ついに日本上陸! 「フォルクスワーゲンID.4」は“BEV界のゴルフ”になれるのか?
2022.11.30 デイリーコラム世界中で愛されるクルマ
「21世紀に間に合いました。」というキャッチフレーズとともに登場したクルマがありましたが、「2022年の発売に間に合うのか」とやきもきさせていたのが、フォルクスワーゲンの最新電気自動車(BEV)「ID.4」。「ゴルフ8」の次の愛車候補としてID.4を考えていた私としては、11月下旬に無事発売されたことに、まずはホッとしています。このID.4、ゴルフのようにコンパクトBEVのベンチマークになりうるのでしょうか?
フォルクスワーゲンのゴルフといえば、コンパクトカーのベンチマークとして誰もが知る存在です。初代ゴルフは、フォルクスワーゲンの礎を築いた「タイプ1(ビートル)」に代わるモデルとして1974年に登場。水冷エンジンとフロントエンジン/フロントドライブ、2ボックスにハッチバックという新しいスタイルによって、より広い室内とアウトバーンを速く安全に走る性能を、求めやすい価格で提供。以後、コンパクトカーのスタンダードとして、ヨーロッパはもとより、世界中で愛されるクルマになるのです。
他の自動車メーカーはこのゴルフをお手本として追いかけますが、ゴルフはモデルチェンジのたびに安全性や居住性、快適性、動力性能をさらに進化させることで、他の追随を許さない存在であり続けました。スポーツモデルの「GTI」や「R」、ステーションワゴンの「ゴルフヴァリアント」などの追加もユーザー層の拡大に一役買っていて、最新世代のゴルフ8もコンパクトカーのベンチマークであることに変わりはありません。
ゴルフとは違うベクトル
その一方で、フォルクスワーゲンは次の時代に向けてBEVの投入を迫られていました。そこで登場するのが、新たに開発された「MEB(モジュラーエレクトリックツールキット)」プラットフォームを採用するID.シリーズです。フォルクスワーゲンは、手始めにハッチバックの「ID.3」を発表し、その後、コンパクトSUVのID.4、そのクーペ版の「ID.5」、“ワーゲンバス”の再来とされる「ID.Buzz」を投入。このうち、世界的なSUVブームということもあって、ID.4が世界戦略モデルとしてヨーロッパをはじめ、北米や中国で生産され、日本にもヨーロッパから送り込まれることになりました。
個人的には同じグループのアウディに、コンパクトSUV型BEVの「Q4 e-tron」があることから、フォルクスワーゲン ジャパンにはゴルフを連想させるハッチバックスタイルのID.3を販売してほしかったのですが……。
それはさておき、実際にID.4に試乗してみると、期待を大きく上回るニューモデルでした。別の言葉を使えば、ID.4は歴代ゴルフの延長線上にはない、まったく新しいクルマに思えました。例えばエクステリアでは、人の顔を思わせるフロントマスクや流れるようなフォルム、シンプルでありながら上質さが感じられるインテリア、サイズから想像する以上に広い室内空間、メーターパネルにつながるシフトレバー、後輪駆動が生む素直で軽快なハンドリングなど、見どころがたくさん。一方、運転のしやすさや乗り心地のよさ、走行安定性の高さ、乗員を包み込むような安心感は、フォルクスワーゲンそのものです。
正直、ID.4の仕上がり具合には舌を巻くほどで、コンパクトBEVのベンチマークになる可能性は大いにあると思っています。とはいえ、ID.4がゴルフにというか、BEVがエンジン車に取って代わるには、もうしばらく時間がかかるでしょう。わが家では、ひとあし先にID.4がゴルフの座を奪うみたいですが(笑)。
(文=生方 聡/写真=フォルクスワーゲン ジャパン/編集=藤沢 勝)

生方 聡
モータージャーナリスト。1964年生まれ。大学卒業後、外資系IT企業に就職したが、クルマに携わる仕事に就く夢が諦めきれず、1992年から『CAR GRAPHIC』記者として、あたらしいキャリアをスタート。現在はフリーのライターとして試乗記やレースレポートなどを寄稿。愛車は「フォルクスワーゲンID.4」。