メルセデスAMG SL43(FR/9AT)
ドリームカーの現在形 2022.11.25 試乗記 長らくメルセデスのスポーツイメージをけん引してきた「SL」が生まれ変わった。AMGが開発した新型は「メルセデスAMG SL」を名乗るだけあって、歴代モデルとはひと味違う“武闘派”だ。電動ターボをはじめとした新機軸の仕上がりをリポートする。真のスーパーカーだった
今ではほとんどのAMGモデルに備わっているせいでちょっとありがたみが薄れてしまったけれど、縦ルーバーが並んだいわゆる“パナメリカーナグリル”はそもそもSLのものだった。かつてのミッレミリアなどと同様の長距離高速公道レース「カレラ・パナメリカーナ・メヒコ」を制した「300SL」に由来する特別なモチーフである。
300SLレーシングカーが初出場初優勝(しかも1-2フィニッシュ)したのは1952年、ということはちょうど70年前である。ロードカーとしての300SLが誕生するのは実はその後の1954年のこと。しかしながら翌年にはルマンでの大惨事をきっかけにメルセデスはモータースポーツ活動から撤退し、その後長い間サーキットとはかかわりを持たなかった。という歴史を繰り返したのは、SLがどれほど特別なクルマだったかと言いたいがためである。
何度も例に出して申し訳ないような気がするが、観音開きドアの初代「クラウン」のデビューは1955年である。同じ年のミッレミリアでスターリング・モスとデニス・ジェンキンソンの乗る「300SLR」(こちらは直列8気筒の本物のレーシングカーだが)は1000マイルの平均速度ほぼ160km/hという信じられない記録で優勝している。当時の事情を肌で知る大先輩たちにとっては夢のスポーツカーどころではなく、「まるで宇宙船のようなもの」がSLだったのである。
とはいえ、昭和の半ば以降に生まれた者にしてみれば、300SLはクラシックカー以外の何物でもなく、メルセデスのフラッグシップモデルとして多少なりとも身近に感じられるのは電動ソフトトップを採用した4代目のR129型(1989年)以降のモデルだろう。続く5代目からはバリオルーフ(電動格納式ハードトップ)に変更されていたが、この7世代目で再びソフトトップに戻されたことになる。
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新機軸満載
新型のR232型SLは2+2シーター(日本には未導入だったがこれもR129以来)のソフトトップ付きロードスターだが、アルミスペースフレームによるプラットフォームも、前後5リンクのサスペンションも新規開発であり、何よりその開発作業はメルセデスのハイパフォーマンスカーサブブランドたるAMGが担当し、メルセデスAMG SLとして生まれ変わったことが特筆される。
乗車定員も4人とされているが、もちろんリアシートは非常用である。足を入れるスペースも直立したバックレストも大人が座るには無理があり(実際対応身長150cm以下が推奨されている)、緊急用と言うべきささやかな後席だが、それでもあったほうがよりユーザーにアピールするうえに、「AMG GTロードスター」とのすみ分けを明確にするという狙いがあるのかもしれない。
3層構造の見事なソフトトップの開閉はともに約15秒で完了、60km/h以下なら走行中でも操作可能である。リアシートが増えてもプロポーションは申し分ない。
新しいSLには4リッターV8ツインターボ搭載モデルも存在するが、今のところ日本仕様はM139型2リッター4気筒ターボを積む「43」のみ。ダウンサイジングの時代とはいえ、あのSLにも4気筒かあ、とお嘆きの方もいるかもしれないが、その時代の最新技術を満載しているのがSLの伝統だから、もちろん普通の4気筒ターボなどではない。
注目は排気タービンとコンプレッサーの間に電動モーターが挟み込まれた「エレクトリックエキゾーストガスターボチャージャー」を市販車として初めて採用したこと。数年前にギャレット(現ギャレット・モーション)が発表して業界の注目を集めていたユニットである。ターボチャージャーの軸に一体化されたモーターが直接駆動することで、過給圧が上がらない低回転域において、またスロットルをオフにしている間も過給圧を維持できるから、いわゆるターボラグが発生せずレスポンスに優れるのが大きな特徴である。現在のF1エンジンに用いられているMGU-Hの技術に直接由来するものとされており、そのせいか詳細は教えてもらえなかった。
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電動ターボにマイルドハイブリッド
この電動ターボチャージャーはBSG(ベルトドリブンスタータージェネレーター)と同様に48V電源で駆動される。そう、「AMG C43」にも搭載されるこの直4ターボエンジンは、他のCクラスのようにギアボックス内蔵型のISG(インテグレーテッドスタータージェネレーター)ではなくBSG搭載モデルとなる。というのも、AMGは同じ9段ATでもトルクコンバーターではなく、クイックなシフトを重視して湿式多板クラッチを採用する「AMGスピードシフトMCT」を搭載しているからだ。
ベルト駆動ゆえモーターアシストは小さいが(10kW/58N・m、ISG搭載のCクラスは15kW/208N・m)、それを電動ターボチャージャーが補完し、スペックは最高出力381PS/6750rpm、最大トルク480N・m/3250-5000rpmという。
この数値を見てもそれほどのハイチューンではなさそうだが、出足の俊敏さや低中回転域での鋭いピックアップは、さすが複雑な電動ターボを採用しただけあると感じさせられた。ちなみに0-100km/h加速は4.9秒、最高速275km/hと大柄なRWDオープンとしてはかなりの俊足である。
ただし、そのたくましく鋭い中間加速がトップエンドまでそのまま続くわけではなく、滑らかにシャープに7000rpmのリミットまで吹け上がるものの、中速域から上はパワーの盛り上がり方が、実用上は十分すぎるほどとはいえ、これまでのSLを知る人にはちょっと物足りないだろう。どこまでも果てしなくパワーが湧き出るかのようなV8搭載SLとは当たり前だが違うのである。
優雅というより俊敏
試乗会が開催された箱根のホテルの駐車場から県道に出るまでの道の路面は、意図的ではないかと疑うぐらい長いこと舗装が荒れたままで、走りだした途端にドシンと硬質な突き上げに見舞われて、いきなり新型SLの目指すところを実感した。これまでの優雅でラグジュアリーなフラッグシップオープンというよりは、はっきりスポーティーである。AMG専用モデルになったからにはそれも当然だが、まったりたおやかで、余裕たっぷりのかつてのSLを懐かしく思い出すのも正直な気持ちだ。
無論、粗野なハーシュネスやバイブレーションは、たとえオープン状態でも伝わってこない。そのためのアルミスペースフレームであり、すべてのリンクからナックル、ハブキャリアまで鍛造アルミニウム製の5リンクサスペンションである。さらに電子制御ダンパーは伸びと縮みそれぞれが無段階制御されるという。ぜいたくに最新技術を使うという点ではまさしくSLである。
山道では軽快敏捷(びんしょう)で、まるで「SLK」のようだ、と言っては語弊があるかもしれないが、ひらりスイスイと鼻先が向きを変える。見た目よりずっと軽やか、というのがまるっきり新しく生まれ変わったSLの第一印象だ。
(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
メルセデスAMG SL43
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4700×1915×1370mm
ホイールベース:2700mm
車重:1780kg
駆動方式:FR
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:381PS(280kW)/6750rpm
エンジン最大トルク:480N・m(48.9kgf・m)/3250-5000rpm
モーター最高出力:13.6PS(10kW)
モーター最大トルク:58N・m(5.9kgf・m)
タイヤ:(前)265/40ZR20 104Y XL/(後)295/35ZR20 105Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:10.8km/リッター(WLTPモード)
価格:1648万円/テスト車=1691万円
オプション装備:ヘッドアップディスプレイ(14万5000円)/ソフトトップ<レッド>(5万9000円)/マットボディーカラー<AMGモンツァグレーマグノ>(22万6000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト車の走行距離:617km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

高平 高輝
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