アウディQ4 40 e-tron Sライン 欧州仕様車(RWD)
ひたひたと新時代 2022.05.27 試乗記 日本での正式発売に先駆け、アウディの新型電気自動車(EV)「Q4 40 e-tron」の欧州仕様車に試乗。アウディがコンパクトSUVセグメントに導入する初のEVとしてはもちろんのこと、新しいデザイン言語を用いた次世代モデルの指針となる内外装にも注目である。未来っぽい表情
Q4 e-tronは、SUVの「e-tron」、4ドアクーペの「e-tron GT」に続く、アウディにとって初となるコンパクトサイズのEV。アウディはEVのラインナップを順調に拡充している。バリエーションが充実するようになっただけでなくEVの売り上げも伸ばしており、2021年はEU、ノルウェー、アイスランドの合計で対前年比プラス49.8%となる4万2991台を販売した。アウディの電動化戦略は円滑に進んでいると言っていいだろう。
で、コンパクトサイズのEVと書いておいてアレですが、日本の路上で見るアウディQ4 e-tronの欧州仕様車は、そんなに小さくは見えなかった。全長4588mmは「アウディQ3」の全長4520mmをわずかながら上回るし、2764mmというホイールベースは「アウディQ5」の2825mmに迫る。
全長との割合でいくとホイールベースが長いけれど、これは基本骨格にEV専用のプラットフォームであるMEB(モジュラー・エレクトリックドライブ・マトリクス)を採用しているから。フロントにエンジンを置く必要がなく、ドライバーより前方は主にクラッシャブルゾーンとしての役割が求められ、結果として全長に比してホイールベースを長くとることができる。つまり、室内を広くできるのだ。資料によれば、後席のレッグスペースは旗艦SUVの「アウディQ7」にも匹敵するという。
つまり、エンジンをモーターに取っ替えただけのお手軽EVではなく、EVの利点を生かしたパッケージングになっているというのがこのクルマの特徴だ。同時に、デザインも新しい世代のデザイン言語へと移行した。
アウディのSUV「Qモデル」に共通するアイコンである八角形のシングルフレームグリルは、もう空気を取り入れてエンジンを冷やす役割は求められないので1枚のパネルとなり、格子模様が描かれた。そこに量販車としては世界初というデジタルデイタイムランニングライトが組み合わされて、未来っぽいというか、少なくともいままでのクルマとは趣を異にする表情となった。ちなみにこのデジタルデイタイムランニングライトは、どの部分を光らせるかを4通りから選ぶことが可能。気分に応じてカラコンの色を選ぶみたいで新鮮だった。
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新しい内装デザインにも注目
といった具合に顔に注目してしまいがちであるけれど、本当に新しいのは真横からの眺めだ。フロントのオーバーハングが短く、一方でホイールベースがたっぷり確保されている。これが内燃機関車にはできない、EVならではのプロポーションだ。
真横から見たフォルムは空気を切り裂くかのようなくさび形で、前後の角張ったフェンダーが、いかにも4輪が踏ん張りそうな雰囲気を伝える。筆者の目には、超合金製のかっちょいいダックスフントのように映った。
乗り込むと、インテリアの造形もこれまでのアウディとは一線を画していることがわかる。左ハンドルなのはヨーロッパ仕様であるからで、2022年後半の導入を予定している日本仕様はもちろん右ハンドルだ。不勉強で知らなかったけれど、実はウクライナはEV用のワイヤーハーネスの重要な生産拠点のひとつになっており、ロシアの軍事侵攻によってアウディのEVの生産も遅れる可能性があるとのこと。ロシアによる戦争は、こんなところにも影響を与えている。
閑話休題。インテリアが新しくなったと感じたのは、まず上下がフラットになったステアリングホイールが真っ先に目に入るから。続いてドライバーズシートに腰掛けると、シフトセレクターやハザードランプのスイッチが備わるセンターコンソール部分が、これまでとは異なる造形であることに気づく。アウディがフローティングセンターコンソールと呼ぶこの箇所は、その名のとおり浮かんでいるように見え、下部は小物を置くスペースになっている。
そんなフローティングセンターコンソールに位置するスタート/ストップのボタンを押して、システムを起動。最高出力204PSのモーターは無音のまま目覚めた。
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車両の動きがとにかく軽い
走りだして真っ先に感じるのは、ふんわりとした乗り心地の良さだ。走行中、前方にちょっとした路面の不整を見つけて、ショックがくるぞと身構えても、実際の衝撃は予想よりはるかに軽微。だからいい意味で肩透かしを食らう。最近試乗したクルマだと、メルセデス・ベンツの「Sクラス」と同じくらい、路面からの突き上げを上手にいなしている。
おもしろいのは一般道から高速道路に上がると、別の側面を見せることだ。路面からの衝撃をふんわりいなしていた低速での振る舞いから、高速コーナーではさぞしなやかにロールするだろうと思いきや、ロールは最低限で、水平な姿勢を保ってクリアする。
たこ焼きの食レポで、「外カリ、中フワ」みたいなのがあるけれど、このクルマは逆だ。最初にふんわりして、踏ん張る時にしっかりする。ハンドル操作に対してすいすいと素直に向きを変える動きも特徴的で、モーター特有のレスポンスの良さと合わせて、動きが軽い。地球の重力が80%とか90%に減退したように感じる。
このフィーリングは独特だ。重たいエンジンを鼻先にぶら下げる必要がないこと、床下にバッテリーを敷き詰めるので重心が下がること、全長に比してホイールベースが長いことなどの要素があいまって、独特のドライブフィールを伝えるのだろう。
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EUでは10台に1台がEV
最高出力204PSのモーターがもたらす動力性能に不満はなく、発進加速から高速巡航、ちょっとしたスポーツドライビングまで、ドライバーのアクセル操作に気持ちよく応えてくれる。
ステアリングホイールに備わるパドルを操作すると、アクセルペダルをオフにした時の減速G、エンジン車のエンジンブレーキにあたる減速力を3段階で調整できる。いろいろ試した結果、一番強い状態でドライブするのがベストだという結論に至った。この状態だとアクセルペダルからブレーキペダルに踏み変える頻度が激減、ほぼワンペダルでのドライブが可能になる。一度これに慣れると、ブレーキペダルを踏むのがおっくうになるのだ。
ただし、ある程度スピードが乗った状態でいきなりアクセルペダルを全閉にすると前につんのめって同乗者を驚かせるので、「50%→30%→10%」と、じんわりと段階的にアクセルをオフにしていくほうがスムーズだ。ちょっとだけコツが要る。
また、ワンペダルドライブといっても、最終的に停止する段階ではブレーキペダルを踏む必要がある。このあたり、なんとなく止まるのではなくて、最後はドライバーの操作で止まってほしいというアウディの考えが表れているのだろう。
興味深いのが、アウディQ4 e-tronが後輪駆動を採用していることで、随分長くこの仕事をやっているけれど、個人的にアウディの後輪駆動車に乗るのは初めてだった。ワインディングロードで感じた回頭性の良さは、駆動方式も関係しているはずだ。
EVはボンネットの下にエンジンを積む必要がないのだから、前輪駆動のほうが部品点数を少なくすることができ効率的、というFF車の常識は過去のものになる。ただしさすがに最新モデルだけに緻密に電子制御されており、乱暴にアクセルを踏み込んだからといって、後輪が滑るというようなことはない。
欧州自動車工業会の資料を見ると、マルタを除くEU26カ国で2021年に販売された乗用車のうち、9.1%がEVだった。ざっくり10台に1台がEVということで、対前年比でプラス63.1%だからさらに増えることは間違いない。
アウディQ4 e-tronに乗っていると、レイアウトもデザインもドライブフィールも、これからクルマは変わっていくんだな、ということがひしひしと伝わってくる。新しい時代を迎える期待と興奮を、このクルマから感じた。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
アウディQ4 40 e-tron Sライン(欧州仕様車)
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4588×1865×1632mm
ホイールベース:2764mm
車重:2050kg
駆動方式:RWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:204PS(150kW)/--rpm
最大トルク:310N・m(31.6kgf・m)/--rpm
タイヤ:(前)235/45R21 101T /(後)255/40R21 102T(ブリヂストン・トランザECO)
交流電力量消費率:183Wh/km(WLTPモード)
一充電走行距離:486km(WLTPモード)
価格:689万円(日本仕様車)/テスト車=--円
オプション装備:5アームローターデザイン アウディスポーツホイール<フロント8.5J×21、リア9.0J×21>+タイヤ<フロント235/45R21、リア255/40R21>(--円)/マトリクスLEDヘッドライト(--円)/プライバシーガラス(--円)/Sラインインテリア<ブラックレザー/アーティフィシャルレザー>(--円)/アンビエントライティング/アルミニウムルックインテリア(--円)/3分割可倒式シート(--円)/MMIナビゲーションシステム(--円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:2589km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh(車載電費計計測値)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。