アウディQ4 40 e-tron Sライン(RWD)【試乗記】
期待を裏切らない 2022.12.19 試乗記 2026年以降に投入する新型車を、すべて電気自動車(EV)にすると発表しているアウディ。コンパクトSUVセグメントに導入する初のEV「Q4 e-tron」の成否は、そうした脱化石燃料やEV市場におけるアウディの未来を占う試金石にもなりそうだ。注目のその仕上がりやいかに。e-tronが今後の主役に
近所にあるアウディ店の前を通ったら、EVの充電器が新型に変わっていた。以前は普通充電器だったが、今度のものは「アウディ ウルトラチャージャー」といわれる最新モデル。白と青のLEDが派手に輝くこの急速充電器は、単独で150kW、2台同時に充電した場合でも90kWの出力を発生する“超”急速充電器である。
2026年以降に投入する新型車はすべてEVとし、プレミアムEVのナンバーワンブランドを目指すアウディ ジャパンでは、EV第1弾の「e-tron/e-tronスポーツバック」、第2弾の「e-tron GT/RS e-tron GT」を日本に導入し、さらに2022年秋にはコンパクトEVの「Q4 e-tron」を発売した。
これにあわせて、90kW以上の急速充電器を自前で用意するほか、ポルシェやフォルクスワーゲンと組んでPCA(プレミアムチャージングアライアンス)と呼ばれる超急速充電ネットワークを構築するなど、今後販売の主役になるe-tronにかけるアウディ ジャパンの意気込みがビシビシと伝わってくる。
そんなアウディ ジャパンにとって、より幅広い層にアプローチできるQ4 e-tronが最重要モデルであることは確か。しかも、2022年1月に日本で発表してから、積極的なプロモーションを重ねてきた結果、2022年11月の時点で受注数は2000台を超え、2023年の販売分はほぼ売り切れ。場合によっては2024年の納車になるかもしれないという人気ぶりである。
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2つのボディータイプを用意
Q4 e-tronは、フォルクスワーゲン グループが開発するMEB(モジュラーエレクトリフィケーションプラットフォーム)を採用するコンパクトEVであり、SUVタイプのQ4 e-tronとSUVクーペタイプの「Q4スポーツバックe-tron」が用意されている。
日本には、最高出力204PS、最大トルク310N・mの電気モーターをリアアクスルに搭載する「40 e-tron」を導入。アウディというと4WDの「クワトロ」が代名詞で、4WD以外はFWDばかりとなる現在のラインナップにおいて、RWDを採用するこのQ4 40 e-tronは極めてまれな存在といえる。
Q4 e-tronのボディーサイズは、全長4590mmと全幅1865mmは2つのタイプで共通。一方、全高はQ4 e-tronの1630mm(「Sライン」は1615mm)に対し、Q4 スポーツバック e-tronでは15mm低い1615mm(同1600mm)となる。総容量82kWhのバッテリーを前後アクスル間の床下に搭載し、WLTCモードでの航続距離はともに576km。このクラスとしてはトップレベルの長さを誇っている。
今回試乗したのは、SUVスタイルのQ4 40 e-tronのなかでも、スポーティーな内外装が自慢のQ4 40 e-tron Sライン。「ミトスブラック」のカラーでキリリと引き締まって見えるボディーと、ギラギラと光り輝くシングルフレームグリルのコントラストが強い存在感を放つ。フロントマスクの印象の強さは、アウディのなかでもナンバーワンではないだろうか。
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爽快な加速フィール
運転席に座るとアウディらしい、いつもの端正なデザインのコックピットが目の前に広がっている。「MMI」と呼ばれるインフォテインメントのディスプレイは見慣れたものだが、フローティングタイプのセンターコンソールや上下フラットなステアリングホイールなど、新しい試みにより、新鮮な印象を受ける。
その一方で、エアコンのコントロールパネルには物理スイッチを残し、操作性に配慮しているのがうれしいところで、デジタル化と使い勝手をうまくバランスさせているのも、このQ4 e-tronの魅力のひとつといえる。
前置きはこのくらいにして、標準設定のオートモードで走りだすことにする。いまどきのEVらしく、スタートボタンを押さなくても、ブレーキを踏んでシフトスイッチでDレンジやRレンジを選べば発進の準備は完了! ブレーキペダルをリリースすれば、Q4 e-tronはゆっくりとクリープを始める。
ここでアクセルペダルを浅めに踏むと、車重2tを超えるクルマは軽々と加速してみせた。EVだけにアクセルペダルの操作に対する反応は素早く、余裕あるトルクを発生するのが実に気持ちがいい。一方、アクセルペダルを思い切り踏み込んでもゾクゾクするような鋭さはないが、スムーズで伸びやかな加速により、街なかから高速道路まで、その動力性能に不満を覚えることはない。
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バランスの良い乗り味
EVでは、走行中にアクセルペダルを緩めると回生ブレーキが働くが、Q4 e-tronはパドルを操作することで0〜3までの4段階で強さの調整が可能だ。さらに、シフトスイッチでBレンジを選べば、最大レベルの回生ブレーキが利用できる。Bレンジを選んだ場合でも、回生ブレーキは扱いやすく、それでいて急な減速でなければ運転中のブレーキはほぼこの回生ブレーキでカバーできてしまう。
ただし、アクセルペダルを完全にリリースしても車両は完全停止にはいたらないので、最後はブレーキペダルを踏む操作が必要になるが、それがQ4 e-tronの魅力を削(そ)ぐわけではない。
Q4 e-tronは乗り味もバランスが良い。Sラインということで専用スポーツサスペンションと20インチタイヤが採用されるが、乗り心地は多少硬めながらも十分に快適。しかも、SUVでありながら重心が低いEVだけに、SUVに顕著な走行中の揺れはよく抑えられており、コーナリング中の姿勢も安定している。後輪駆動を手に入れたQ4 e-tronは素直なハンドリングを見せ、その運転にはSUVを忘れさせる楽しさがあった。
例によって短時間の試乗イベントだったため、電費や充電能力のチェックはできなかったが、デザインも走りも実に高いレベルの仕上がりを見せるQ4 e-tron。これなら、実車を見ずに注文した人も、期待を裏切られることはないに違いない。
(文=生方 聡/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
アウディQ4 40 e-tron Sライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4590×1865×1630mm
ホイールベース:2765mm
車重:2100kg
駆動方式:RWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:204PS(150kW)/--rpm
最大トルク:310N・m(31.6kgf・m)/--rpm
タイヤ:(前)235/50R20 100T/(後)255/45R20 101T(ブリヂストン・トランザECO)
交流電力量消費率:150Wh/km(WLTCモード)
一充電走行距離:576km(WLTCモード)
価格:689万円/テスト車=708万円
オプション装備:ボディーカラー<ミトスブラックM>(8万円)/Sライン インテリアパッケージ(11万円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:2218km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
消費電力:--kWh
参考電力消費率:--km/kWh(車載電費計計測値)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースリポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。
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