日産キャラバン グランドプレミアムGX(FR/7AT)
戦いは終わらない 2022.07.18 試乗記 日産を代表する働くクルマ「キャラバン」が、パワートレインを刷新する大規模なマイナーチェンジを受けた。もちろんその目的は宿敵「トヨタ・ハイエース」の打倒にほかならない。果たして日産の悲願は成し遂げられたのだろうか。全車で7段ATを採用
日本の各種お仕事を支える4ナンバーキャブオーバーバン市場は、マツダが「ボンゴブローニイ」の自社生産から撤退した2010年以降、日産とトヨタによる寡占状態となっている。その一角である日産のキャラバンが昨2021年10月と、この2022年2月にマイナーチェンジを受けた。なぜ2度かというと、前者がガソリン、後者がディーゼル……と、搭載エンジンごとに発売時期が分かれたからだ。
現行型のキャラバンは2012年に発売された5代目で、マイナーチェンジは2017年以来の2回目となる。前回の内容は「Vモーショングリル」などによる外観のアップデートのほか、緊急自動ブレーキや横滑り防止装置の全車標準化、そしてバン初の「アラウンドビューモニター」の採用など、その内容はけっこう大規模なものだった。しかし、今回はさらに大規模だ。
今回の大規模マイナーチェンジの直接的なキッカケとなったのは、新たな排ガス測定法と騒音規制への対応である。新規制では従来型ディーゼルエンジン「YD25DDTi」型でのクリアをついに諦めて、キャラバンとしてはまったく新しい「4N16」型を搭載。さらに変速機も、ガソリン用を含めて、全車で5段ATから7段ATにアップグレードされた。
こうしたパワートレインの大刷新に合わせて、内外装の再アップデートに先進運転支援システムのさらなる充実などを図ったのが、今回のマイナーチェンジの概要である。
ちなみに、車名も今回を機に「NV350」の記号が省かれて、単純な「キャラバン」に回帰している。これは日産の国内商用車戦略の変更によるもので、同社のライトバンやトラックでも、すでに「NV150」や「NT450」が省略されて単純に「AD」と「アトラス」という車名に戻されている例もある。残る「NV200バネット」と「NV100/NT100クリッパー」にも、近く同様の再改名が実施されるはずだ。
ハイエースの牙城に挑む
知っている人は知っているように、今回の大規模マイナーチェンジの背景には、このセグメントではトヨタのハイエースの人気が圧倒的で、その牙城をキャラバンが長く崩せずにいることがある。おおざっぱにいうと、1990年代まではキャラバンとハイエースは“4:6”くらいの拮抗したシェアで争う二強的存在だった。しかし、2000年代初頭の衝突安全規制への対応が分かれたことで、キャラバンのシェアは約10%まで急落。その後、徹底したハイエース対策を盛り込んだ現行5代目がシェアを急回復させたものの、現在でもそれは25%前後にとどまっている。
日産によれば、ハイエースの地盤がもっとも強固なのが個人ユース市場という。ここでいう個人ユースとは、“ひとり親方”と呼ばれる個人事業主の仕事グルマ需要と、この種のクルマを乗用車がわりに使う純粋な個人需要だ。聞けば、後者は新型コロナ禍によるテレワークにワーケーション、アウトドアブームを背景に確実に増えているそうだ。
そんなハイエースが最強の地盤にあらためて挑むのが、内外装に専用仕立てを施したキャラバンの最上級グレード「グランドプレミアムGX」だ。ハイエースでひとり親方や個人客に圧倒的人気を誇る「ダークプライムII」の対抗馬である。同グレードはガソリンにも用意されるが、今回試乗したのは注目の新型エンジンを積むディーゼルである。
新しいインテリアでもダッシュボードやエアコンパネルの基本意匠に変更はないのだが、乗り込んですぐ、素直に高級感が増した印象を受ける。それはダッシュボードの色がグレーからブラックに変わったことと、新しくなったステアリングホイールや細くなったシフトセレクターレバーによるところが大きい。ステアリングホイールは、今だと「リーフ」や「エクストレイル」「キックス」などに備わるものと同じで、シフトセレクターには新たにマニュアルモードが追加されている。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ホールド感絶大の新シート
しかし、実際に運転席に乗り込んで、いちばん感銘を受けるのはシートの座り心地だ。見た目には分かりにくいが、今回のフロントシートは骨格から新しい。この「スパイナルサポート機能付きシート」はシートバックの上半分が中折れするように立ち上がった形状になっており、日産では「スカイライン」や「セレナ」などに使われているものだ。
そんな新シートは座った瞬間から、母親に手をそっと添えてもらった子供のころを思い出すように、背中のホールド性が心地よい。そして「長距離で疲れにくい」という効能書きは、都合3日間におよんだ今回の試乗でも納得できるものがあった。
ここで結論めいたことをいうと、今回の大幅改良でキャラバンがハイエースに一気に追いついたポイントは確かに多いが、まだまだハイエースに一日の長を感じる部分も少なくない。しかし、このシートだけはキャラバンが明確にハイエースより優れているポイントのひとつだと思う。
とはいえ、今回最大のハイライトはパワートレインである。まったく新しいディーゼルエンジンの「4N16」という型式名からピンときた人も多いように、エンジン自体は日産とアライアンス関係にある三菱製である。従来の2.5リッターから2.4リッターへと、排気量はわずかに縮小しているが、出力、トルクともにアップしている。さらに従来のYD25DDTiにはなかったバランサーシャフトも組み込まれた恩恵は絶大だ。
日産の主張とは異なる部分も
従来のディーゼルキャラバンが騒々しさには定評があった(笑)こともあり、今回は乗った瞬間から別物のように静かである。また、別の機会に新旧ディーゼルを直接乗り比べることもできたのだが、そのときは旧ディーゼルを始動した瞬間から「なにか壊れているのか?」と思ってしまうほどの盛大な振動に見舞われたことを告白しておく。正直にいうと、以前に乗ったときの記憶よりさらにうるさい印象ですらあったが、それは新型という比較対象ができたゆえの錯覚だろう。
さらにATの7段化によって、たとえばトップギア100km/h巡航時のエンジン回転は400rpmほど下がっている。というわけで、新エンジンを得たキャラバンディーゼルは宿敵ハイエースの2.8リッター比で、加速性能で肉薄、燃費で逆転勝ち、そして静粛性でも逆転勝ち……というのが日産の主張である。
ただ、少なくとも静粛性については、体感的には「どっちが勝ちかはビミョー」というのが、筆者の正直な気持ちである。まあ、機械で計測した騒音レベルは確かにキャラバンのほうが静かなのだろう。しかし、キャラバンでは「ゴーッ」という独特のノイズが耳につく。
これはおそらく、キャラバンとハイエースの吸気レイアウトのちがいによるものだ。キャラバンの吸気口は伝統的に運転席ドア後方にあるのに対して、ハイエースはフロントバンパー下から運手席足もとを通して吸気しているのだ。ドライバーに物理的に近いところで吸気しているキャラバンでは、この吸気音が耳につく。ただし、足もとから吸気するハイエースはハイエースで、最近都市部でもめずらしくなくなっている道路の冠水に要注意……という弱点もあり、ここは一概にどっちがいいとは判断しづらい。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
ライバルはどう動く!?
この種のキャブオーバーバンは、フロントエンジンの乗用車でいえば、ボンネットの上に座って運転しているようなレイアウトである。乗用車しか運転経験のない人は、初めて乗ると面食らうかもしれない。そもそもエンジン音が尻下からダイレクトに届くことに加えて、荒れた路面では、運転席がまるでサオ先にくくりつけられたようにリアタイヤを軸に上下するし、アンダーステアにおちいるとドライバーの体ごとアウトにはらむ。ただ、かわりに見晴らしは最高。いかにも仕事場的な重いパワステ(いまだに油圧式)には注意が必要だが、取り回し性はバツグンである。
新しいキャラバンは乗り心地も向上しており、ステアリングから伝わる接地感もそこはかとなく濃ゆくなった印象だが、意外にもシャシーのチューニングに変更はないそうだ。ということは、これは騒音対策のために新採用された「ヨコハマ・ブルーアースバンRY55」タイヤと、前記の新シート、さらには新ステアリングホイールの効果だろう。個人的には、とくにシートの霊験があらたかだと思う。
このように、新しいキャラバンはさすがにマイナーチェンジ効果が顕著である。それでも、あらためて宿敵ハイエースのデキを見るに、インテリア全体の質感表現、走行中の剛性感やしなやかさ、数字ではなく体感的な静粛性……などでは、まだまだ強みがあるように見える。また、これまでの歴史を考えれば、キャラバンが動けば、遠からずハイエースもキャッチアップしてくるのが恒例である。
ちなみに、今回のマイナーチェンジでは変更はないが、キャラバンは荷室長や後席の機能性において、ハイエースをしのいでいる。リアシート自体もキャラバンのほうが厚くて座り心地がよく、左右分割可倒(ハイエースは一体可倒)なので、一部には「キャラバンでないとダメ」というユーザーもいなくはない。
いずれにしても、この4ナンバーキャブオーバーバンとは、日産とトヨタが延々と一騎打ちを続けている世界。なかなか深くて面白い。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
日産キャラバン グランドプレミアムGX
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4695×1695×1990mm
ホイールベース:2555mm
車重:2010kg
駆動方式:FR
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:132PS(97kW)/3250rpm
最大トルク:370N・m(37.7kgf・m)/2000rpm
タイヤ:(前)195/80R15 107/105N LT/(後)195/80R15 107/105N LT(ヨコハマ・ブルーアースバンRY55)
燃費:11.3km/リッター(WLTCモード)
価格:387万9700円/テスト車=436万9251円
オプション装備:特別塗装色<インペリアルアンバー>(5万5000円)/スクラッチシールド(1万1000円)/ワンタッチオートスライドドア(10万1200円) ※以下、販売店オプション ウィンドウはっ水<フロントウィンドウ一面+フロントドアガラス2面>(1万2903円)/ナビレコパック(27万9968円)/フロアカーペット<フロント>(1万8480円)/フロアカーペット<リア>(1万1000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1369km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:315.1km
使用燃料:29.8リッター(軽油)
参考燃費:10.6km/リッター(満タン法)/10.8km/リッター(車載燃費計計測値)
拡大 |

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】 2026.10.7 新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。
-
スバル・レヴォーグ レイバック プレミアムS:HEV EX(4WD/CVT)【試乗記】 2026.10.6 「スバル・レヴォーグ レイバック」にストロングハイブリッド搭載モデルが登場。高効率なパワーユニットが積まれたのはもちろんのこと、既存の純エンジン車とはデザインやボディーサイズも違っているというから興味深い。上位グレードの「プレミアムS:HEV EX」を試す。
-
アウディA6アバントTFSIクワトロ200kW(4WD/7AT)【試乗記】 2026.10.5 今も昔もアウディの中核を担うアッパーモデル「A6」。その最新世代の「アバント」に試乗した。堂々とした優雅なボディーに最新のハイブリッドシステムを搭載したステーションワゴンは、いかなる走りを見せてくれるのか。その実力をリポートする。
-
ホンダN-BOXカスタム ターボ コーディネートスタイル2トーン(FF/CVT)【試乗記】 2026.10.3 フロントグリルとメッキパーツの面積が大きくなって迫力が増した最新の「ホンダN-BOXカスタム ターボ」に試乗。マイナーチェンジで進化した内外装の仕上がりと、軽四輪車の販売で11年連続の首位を誇る“絶対王者”の走りを報告する。
-
日産エルグランドG e-4ORCE(4WD)【試乗記】 2026.9.30 日産のプレミアムミニバン「エルグランド」がフルモデルチェンジ。その動力を担う第3世代の「e-POWER」は優れたドライバビリティーとともに、懸案だった高速燃費の改善もうたう。ロングドライブで進化のほどを確かめた。
-
NEW
パナソニックが市販カーナビを終売! 巨人の撤退からカーエレクトロニクスの変化を読み解く
2026.10.9デイリーコラムパナソニックが、市販市場向けカーナビゲーション、ドライブレコーダー、リアビューカメラの終売を発表! カーエレクトロニクス界の巨人は、なぜ市場からの撤退を選んだのか? 変化し続けるマーケットの在りようを振り返り、車載機器の未来を考察した。 -
フェラーリ・プロサングエ ハンドリング スペチアーレ仕様(4WD/8AT)【海外試乗記】
2026.10.8試乗記フェラーリの4ドア4シーターモデル「プロサングエ」に、「ハンドリング スペチアーレ」を名乗るスペシャルバージョンが登場。その走りは従来モデルからどのように変わったのか? 跳ね馬の原産国、イタリアで確かめた。 -
「アプライドD」で何が変わった? スバルの「インプレッサ」と「クロストレック」の進化を探る
2026.10.8デイリーコラムスバルが「インプレッサ」と「クロストレック」の改良モデル「アプライドD」を発表した。モデルライフの折り返し地点となる今回の改良では、ラインナップの刷新がトピック。その内容とスバルの狙いを、スバリスト玉川ニコ氏が解説する。 -
“クルマづくりのプロ”の話をライブで配信! 「あの多田哲哉のクルマQ&A」公開収録のお知らせ
2026.10.7From Our Staff元トヨタの多田哲哉さんが、自動車に関するさまざまな疑問・質問に答える「あの多田哲哉のクルマQ&A」。その話がライブで聞けて質問もできる公開収録を、10月15日(木)の夜、19時半から実施します。 -
咆哮なき電気自動車「ジャガーTYPE 01(タイプ01)」に“ジャガーの魂”は宿るのか?
2026.10.7デイリーコラムいよいよ正式デビューを飾った、新生ジャガーのラグジュアリー4ドアGT「TYPE 01(タイプ01)」。いったいどんなクルマなのか、従来のファンも納得できる“ジャガーらしさ”はあるのか? 先行チェックした西川 淳がリポートする。 -
トヨタ・ランドクルーザー“FJ”VX(4WD/6AT)【試乗記】
2026.10.7試乗記新たにシリーズに加わった「ランドクルーザー“FJ”」は、ポップな見た目から簡易版のように思われるかもしれないが、その中身は紛れもなく本物であり、道なき道をグイグイと突き進む。これもまた「どこへでも行き、生きて帰ってこられる」を体現する一台である。






















































