フォルクスワーゲン・ゴルフRヴァリアント(4WD/7AT)
“曲がり”がちがう 2022.12.27 試乗記 歴代最強をうたう「フォルクスワーゲン・ゴルフRヴァリアント」が上陸。最高出力320PSのパワーユニットと刷新・強化された4WDシステム「4MOTION」を搭載する、ホットなステーションワゴンの走りをワインディングロードで確かめた。ハイテク満載の新4WDシステム
「R」はいわずとしれた最強のゴルフだ。伝統的なホットハッチの「GTI」が前輪駆動を守って、それゆえ「EA888」型エンジンも最高主力245PS、最大トルク370N・mにあえて寸止め(?)されるのに対して、その性能が素直に解放されるゴルフRでは同300PSと同400N・mの大台を超える。新型RのエンジンもGTIに続いて「evo4」に世代交代となり、燃料噴射の高圧化などの工夫で実燃費を向上(先代ではJC08モード燃費しか公表されていないので直接比較はできないが)させつつも、最高出力で10PS、最大トルクで20N・mの上乗せを達成した。
新型ゴルフRの技術要素の大半は、このエンジンを含めて先代からの正常進化といっていいが、従来とは別物に刷新されたポイントがひとつある。それは4WDシステムだ。
従来型はフロントからのトルクをセンターの電子制御油圧多板クラッチを介してリアのデフギアに伝えていた。つまり、一般的な電子制御オンデマンド型4WDだ。対して、「Rパフォーマンストルクベクタリング」と称する新しい4WDはセンターのクラッチや通常のリアデフをもたず、プロペラシャフトとベベルギアで後輪を直接駆動する構造となっている。ただし、左右後輪にはそれぞれ電子制御油圧多板クラッチが配されており、そこでトルク伝達を自在に変えることができる。たとえば、右後輪に全トルクを集中して、反対の左後輪は完全フリー……なんて芸当も可能なわけだ。
ちなみに、同システムは先に発売された「ティグアンR」にも搭載されており、グループ内の「アウディRS 3」が使う「RSトルクスプリッター」もモノ自体は同じである。さらにいうと、「メルセデスAMG A45/CLA45」の4WDもこれと同タイプだし、かつての「日産ジューク16GT FOUR」に搭載されていた「トルクベクトル付きオールモード4×4-i」も、クラッチ部分の構造には少しちがいがあれど、基本原理や構造は共通だった。
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日常域での快適性は良好
ゴルフRは新型でもハッチバックとステーションワゴン=ヴァリアントの2本立てで、今回の試乗車はヴァリアントだった。伝統を重んじてハッチバック専用となるGTIに対して、こういう寛容さもRのメリットといえる。
2リッター直4直噴ターボエンジンは、もっとも控えめな「コンフォート」モードで軽く流しているだけでも、“ボボボボ、バラバラバラ”と本格的で不敵なサウンドを発生する。
試乗車には可変ダンパーの「DCC」と19インチタイヤをセットにしたオプションパッケージが装着されていたこともあってか、日常域の乗り心地もかなり良好だ。こうした高級感ある味わいも先代Rから受け継ぐ美点だが、新型ではさらに洗練されている。低速でも積極的にストロークして、ムダな上下動も抑制されたフワピタ系で、低偏平タイヤに起因するとおぼしきショックも最低限におさえられている。
ダンピングは「カスタム」モードで細かく設定することも可能だが、もっとも硬くしても想像するほど暴力的な乗り心地にはならない。また、フルグリップの高速巡航などでは後輪の油圧多板クラッチを左右とも開放したFF状態にして燃費を稼ぐという。
……と、ゴルフRはスーパースポーツカーばりの性能ながら、日常域での快適性や使い勝手にも優れるのも売りである。本来なら高速道で一気に遠出したいところだが、今回の取材は御殿場拠点のメディア試乗会。時間制限もあるので、市街地や高速での試乗はそこそこに、今回のメインステージである箱根にのぼることにした。
本格的なワインディングロードを眼前に、ドライブモードを「スポーツ」、さらにステアリングホイール上にショートカットボタンも設けられる「レース」にすると、パワートレインのレスポンスやサウンドの迫力が増して、フットワークは引き締まる。しかし、滑らかな荷重移動による路面に吸いつくような接地感は、ほとんど損なわれないのがゴルフRらしい。
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新鮮なコーナリングフィール
後輪の左右駆動力を自在に操る4WDによるコーナリングは、同じシステムをもつティグアンRよりは圧倒的に曲がるが、RS 3ほど極端な回頭性を見せることはない。ティグアンRに対しては、より低重心なゴルフに合わせたセッティングになっているからだろうか。同時に、ゴルフRにはRS 3にある「RSトルクリアモード」のようなドリフトを誘発するモードはない。
もっとも、本国にある「Rパフォーマンス」というオプションを追加すると、ゴルフRにも「ドリフト」と「ニュルブルクリンク」というモードが追加されるという。アウディでいうと前者がRSトルクリアモード、そして後者がサーキット専用の「Rパフォーマンスモード」に相当する制御と思われる。
新型ゴルフRがこれまで以上に曲がるクルマに仕上がっているのは間違いないが、その独特の4WDシステムから想像できるように、曲がりのフィーリングがこれまでとはちょっとちがう。それはたとえば後輪優勢のトルク配分をもつフルタイム4WDのようにテールを振り出すかのごとくクルリと旋回する曲がりかたとも、余剰トルクだけを後輪に吸い出して、FFらしい安定感はそのままにシレッと曲がり切る一般的なオンデマンド型とも異なる。
いわば、フロントの接地感や安定感はそのままに、リアの外側から強力に押し曲げる感覚といえばいいだろうか。戦車やブルドーザーなどのキャタピラー車(一般名詞でいうと無限軌道車)の“信地旋回”がこんな感じなのかなあ……なんてことも思わせた。
ドライブモードによって4WD制御が極端に変わっているようには思えないが、パワートレイン反応が鋭くなるスポーツモードやレースモードでのコーナリングはさらに強力にゴリッとした手応えになる。
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自在なカスタム設定が面白い
いずれにしても、この前輪がイン側に押し入れられるようなコーナリング感覚は独特だ。そして、アクセルを踏めば踏むほど、しかもジワッと優しく踏むほど舵角が自然と減っていく。前輪がきっちりグリップしている安心感と、積極的な回頭性がこれほど明確に両立したドライブフィールはあまり経験がない。それがこの4WDシステムの特徴でもあるのだろう。
試乗前にフォルクスワーゲンの担当者から「面白いですよ」とすすめられたのが、カスタムモードを使って全項目を硬派なレースモードにしたうえで、可変ダンパーだけを極端に柔らかくした設定だ。
その設定で走ると、上屋の動きがたしかに大きくなり、純粋なステアリング反応は鈍くなるのだが、そこからアクセルを踏み込んでいくと、まるでグニュニュニュ~ッと音がするように走行ラインが押し曲げられていく。Rパフォーマンストルクベクタリングの特徴が極端に強調された走りになるのが、なるほど面白かった。
一般的にステーションワゴンは車体開口部の大きさや重量面でハッチバックより乗り味が落ちるのが宿命である。ゴルフヴァリアントも基本的に似たようなクセがあるが、同時にホイールベースがハッチバック比で50mmも長いのが最新ゴルフ8の特徴でもある。実際、直進性や方向安定感ではヴァリアントに分があるのも事実で、それを気持ちよく旋回させるのに、今回のトルクベクタリング付き4WDがバリバリに効果的なのが体感できる。
ともあれ、新型ゴルフRヴァリアントは、日常域での安心感に快適性、燃費が先代より向上しているのに加えて、本来ならそれらに相反する面もある回頭性も輪をかけて高まっている。先代最終期の価格はハッチバックで590.9万円、ヴァリアントで600.9万円だったから、新型は約50万円の値上げになる。内外装にコスト抑制の痕跡もうかがえるゴルフ8だが、これだけの機能アップに昨今の円安を加味すれば、この価格設定における日本法人の努力は認めるべきだろう。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフRヴァリアント
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4650×1790×1465mm
ホイールベース:2670mm
車重:1600kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:320PS(235kW)/5350-6500rpm
最大トルク:420N・m(42.8kgf・m)/2100-5350rpm
タイヤ:(前)235/35R19 91Y/(後)235/35R19 91Y(ブリヂストン・ポテンザS005)
燃費:12.2km/リッター(WLTCモード)
価格:652万5000円/テスト車:681万4300円
オプション装備:ボディーカラー<ラピスブルーメタリック>(3万3000円)/DCCパッケージ(22万円) ※以下、販売店オプション フロアマット<テキスタイル>(3万6300円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:829km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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