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アストンマーティンDBX707(4WD/9AT)

“最後の戦い”の幕が上がる 2022.04.13 試乗記 西川 淳 英アストンマーティンのSUV「DBX」に、最高出力707PSの、その名も「DBX707」が登場。エンジンもシャシーも電子制御も鍛え上げたサラブレッドの高性能版は、英国のスポーツカーブランドの手になるものにふさわしい、操る喜びに満ちた一台に仕上がっていた。
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似て非なる存在

SUVがサルーンの代役を務め始めた頃、誰が“スーパーSUV”なるカテゴリーが誕生することを予期しただろうか。よくよく振り返ってみれば、BMWがまるでサルーンのように走る「X5」を生み出した瞬間から、こうなることは必然だったのかもしれない。そして、それはポルシェが「カイエン」をヒットさせたことで確定した。

高性能なのにファミリーカーとして使え、ステータスもとびきりに高い。スーパーSUVはある意味、スーパーカーに代わるニューヒーローだ。

そんなスーパーSUV界において、異彩を放つ存在がアストンマーティンDBXだろう。なにしろ、巨大グループ内でプラットフォームを共有し、大きな利益を上げることが高級SUVの常識であるのに対し、DBXはほとんどがオリジナル設計である。基本のパワートレインこそメルセデスAMGと共有するというものの、メルセデスはもちろん他のブランドともまるで関係のない専用設計の車体骨格を持つ。

それゆえDBXは、SUV離れしたドライブフィールを持ち合わせていた。その乗り味はほかのどのSUVとも違っている。どんなに高性能なSUVであっても、そこにはどこか“ワンサイズ上のシューズ”を履いている感覚があった。モノと車速域によっては一体感を覚える場合もあるが、街乗り領域においてはその大きさをいやが応でも感じてしまう。むしろ、大きさを感じさせることがかえってドライバーや乗員を安心させる、というのが大型SUVの魅力でもあった。ところがDBXにはそれがない。大きさや押し出しの強さ、つまり「どうだ、オレは強いぞ」と思わせるようなタフさを乗り手に感じさせないという点で、ユニークな存在である。

そんなDBXに高性能版が追加された。DBX707。3ケタの数字は最高出力を表している。SUVでオーバー700PSというと、「ジープ・グランドチェロキー トラックホーク」の710PSを思い出す読者もいらっしゃることだろう。けれどもDBXにはSUV離れした運動神経が備わっている。それゆえ事実上、そしてあくまでも現時点でDBX707は、世界最強のスーパーSUVだと言っていい。

アストンマーティン初のSUV「DBX」の高性能版として、2022年2月に発表された「DBX707」。高出力のエンジンと、独自のチューニングが施されたシャシーやドライブトレインが特徴だ。
アストンマーティン初のSUV「DBX」の高性能版として、2022年2月に発表された「DBX707」。高出力のエンジンと、独自のチューニングが施されたシャシーやドライブトレインが特徴だ。拡大
インテリアでは、ドライブモードのセレクトスイッチを備えた新設計のセンターコンソールが特徴。トリムや装飾類など、各部の仕様はオーダーメイドプログラム「Q by Aston Martin」によって大幅にパーソナライズできる。
インテリアでは、ドライブモードのセレクトスイッチを備えた新設計のセンターコンソールが特徴。トリムや装飾類など、各部の仕様はオーダーメイドプログラム「Q by Aston Martin」によって大幅にパーソナライズできる。拡大
多くの高性能SUVが、グループ内の他のモデルとプラットフォームを共有しているのに対し、「DBX」のプラットフォームは同車専用のものとなっている。
多くの高性能SUVが、グループ内の他のモデルとプラットフォームを共有しているのに対し、「DBX」のプラットフォームは同車専用のものとなっている。拡大
エクステリアでは、大型化されたフロントグリルや新形状のエアインテーク、ブレーキ冷却ダクト、フロントスプリッター、そして新設計のデイタイムランニングライトなどが特徴。ダーククロームの装飾パーツも目を引く。
エクステリアでは、大型化されたフロントグリルや新形状のエアインテーク、ブレーキ冷却ダクト、フロントスプリッター、そして新設計のデイタイムランニングライトなどが特徴。ダーククロームの装飾パーツも目を引く。拡大
空力性能についても、専用のエアロデバイスが追加されたサイドシルやリアバンパー、ルーフスポイラーなどで強化。4本出しのマフラーも、ベースモデルとの違いとなっている。
空力性能についても、専用のエアロデバイスが追加されたサイドシルやリアバンパー、ルーフスポイラーなどで強化。4本出しのマフラーも、ベースモデルとの違いとなっている。拡大
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挙げればきりがない注目点

DBX707の国際試乗会はイタリア・サルデーニャ島で開催された。インプレッションを報告する前に、車両概要をあらためて簡単に紹介しておこう。

まず注目すべきは最高出力707PS、最大トルク900N・mを発生するパワートレインである。「M176/M177/M178」の系統に属する、メルセデスAMG製4リッターV8ツインターボという点ではスタンダードのDBXと同じだ。けれどもパワー&トルクの最大値はそれぞれ+157PS、+200N・mである。この数値は「M177」系ではもちろん、「M178」系を含めても最高のスペックだ。それどころか「メルセデスAMG GTブラックシリーズ」や「アストンマーティン・ヴァルハラ」用の「M178 LS2」レベルにまで達している。組み合わされるトランスミッションには、より効率的でダイレクトな変速を可能とし、しかも膨大なトルクに耐えうるトルコンレスの湿式多板クラッチ式9段ATが採用された。メルセデスAMGで言うところの「スピードシフトMCT」である。

シャシー&サスペンション系も進化した。エアサスペンションシステムはボディーコントロール重視で再設定されており、ヒーブやピッチ、ロールのコントロールをいっそうタイトに仕立てた。もちろん種々の電子制御システムをリセッティングしたほか、ブレーキパフォーマンスも大幅に引き上げている。リアトラックもワイドだ。そして、なによりも重要なことに、動的に理想的な52:48という前後重量配分を実現している。フロントが55%以上となることが通例のSUVジャンルにあって、異例のバランスだと言っていい。

ボールベアリング式のターボチャージャーを採用するとともに、各部に独自のキャリブレーションが施された4リッターV8ツインターボエンジン。ベースモデルから劇的な出力向上を果たした。
ボールベアリング式のターボチャージャーを採用するとともに、各部に独自のキャリブレーションが施された4リッターV8ツインターボエンジン。ベースモデルから劇的な出力向上を果たした。拡大
足元の仕様は前:285/40YR22、後ろ:325/35YR22サイズの「ピレリPゼロ」と、鍛造アルミホイールの組み合わせ。オプションで23インチサイズのホイール/タイヤセットも用意される。
足元の仕様は前:285/40YR22、後ろ:325/35YR22サイズの「ピレリPゼロ」と、鍛造アルミホイールの組み合わせ。オプションで23インチサイズのホイール/タイヤセットも用意される。拡大
ブレーキには前にφ420mm、後ろにφ390mmのカーボンセラミックディスクを採用し、合計で40.5kgもバネ下重量を軽減。フロントには6ピストンのキャリパーを組み合わせる。
ブレーキには前にφ420mm、後ろにφ390mmのカーボンセラミックディスクを採用し、合計で40.5kgもバネ下重量を軽減。フロントには6ピストンのキャリパーを組み合わせる。拡大
900N・mという大トルクに対応するべく、電子制御デファレンシャルも大幅に強化。最終減速比をベースモデルの3.07から3.27に変更し、加速性能とレスポンスを高めている。
900N・mという大トルクに対応するべく、電子制御デファレンシャルも大幅に強化。最終減速比をベースモデルの3.07から3.27に変更し、加速性能とレスポンスを高めている。拡大

減速すらも楽しい

さて、その走りはどうだったか。まずは拍子抜けするほど扱いやすいパワートレインに驚いた。大きなターボチャージャーの存在をまるで感じさせない、スムーズな加速フィールである。ターボエンジンに特有の、爆発的に力を吐き出すようなフィールとは無縁だ。加速はあくまでも洗練されており、荒々しさを覚えることはない。あまりにスムーズすぎて、速さを感じないほどに速度感に乏しいのだ。けれども、流れる景色や達する速度を見れば、明らかに速い。ダイレクト感あふれる変速フィールだけが、唯一、速さを感じさせる要素だった。

動的な前後重量バランスに優れていることも奏功しているのだろう。ボディーは強く、サスペンションはよく動き、スタンダードモデル以上の一体感がある。ハンドリングはまさにオン・ザ・レールフィールで、クセはなく、すぐにリズミカルなコーナリングを楽しむことができた。しかもけっこうなハイペースで!

しかし、こうした加速やハンドリングよりも感激したのが制動フィールだった。よく利くことはもちろんのこと、減速フィールがとてつもなく素晴らしい。ペダルを踏むと同時に速度の乗った車体を速やかに沈み込ませ、ドライバーに重さを全く感じさせずに減速させる。減速が楽しいと思えるSUVなど、DBX707が初めてだ。

707を経験する前は、スタンダードでも十分に素晴らしいのに、あえて高いモデルなど買わなくてもいいんじゃないか、と思っていた。スタイリングもちょっと変わっただけだし……。けれども今となってはそうとも言えなくなってしまっている。買える/買えないは別にして、このパフォーマンスを知ってしまうと、おそらくノーマルではもう物足りなく思ってしまうに違いない。

DBXが属するセグメントでは、これからエンジン付きスーパーSUVによるパワーウォーズが繰り広げられる。“最後の戦い”が始まるのだ。2022年中にランボルギーニは「ウルス」をマイナーチェンジするし、年末にはフェラーリが待望の「プロサングエ」をデビューさせる。さらなるハイパーSUV誕生を前にアストンマーティンはDBXを存分にアピールしておく必要があった。今のところ、それは成功していると思うし、この運動性能の高さはしばらくDBXのアドバンテージになることだろう。

(文=西川 淳/写真=アストンマーティン/編集=堀田剛資)

足まわりではエアサスペンションの改良に加え、48VのeARC(電子制御式アンチロールコントロール)についても制御を最適化。ボディーコントロール性と操舵フィールの改善、運動性能の向上を図っている。
足まわりではエアサスペンションの改良に加え、48VのeARC(電子制御式アンチロールコントロール)についても制御を最適化。ボディーコントロール性と操舵フィールの改善、運動性能の向上を図っている。拡大
センターコンソールに設置されたドライブモードセレクター。これにより、タッチスクリーンでサブメニューを開かなくとも、ドライブモードのセットアップが可能となった。
センターコンソールに設置されたドライブモードセレクター。これにより、タッチスクリーンでサブメニューを開かなくとも、ドライブモードのセットアップが可能となった。拡大
ドライブモードに関しては、「GT Sport」「Sport+」を選択すると「Race Start」(ローンチコントロール)が使用できるようになっている。
ドライブモードに関しては、「GT Sport」「Sport+」を選択すると「Race Start」(ローンチコントロール)が使用できるようになっている。拡大
「DBX707」をドライブする筆者。シートは「スポーツシート」が標準だが、無償で「コンフォートシート」も選択可能。表皮はレザーとアルカンターラの組み合わせがスタンダードとなる。
「DBX707」をドライブする筆者。シートは「スポーツシート」が標準だが、無償で「コンフォートシート」も選択可能。表皮はレザーとアルカンターラの組み合わせがスタンダードとなる。拡大
SUV離れしたハンドリングとフットワークに磨きを掛けつつ、動力性能を大幅に高めた「DBX707」。これから登場するライバルとどのような戦いを繰り広げるか。“スーパーSUV”のパワーウォーズに注目である。
SUV離れしたハンドリングとフットワークに磨きを掛けつつ、動力性能を大幅に高めた「DBX707」。これから登場するライバルとどのような戦いを繰り広げるか。“スーパーSUV”のパワーウォーズに注目である。拡大

テスト車のデータ

アストンマーティンDBX707

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5039×1998×1680mm
ホイールベース:3060mm
車重:2245kg(DIN、空荷重量)
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:707PS(520kW)/6000rpm
最大トルク:900N・m(91.8kgf・m)/4500rpm
タイヤ:(前)285/40YR22/(後)325/35YR22(ピレリPゼロ)
燃費:14.2リッター/100km(約7.0km/リッター WLTPモード)
価格:3119万5000円/テスト車=--円
オプション装備:--

テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:--km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

アストンマーティンDBX707
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アストンマーティンDBX707(4WD/9AT)【海外試乗記】の画像拡大
 
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西川 淳

西川 淳

永遠のスーパーカー少年を自負する、京都在住の自動車ライター。精密機械工学部出身で、産業から経済、歴史、文化、工学まで俯瞰(ふかん)して自動車を眺めることを理想とする。得意なジャンルは、高額車やスポーツカー、輸入車、クラシックカーといった趣味の領域。

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