日産キャラバン グランドプレミアムGX MYROOM(FR/7AT)【試乗記】
その価格に理由あり 2024.11.25 試乗記 「日産キャラバン」に車中泊を目的としたカスタマイズモデル「MYROOM(マイルーム)」が登場。専用の職人集団が仕立てたキャビンの後ろ半分はまさに部屋。つまり“男の城”を背負って走るキャブオーバーバンなのだ。居心地と乗り心地の両方をリポートする。ついにカタログモデルが発売
最近、日産はキャラバンや「NV200バネット」などの商用バンをベースとした純正キャンピングカーを展開している。モデル名はMYROOMだ。
同シリーズの発端は「ジャパンキャンピングカーショー2022」に参考出品された「キャラバンMYROOMコンセプト」である。当時はコロナ禍で“車中泊”が注目を集めていたこともあり、新発売されたキャラバンの「マルチベッド」とともに出展された。ちなみに、その前年の2021年秋には、ベースのキャラバンのガソリン車が、そしてショー直後の2022年2月末にはディーゼル車がマイナーチェンジされているから、そこにはベースとなるキャラバン自体のプロモーションの意味もあったようだ。
MYROOMコンセプトはショーで評判となり、その1年ちょっと後の2023年5月に“市販化決定”の報とともに、2023年度内の発売が予告された。2023年がキャラバン誕生50周年ということで、そこには記念モデル的な意味合いも込められていた。そして2023年10月、キャラバンMYROOMは、まずは「ローンチエディション」という特別仕様車がデビュー。そして、2024年7月にカタログモデルが登場した。
ローンチエディションとカタログモデルのちがいとしては、「車内カーテン」「ウッドブラインド」「ロールスクリーン」などが標準装備からはずれた(オプションとしては残る)ほか、ベースモデルとして、より手ごろな「プレミアムGX」が選べるようになったことや、外板色の選択肢が増えたことなどがある。
ただ、今回の試乗車はローンチエディションと同じく上級の「グランドプレミアムGX」がベースで、外板色も当初からMYROOMのイメージカラーとして訴求されていた専用色「サンドベージュ×ホワイト」のツートンカラーが選ばれていた。
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アレンジ可能なリアシート
キャラバンMYROOMの最大の特徴は、当然のごとく、運転席より後ろの居住空間にある。空間全体を明るい木目調で統一して、そこにスライド付き専用リアシートのほか、ベッドボード(折り畳み式が標準で、この試乗車の跳ね上げ式はオプション)と脱着式スライドテーブルがあつらえられている。先に書いたとおりカーテンやブラインドの類いはオプションだ。
キャラバンの標準のリアシートはタンブルアップ式だが、MYROOM専用のリアシートは題して「2 in 1シート」。前後反転やフラット化を可能としたメカニズムのほか、座面と背もたれの2つのクッションの硬さが、表裏であえて変えられているのがキモだという。
そのおかげで、通常の前向き=「ドライブモード」では座面と背もたれがともに表面が硬めのクッションとなって、動的な乗り心地に配慮するいっぽう、前後反転させた「リビングルームモード」では、逆にソファとして全面が柔らかめになる。フラット化する「ベッドルームモード」では、全面が後ろのベッドボードのマットに似た硬めのクッションとなる。
リアシートにはスライド機構も追加されているが、スライド量が限られるうえに前席との間に壁があるキャブオーバーレイアウトなので、いちばん広い状態にしても身長178cmの筆者はアシを完全に伸ばすことはできない。リアシートそのものも、いかんせんフラットすぎる形状で、ホールド性は皆無に近い。ドライブモードで硬めのクッションが表面になるのも、少なくとも着座時の姿勢安定性という意味では逆効果な感じ。個人的には、ここに座っての走行はせいぜい30分が限界……というのが実感だ。
ベッドのサイズを考えても、大人なら最大2人で出かけて、現地でゆったり過ごす……というのが、このクルマで想定される本来の楽しみかただろう。
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架装の重さが乗り味に効いている
そんな出先での電源確保には、100Vを外部から引き込むほか、走行中(か事前)にポータブル電源を充電しておく方法もある。日産からも純正アクサセリーとして、「リーフ」のリチウムイオン電池を再利用した「日産ポータブルバッテリー from LEAF」が2023年9月に発売されており、今回の試乗車にも載せられていた。
日産ポータブルバッテリーはさすが電気自動車用の高性能電池らしく、-20℃~+60℃という幅広い動作温度範囲をうたう。さらにメーカー純正ゆえの信頼感や環境イメージも売りだが、633Whの容量で17万円強という価格は、正直、お高めというほかない。同等容量のポータブル電源は、ネット通販などで探せば、半額でも選び放題だ。
今回は一応(?)試乗記なので、MYROOMを一台のクルマとして見ると、当たり前だがキャラバンそのものである。試乗車が上級のグランドプレミアムGXベースであることは、本革巻きのステアリングホイールやシフトノブ、一部合皮のシート表皮、各部のカッパー調加飾から見て取れる。また、2リッターガソリンや4WDも選ぶことができるが、今回は2.4リッターディーゼルの2WDだった。
MYROOMだからといって、パワートレインやシャシーに特別なものはなにもない。キャラバンのディーゼルは三菱自動車製の最新エンジン=「4N16」型に換装された2022年のマイナーチェンジで飛躍的に静かになったが、それでもそれなりに騒々しい。ただ、7段ATとの組み合わせによるリニアなトルク特性は素直にステキだ。足指のわずかな力の込め具合で、加減速が自在である。
また、MYROOMの車両重量は、ベース車比で150kgほど重くなっている。キャラバンのような商用車は空荷ではどうしても乗り心地が硬めになりがちだが、今回のMYROOMだと、乗り心地もちょうどいい感じに快適で穏やかだった。
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“純正”という重み
それにしても感心したのは、市街地から高速、舗装がヒビ割れたような山坂道まで遠慮なく走り回っても、この凝った室内調度が、ミシリとも音を立てないことだ。
MYROOMの架装を担当するのは、キャラバンを開発・生産する日産車体の100%子会社であるオートワークス京都(AWK)だ。AWKはもともと日産車体の京都工場だったのだが、2001年に当時の日産リバイバルプランの一環として、マイクロバスの生産事業などを手がける別会社として分離・独立した。
現在のAWKはマイクロバス生産のほか、路線バスから送迎バス、救急車、レントゲン車、消防車、防衛省向け車両、移動図書館、中継車、移動販売車、特殊な検査・測定車両……などなど、ありとあらゆる特装車を日産車ベースでつくる職人集団でもある。このMYROOMのデキのよさにも、AWKの高い技術力と職人技が炸裂していることは疑いようがない。
今回の試乗車は専用車体色込みで655万2700円。ベース車両と比較すると230万円以上のプラスで、筋金入りのキャンパーマニアの間では、これを“高い”と評する声もあるようだ。なるほど、ウデのいい専門ショップにキメ細かくオーダーして、必要とあらばDIYもいとわないマニア筋なら、これより高度なフィニッシュをより安く実現することも可能かもしれない。
ただ、「クルマのことはすべてディーラーにすべて任せたい」というライト層には、これが正規販売店でツルシで買えるメリットは大きい。MYROOMは現状、日産の公式サブスクの対象ではないようだが、残価設定ローンは使える。メーカー純正であれば、自前のカスタマイズよりはリセールも期待できそうである。
冒頭にも書いたように、2024年10月にはキャラバンより小さなNV200バネットにもMYROOMが登場。車中泊趣味がすっかり定着した昨今、日産はMYROOMを新たな定番商品にしたいらしい。
(文=佐野弘宗/写真=山本佳吾/編集=藤沢 勝/車両協力=日産自動車)
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テスト車のデータ
日産キャラバン グランドプレミアムGX MYROOM
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4695×1695×1975mm
ホイールベース:2555mm
車重:2150kg
駆動方式:FR
エンジン:2.4リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:132PS(97kW)/3250rpm
最大トルク:370N・m(37.7kgf・m)/2000rpm
タイヤ:(前)195/80R15 107/105N LT/(後)195/80R15 107/105N LT(ヨコハマ・ブルーアースバンRY55)
燃費:--km/リッター
価格:637万6700円/テスト車=753万3002円
オプション装備:特別塗装色<サンドベージュ×ホワイト ツートン>(17万6000円)/MYROOM跳ね上げベッド(17万6000円)/車内カーテン<1列目シート後ろ>+車内カーテン<2列目シート横両側>+ウッドブラインド+ロールスクリーン(26万9500円) ※以下、販売店オプション ウィンドウはっ水<フロントウィンドウ一面+フロントドアガラス2面>(1万4443円)/ETC2.0ユニット(5万0412円)/日産オリジナルナビゲーション(19万8221円)/スライドサイドウィンドウ用網戸<片側>(1万5400円)/日産オリジナルドライブレコーダー<フロント>(4万7526円)/フロントデュアルカーペット<消臭機能付き>(1万8700円)/「MYROOM」ステッカー<リアサイドガラス+バックドアガラス>(1万9600円)/日産ポータブルバッテリー from LEAF(17万0500円)
テスト車の年式:2024年型
テスト開始時の走行距離:8572km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:373.9km
使用燃料:36.8リッター(軽油)
参考燃費:10.2km/リッター(満タン法)/11.4km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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