浪江町の公用車である「日産リーフ」5台を使う。
需要と供給の双方を知ることで効率化を推進
PCSには太陽光、風力、水素燃料電池の発電量と、商業施設の電力需要のデータが集まるほか、EV 5台のバッテリー残量と走行距離や出発時刻などの使用パターンのデータも集まり、それらの情報をもとに充放電を行う車両を決定する。需要と供給の双方を統合的に制御すれば全体最適を目指すことができ、商業施設では電力需要のピークカットやコスト削減につながり、公用車のEVは動力源を100%再エネにできるという。
今回は発電施設もEVも浪江町の管理下にあるため、データを共用しやすく、需給調整の指示にも従うわけだが、そのあとに期待するのはやはり実用化、より大きな規模での社会実装だ。そのときは技術以外の課題と向き合うことになる。最大の課題は、おそらくデータの取り扱いだ。
VGIは需要サイドと供給サイドのデータがそろってこそ意味を成す。バッテリー残量や走行距離などの情報をリアルタイムで取得、共有することは果たして可能か? また、車両の位置情報取得などは個人情報に抵触する可能性がある。電力供給がひっ迫した際にはEVに放電を依頼するわけだが、それにはバッテリー残量と位置情報がひもづいていなければならず、取り扱いのルールは複雑になりそうだ。
VGI内の需給バランスも問題だ。再エネの発電量とEVの蓄電容量に極端な差があれば、いずれか一方が能力を持て余すことになる。EVのオーナーにしても、せっかく自分のクルマを提供しても電力安定化に貢献している実感がなく、大した恩恵も受けられなければ意義を見いだせない。参加者にメリットがなければVGIからの離脱につながるだろう。
現実的なのは、コントローラブルな構成員によるネットワーキングではないか。浪江町のようにすべて町営であれば最適化を追求できるし、宅配便や郵便車など限られたエリアで使用し、かつ走行状況を把握できる商用車にも向いている。離島のレンタカーやシェアカーも同様にエリア限定で、車両の位置情報等も把握しやすいので相性がよさそうだ。
そうやって、実現可能なところで先進的な事例としてデータを積み上げていくことが、社会受容性の向上につながり得る。まずは浪江町でどういった知見が得られ、次の一手をどう考えるべきなのか、実用化検証の成果発表を待ちたい。
(文=林 愛子/写真=日産自動車/編集=堀田剛資)

林 愛子
技術ジャーナリスト 東京理科大学理学部卒、事業構想大学院大学修了(事業構想修士)。先進サイエンス領域を中心に取材・原稿執筆を行っており、2006年の日経BP社『ECO JAPAN』の立ち上げ以降、環境問題やエコカーの分野にも活躍の幅を広げている。株式会社サイエンスデザイン代表。
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