アストンマーティンDBX707(4WD/9AT)
スピードで勝負 2025.01.25 試乗記 最高出力707PS、最大トルク900N・mのメルセデスAMG製4リッターV8ツインターボを搭載する、アストンマーティンのハイパフォーマンスSUV「DBX707」がマイナーチェンジ。最新のインフォテインメントシステムを組み込み大きくリニューアルされたインテリアと、熟成した走りのハーモニーを味わった。エクステリアはあえてそのまま
アストンマーティンのカタログモデルは、2023年5月に2+2クーペが「DB11」から「DB12」に世代交代されて、2座ピュアスポーツの「ヴァンテージ」(現行型は2017年秋に世界初公開)も、2024年2月に「これはもはやフルモデルチェンジでは?」といいたくなるほどの大幅改良が実施された。そして、旗艦スポーツの「ヴァンキッシュ」も2024年9月に新型がベールを脱いだ。つまり、アストンのスポーツカーはわずか1年数カ月の間に、3機種すべてが新世代にアップデートされたわけだ。
しかし、現在のアストンでの売れ筋は圧倒的にSUVのDBXだそうである。2019年11月に世界デビューしたDBXは、今やアストン全体の販売台数の半分以上を占めるとか。にもかかわらず……というか、逆にだからこそか、DBXだけは約5年前からあまり大きくは変わっていない。いくつかの限定車を例外とすれば、ニュースといえば、2022年2月にDBX707を追加しただけだ。
しかし、アストンのような超高級ブランドが、最大の売れ筋商品を古いまま放置するわけもない。じつはDBXもほかのアストン製スポーツカーと同様に、2024年4月に大幅改良の手が入っている。エクステリアにはあえてほとんど手を入れなかったこともあってか、筋金入りのアストンファンの間以外では、大きな話題になっていないのが正直なところだ。
というわけで、今回の試乗車が、その大幅改良を受けた最新のDBX707である。DBX707とはそれ以前からあったDBXの高性能版で、メルセデスAMG製の4リッターV8ツインターボエンジンの最高出力を、その名のとおりの707PS(それ以前の素のDBXは550PS)に、最大トルクを900N・m(同じく700N・m)に引き上げて、エンジン同様にAMGが供給する9段ATも通常のトルコン式から湿式多板クラッチ式の、AMG流にいえば「スピードシフトMCT」に変更。同時にギアレシオもローギアード化して、サスペンションやパワステ、リアの電子制御デフも専用チューンとなっている。
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大幅刷新されたインテリア
さらにいうと、エクステリアに冷却効率と空力を改善させる専用ディテールの数々がちりばめられているのも、707ならではだ。世界屈指のハイエンドSUVであるDBXでは、よりハイグレードな707に人気が集まるのも必然で、素のDBXはいつしか生産終了。改良型DBXには707しか用意されない。今回エクステリアに手が入らなかったのも、同じDBXでも707にかぎれば、(改良時点では)デビューから2年強しか経過していなかったことも理由のひとつだろう。
というわけで、今回の改良のキモはもっぱらインテリアにある。ドアを開けると、外板色に呼応するように鮮やかなレッドの内装カラーに圧倒される。さすがにこのクラスになると、このように“全身真っ赤”なんて大胆なオーダーにも対応可能なわけだ。試乗車にあしらわれていたピアノブラックパネルも新たに用意された素材のひとつだそうだが、ほかのウッド素材やカーボンも当然選べる。
新しいインテリアでも、左右対称のウイング風ダッシュボードデザインは継承されるが、センターディスプレイはタッチ式となり、メーターパネルは大型化された。センターコンソールも刷新されて、センターディスプレイの上方に配されていたプッシュ式シフトセレクターは、DB12やヴァンテージ、ヴァンキッシュに準じたセンターコンソールのレバー式となった。センターコンソールパネルはDBX専用デザインだが、シフトセレクターをはじめとしたドライブモードその他のスイッチ配列も、アストンの最新スポーツカー群のそれに準じる。
2枚の液晶パネルについては、ドライバー眼前の12.3インチパネルは最新のアストン全車で共通だが、タッチ式のセンターディスプレイが10.25インチになるのは、DBX707とヴァンキッシュだけ。DB12とヴァンテージのそれはこれより1.5インチ小さい。
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運転環境はスポーツカーそのもの
今回の改良では、ディスプレイがタッチ式になっただけでなく、内部が自社製の電子システム(従来はメルセデス製)に全面的に敷き直されているのも、ほかのアストンと同じ。見た目にはインテリアの軽いデザイン変更にしか見えないDBXだが、その実態はマイナーチェンジといえる域を超えている。
以前はダッシュボード最上段のど真ん中に位置していたエンジンスタートスイッチも、今はシフトセレクターのすぐ前方の、ドライブモード選択ダイヤルの中央に移された。そのスイッチを押すと、AMG製のV8ツインターボはズルンと静かに始動する。かつてはここでズッバーンと、ひと吹かしをかますのがこの種のスーパースポーツ系のお約束だったが、排ガスと騒音が厳しく規制される今は、そんなお遊びをしている場合でもないのだろう。
相変わらずDBX707は、コックピット空間も走りもタイトそのものだ。各操作系がギュッと凝縮された運転環境はSUVというよりスポーツカーのそれだし、乗り味にもSUVらしからぬ低重心感が如実で、その動きにはまるで無駄がない。サスペンションがソフト気味になる「GT」モードでも、それこそ交差点ですら、水平姿勢のまま、まるでコンパクトスポーツのごとくスパッと向きを変える。
背高グルマでありながら、この全身にただよわせる“スポーツカー”のオーラは、同じく骨格から専用設計の「フェラーリ・プロサングエ」と双璧といっていい。同じスーパースポーツカーブランドのSUVでも、グループ内で広く使われるプラットフォームを土台とする「ランボルギーニ・ウルス」や「ポルシェ・カイエン」とは一線を画す。
いっぽうで、後席は小さなウィンドウ面積のせいで閉所感はあるが、実際はかなり広い。ドア構造もサイドシルやリアホイールアーチをきっちりカバーする構造だし、そのドア開口部にも敷居がないフラット設計で乗降性も良好。こうしたSUVとしても良心的なパッケージレイアウトは、DBXの隠れた美点である。
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古典的だけど古臭くはない
走行メカニズムについても、エクステリアデザイン同様に、変更点はとくにアナウンスされていない。しかし、個人的に約2年半ぶりのお手合わせとなったDBX707は、前回より明らかに熟成された味わいだった。
なかでもデフォルトにあたるGTモードの熟成感は如実だ。当時の乗り心地はしなやかさの向こう側に、23インチタイヤ特有の硬さを伝えてきたものだが、最新のDBX707の路面タッチは明らかにまろやかになった。
いかにもイギリス的な舗装がヒビ割れた荒れたワインディングロードでも、ぴたりと吸いつくロードホールディングは絶品に近い。にもかかわらず、上屋の無駄な動きのないタイト感はそのままで、ロールをほとんど感じさせず、この巨体がくるくると曲がっていく。
ドライブモードをさらに「Sport」、そして「Sport+」と引き上げていく。ステアリング反応がより鋭く、DBX707は体感的にどんどん軽く、コンパクトになっていく。路面からアタリはそのぶん、いくらか硬質になるが、基本的なしなやかさは失われず、不快に揺すられるようなことはない。
純エンジンSUVとしてはプロサングエに次ぐ最高出力と世界トップの最大トルクを供出する4リッターV8ツインターボもすこぶるパワフル。低回転からもりもりとトルクを提供して、これほどのハイチューンながら過給ラグもほとんど感じさせない。ちょっと荒っぽい演出の入った英国車的サウンドなど、アストンはこのドイツ産エンジンをすっかりモノにした感がある。
また、このアストンSUVには、最新ハイエンドSUVのお約束である4輪操舵は備わらない。タイトコーナーでは操舵量が少し多めなのは否定できないが、中高年の筆者にはこっちのほうが肌に合う。スピードは今も超一級品で、古典的だけど古臭くはない……と思ったら、DBXはアストンでは古参の部類に入りつつあるも、ハイエンドSUVリーグの競合車であるウルスや現行カイエンより新しい。今のアストンは展開が速いメーカーなのだ。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一/車両協力=アストンマーティン ジャパン)
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テスト車のデータ
アストンマーティンDBX707
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5039×1998×1680mm
ホイールベース:3060mm
車重:2245kg
駆動方式:4WD
エンジン:4リッターV8 DOHC 32バルブ ツインターボ
トランスミッション:9段AT
最高出力:707PS(520kW)/6000rpm
最大トルク:900N・m(91.8kgf・m)/2750-4500rpm
タイヤ:(前)285/35ZR23 107Y/(後)325/30ZR23 109Y(ピレリPゼロ)
燃費:14.2リッター/100km(約7.0km/リッター、欧州複合モード)
価格:3290万円/テスト車=--円
オプション装備:インフォテインメント<Bowers & Wilkinsオーディオシステム>/ベンチレーテッドシート<フロント&リア>/Qペイント<スペシャル>/アコースティックプライバシーガラス<リア>/ヒーター付きスポーツステアリングホイール/テールランプ<スモーク>/エクステリアパック<グロス2×2ツイルカーボンファイバーアッパー>/エクステリアパック<DBX707カーボンファイバーロワー>/トウバー<電動>/インテリア<インスパイアスポーツ モノトーン>/傘&傘ホルダー/23インチ鍛造アルミホイール<ブラックテクスチャード>
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:8033km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(5)/山岳路(3)
テスト距離:489.2km
使用燃料:88.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:5.5km/リッター(満タン法)/5.7km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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