ジープ・グランドチェロキー リミテッド(4WD/5AT)【試乗速報】
カウボーイ、やめました 2011.02.24 試乗記 ジープ・グランドチェロキー リミテッド(4WD/5AT)……523万円
ジープの最上級モデル「グランドチェロキー」がフルモデルチェンジ。排気量が小さくなって、内外装の質感が大幅アップした新型の、第一印象をお届けする。
“トップ・オブ・ジープ”の変貌
ジープは今2011年7月23日で生誕70周年を迎える。その前祝いとして、かどうかは知らないが、昨年モデルチェンジしたのが「グランドチェロキー」である。日本でのジープ販売は、ここ最近、「パトリオット」と「ラングラー」が主流だが、グランドチェロキーは言うまでもなくジープのトップモデルである。
2005年以来の先代モデルと比べると、ボディはまた少し大きくなった。外寸のスリーサイズは「BMW X5」や「ボルボXC90」に近い。ジープの“顔”ともいえる7スロットのフロントグリルは継承されたが、スタイリングはますます洗練され、およそ泥くささがなくなった。側面に入るエッヂのきいたプレスなどはX5からいただいちゃったような感じだ。
よく見ると、ボディのチリ(パネルギャップ)が狭くなったことにも気づく。欧州SUV的なカタマリ感の強さはこのせいでもある。パネルギャップを詰めることができたのは、ボディのねじり剛性が旧型比4割以上も強固になったこととリンクしているはずだ。昔のクロカン四駆は小指が入りそうなくらいチリが大きかったが、それは悪路でボディがゆがんだときの"逃げ"でもあったのだ。
レクサスか!?
試乗車は最上級モデル「リミテッド」のエアサスペンション付き。そう、ジープにもついに空気バネがつくことになった。さらに新型グランドチェロキーは後輪もリジッド(固定軸)からマルチリンクの独立懸架に進化した。ジープ初の“四独”である。
高い運転席に乗り込んだ途端、「レクサスか!?」と思った。多少大げさだが、ウソではない。それくらいインテリアはアカ抜けている。ダッシュボードとドアパネルが接するカドは、ラウンドシェイプに成形され、ウエストラインの高さには光沢のあるウッドパネルが埋まる。樹脂パーツ類の質感も高い。面一処理の行き届いたダッシュボードや、チタニウムシルバーのセンターコンソール周辺など、見まわしたところ、もはやアメリカンな大味さはかけらもない。今後、ジープのステアリングホイールはこれに統一されると説明があったその3本スポークステアリングだけ取り残されたようにジープっぽいのがご愛嬌(あいきょう)である。
走りも静かで滑らかだ。タイヤは韓国製の"クムホ"。踏面のゴツゴツ感は多少気になるが、サスペンションのマナーそのものは上等だ。エアスプリングといっても、フワフワした柔らかさとは無縁。しっとり落ち着いた乗り心地が印象的だ。
5段ATと組み合わされるエンジンは、新開発の3.6リッターV6。先代モデルには日本仕様でもV8が選ばれたが、新型は時代に合わせてダウンサイジングを果たした。“グランド”のくせに、ただの「チェロキー」(3.7リッターV6 SOHC)よりも小さいが、こちらはVVT機構を備えるDOHCヘッドで、パワーのほうはチェロキーの205psに対して286psと圧倒的にグランドである。
新天地を求めて
このクラスのSUVでATが5段とは、ナットクいかない人もいるかもしれないが、100km/h時の回転数はわずか1750rpm、4速で2200rpm、さらに3速へ落として3000rpmに上がっても、エンジン音はほとんど高まらない。燃費にも気を配った設計で、経済運転領域で走っていると、計器盤に“ECO”のサインが灯る。車重は2.2t近くあるため、高速道路での追い越しなどは俊足というわけにはいかないが、経済性はV8の旧型より間違いなく向上しているはずだ。
今回は試せなかったが、悪路走行用の装備では“セレクテレインシステム”が新しい。5つの走行条件に合わせて、エンジンやトラクションコントロールや4WDの制御を最適化する。ATセレクターのそばにあるダイヤルで、たとえば“ROCK”モードを選ぶと、エアサスが地上高280mmのマックスまで伸び上がり、トランスファー、デフ、スロットルが連携して低速制御を行う。「ランドローバー」が初めてやって以来、ヨーロッパの高級SUVではすでにおなじみの装備である。
そのほか、急坂を安全に下れるヒルディセントコントロールも付いた。エアサスは5段階に車高調節が可能で、人や荷物のアクセスに便利なパークモードにすると、ノーマルから40mm下がる。荷室フロアがかなり高いので、使いでがありそうだ。
こうした新機軸を盛り込んだ新型グランドチェロキーを、試乗会で説明にあたったインド系アメリカ人のエンジニアは「ワールドクラスになった」と表現した。たしかにそのとおりである。
クルマ全体の印象をひとことで言うと「カウボーイ、やめました」という感じだ。カウボーイハットとブーツを脱ぎ、スーツに着替えて目指すは金融マンか。それも外資系の。これがジープの生きる道なのか、と思う一方、ジープもこうなっちゃうのかなと、正直ちょっと複雑な気もした。
(文=下野康史/写真=郡大二郎)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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