第34回:一艇6億円の「LY650」 直撃! レクサスはヨットにどれだけ本気なのか?
2022.05.10 小沢コージの勢いまかせ!! リターンズ問答無用のリッチマンオーラ
不躾(ぶしつけ)オザワ、ネットで話題の「レクサスLY650」についに乗ることができました。といってもクルマじゃなくて船のことね。名前にしろ「LY」はレクサス・ヨットの略で、「650」は65フィート=19.94mの船体ってな意味。
聞けばレクサスは2017年に「レクサス・スポーツヨットコンセプト」を発表し、2019年にLY650を発売。価格は標準仕様だと約4億5000万円で、今回のカスタム仕様だと約6億円! 完全にクルマの領域を超え、不動産で言う億ションレベルの富裕層向け商品なのであります。
ソイツがやっと日本でも見られるようになったそうで、発売から3年たってようやっとってことは、どんだけ日本市場が超富裕層ビジネスに疎いのか分かる気もしますが、実物はなかなかにすごい。
問答無用のリッチマンオーラを放っており、スポーツカーのごとくなまめかしいリアフォルムをはじめ、ふんだんに使われた鏡面仕上げのユーカリウッドや上質な本革&皮調マテリアルが確かにクルマ以上にレクサスしてます。自慢のカッパー色ボディーや凝った船首のつくりはほかに見たことがない色気を放ってるし、よく見るとボディー側面にもドドーンと「L」のモチーフが!
全長20m弱のロングボディーにはキャビンや階層構造のデッキのほか、3つの客室を備えていて、それぞれが独立したベッドルームとシャワールーム、トイレを持ち、しつらえは高級ホテル並み。床や机の脚などのそこらじゅうに象徴的な「L」マークがあしらわれ、まさしく♪ うーん一回寝てみたい! と思わせるつくり。
なぜアメリカ製なのか?
だが、オザワが本当に知りたかったのはそこじゃない。気になっているのはレクサスはこの富裕層向けヨットにどこまで本気なのか? ということです。
キャッチコピーによればLY650は「『LS』『LX』『LC』に続く第4のフラッグシップ」であり「ラグジュアリーライフスタイルブランドとして、海においてもお客さまの期待を超え、感性を刺激する唯一無二の体験をもたらすべく、最新のテクノロジーと匠(たくみ)の技を融合」とある。結局のところLY650は、自動車ブランドとしてのレクサスを成長させるための象徴であり、ある種のプロパガンダなのか? それとも本気でヨットを売って第2のビジネスにしたいのか? なによりいまさら後発でこんな超富裕層ビジネスに突入してどんだけ勝算があるのか?
よって現場にいた長年トヨタのマリン事業部を担当する大梛 豊さんとレクサス広報の中澤次郎さんを直撃することにしました。
――聞けば設計はトヨタマリンがやってるそうですが、イタリアのヨット専門会社もサポートしてるそうだし、実際の製造は北米のマーキー社が行い、2機の12.8リッター大型ディーゼルエンジンはボルボ製。そう簡単ではないんでしょうけど、オールメイドインジャパンではない。レクサスは一体この富裕層向けヨットビジネスにどこまで本気なんですか?
中澤:レクサスは驚きと感動の体験を提供し続けるブランドとして、トップの豊田章男も含め、クルマにとどまらないモビリティーを提供したいということでボートを始めました。
――クルマビジネスの一環としてですか?
中澤:ブランディングもそうですし、ラグジュアリー志向のお客さまに、いかに新しいライフスタイルを提供していけるかということです。
――実際に売れてますか?
中澤:今までグローバルで4艇ほど納艇させていただいています。
――それは予想以上?
中澤:はい。今はコロナウイルスの影響で遅れていますが、われわれとしては販売再開を検討中です。
――なぜ日本ではなく、アメリカでつくるんですか?
大梛:トヨタヨットは確かに日本でつくっていますが、65フィートのような大きい船体は無理です。さらに、この価格帯のヨットはメインがアメリカ市場ということでマーキー社に依頼しました。
海でもレクサスならではの走りを
――確かに、乗ってみるとフォルムやしつらえにレクサスのオリジナリティーを予想以上に感じました。申し訳ないですが、最初はどこかの海外製クルーザーにレクサスバッジが貼ってあるぐらいだったらどうしようと思っていたので。
大梛:それはあり得ません。トヨタは1997年にマリンビジネスに参入してから25年がたっていてノウハウがあります。骨格にもデザインにもレクサスのアイデンティティーが入っていますし、走りもレクサスの味を大切にしています。
――ヨットの世界でも“走り”って言うんですか?
大梛:そうです。私がこのヨットをデザインしたわけではないですが、船体を見た瞬間、レクサスらしさが分かりましたし、走りを体感したときにもこれは面白い船だと。このクラスで1000馬力級のエンジンをダブルで搭載し、スピードが35ノット出せるのはすごいし、回頭性も乗り心地もよく、そのために骨格にカーボンを使い、キャビンを中央に寄せ、重心を下げています。それによりこの走りが実現できています。
――低重心に高剛性ってほとんどコンセプトはクルマですね(笑)。しかもこれまた章男社長も走りを味見されているそうで。
大梛:似てると思います(笑)。デザインは今までの船の常識と若干違いますし、キャビンを見てもガラスサイズが大きい。おかげで視認性も高いし、非常に開放的です。
――しかしエンジンはなぜボルボ製なんでしょう?
大梛:やはりトヨタは12リッタークラスのエンジンはつくってませんし、海のエンジンは特殊なので。
――そこはまだ早いと。将来的には?
大梛:私にそこまでは言えませんが、つくりたいと思ってはいるかと。
――つまりレクサスはヨットビジネスに本気だと。
大梛:はい。そう言っていいと思います。
正直、レクサスヨットは始まったばかりだし、大風呂敷を広げるのはニッポンメーカーらしくない。だが、実物を見て関係者に聞き、単なるレクサスのバッジを付けた豪華船ではないということはヒシヒシと伝わってきます。
なにより今のところ日本のモノづくりは基本「良品廉価」ビジネスばかり。しかし今後、その点で中国や韓国、アセアンにさらに迫られ、追い越されていくことは確実。つまりある種の「高くてイイもの」であり、高付加価値物づくりで勝負するのは悲願というか、当然のニッポンが向かうべき道だ。オザワとしては、ぜひともレクサスヨットが「ホンダジェット」並みに売れてくれる日を心待ちにしたいものであります!
(文と写真=小沢コージ/編集=藤沢 勝)

小沢 コージ
神奈川県横浜市出身。某私立大学を卒業し、某自動車メーカーに就職。半年後に辞め、自動車専門誌『NAVI』の編集部員を経て、現在フリーの自動車ジャーナリストとして活躍中。ロンドン五輪で好成績をあげた「トビウオジャパン」27人が語る『つながる心 ひとりじゃない、チームだから戦えた』(集英社)に携わる。 ホームページ:『小沢コージでDON!』